日本のほうが我が国よりも

 五輪が開催される日本へ向かうために選手団が待機しているホテルで抗体検査が行われていた。


 「よし全員感染していないな」


 本来ならPCR検査をすべきなのだろうが我が国には機器も人員もいないのでできない。


 「これで陰性判定として飛行機には乗れるからいいな。到着後に日本が検査をやってくれるはずだからいいだろう」


 選手団の二十名は二度の乗り換えを経て東京の成田に到着した。

 そのなかの選手の一人だけが不安な気持ちを抱えていた。

 彼は出発直前に軽い咳があったが、ずっと必死に耐えていた。

 

 他の乗客と共に降り立ち選手団だけは別通路で検査場に直行した。

 代表団のリーダーは全員の陰性証明を提示した。

 日本側の検査官は書類を確認して全員の検体を採取してすぐさま判定機器にかけた。

 結果が出るまでの数時間空港内の別室で待機することになった。

 結果が出た。

 恐れていた通り不安に思っていた彼一人だけに陽性反応が出た。

 彼はすぐ隔離され残りの選手団は合宿地の関西に向かうため国内線ロビーへと移動した。

 彼は思った。


 「日本で判定が出て良かった、母国ではワクチンもなく治療もできないのだから」


 選手団の全員は、母国より感染状況が悪い日本に来て感染するリスクは母国で感染の恐怖におびえるよりましだと考えていた。

 うまくいけばワクチンを接種してくれるだろう。

 ワクチンで競技に影響が出たとしてもメダル争いするわけでもない。

 国を代表して参加したという実績があればよかった。

 万が一重症化しても母国で治療するより日本のほうが信頼できる。

 彼は思った「全員に感染したとしても別に僕からというわけではないだろう、僕からだとしてもむしろ日本で直せるチャンスを得られたことで感謝されるかもしれないな」

 開会式まで三十日以上ある。

 どこの国よりも早めに出国させた母国の幹部はどこまで深く考えていたかはわからないが、回復後のことを考えれば正解だった。しかも無料で治療してもらえる。

 我が国のように医療が遅れてワクチンが手に入らないのであれば早めに来ればいいのにと思った。

 日本は確かに感染状況は悪く危険だ。でも僕ら数人が感染したからといって影響はないだろう。

 だってこれからもっと増え続けるのだから。

 



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