ある国の五輪

 五輪まであと一週間を残している街がざわついている。

 これまで見過ごされていたストリップ小屋が摘発されたり、ホームレスへの締め付けが厳しくなっている。

 違法駐輪の摘発、客引きなど夜の街も以前に増して厳しくなっている。

 自粛が解除されたが、予定の期間になり陽性者が減少したからではなく、飲食店の営業時間を延ばせば路上飲みが無くなり、海外向けのイメージが良くなるという。

 しかしすでに国の現状は世界に発信されているのだから、この時期に急いでやること自体が良からぬことに蓋をしているという印象にしかならない。

 たぶん五輪が終わると通常の街に戻るのか、それとも一時的とはいえ排除した影響が残り、感染再拡大を助長することになるのではないかという懸念が起きている。

 サミットから帰国した政府関係者に陽性者が出たのは先週のことだった。

 総理をはじめ濃厚接触者が隔離されることになり、政府機能が停止したまま開幕を迎えると思われたが、超法規的なのか本人の免疫力の強さなのか、発症せずに復帰した。

 開会式に出席する我が国の王は体調不良を理由に欠席した。

 先月に開催自体に疑念を表明していたが、政府が完全無視をしていたことによる意趣返しだという噂が出た。

 代理に王弟が開会宣言をすることで形だけは整えた。

 大会に参加する国々は当初予定の半分に減っていた。

 理由は様々だ。

 ワクチンを拒否する選手が多く入国できない、ホストタウンの協力がないと入国しても満足に滞在できないのに解除された、選手村の設備と感染対策に不信感、入国後に感染する他国の選手の多さに危機感を抱いた、暗に開催国の選手に来ないほうがいいと言われたなど。

 国としては参加し選手団を結成したが、選手個人が直前の不都合で参加を取りやめるという事態も少なくなかった。

 困ったのは競技スケジュールを決める部署だったが、滞在期間の兼ね合いで一部免除をして世界大会とはいえない内容にした。

 幸いに無観客といっていいほど観戦者が少なく、まるでリハーサルのような五輪本番が各地でも行われた。

 辞退者が多くようやくかき集めたボランティアもやる仕事が少なく手持ちぶさただったが、感染リスクが減るという結果になった。

 まだ大会は中盤を過ぎたところだが、自国開催にかかわらず夜にダイジェスト放送が国営テレビのニュースのスポーツ枠でしかやっていない。

 国民のほとんどは海外で二刀流人気の選手の動向だけが話題の中心になっていた。

 良かった、彼がいたことで日本は救われた。

 シーズン終了後に国民栄誉賞をという声が内閣に起きているとかないとか。

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