市民の努力で減少した感染確認数は選挙対策?

 ある国の与党総裁室に集まっているのは先週に新しく就任した新総裁と新しい役員たち。

 

 「総裁、いや総理。代議士選挙を前倒しで日程を決めたのはやはり感染者数が減少しぶり返しの来ないうちにやってしまおうというわけですな。

 最近の数字は先週と比べても半減していますし、首都にいたっては数十人にまでになっていますから。

 全国の推移を見ても一桁が続いています。

 選挙前に集会や三密を解除宣言をしておけば資金の潤沢な我が党にとっては大規模な集会やパーティーを気兼ねなく開催できるというものです。

 しかも現政権の感染対策をアピールできますからね。

 しかし選挙直前に感染者数が減ってよかったですね。これも神は我が党を応援しているといってもいいですね」


 それを聞いていた総理は、


 「まあ神が味方をしているかどうかわからんが、全国の保健所の所長が頑張ってくれたからだよ」


 「それはそうでしょう、感染予防対策などを徹底したのですから。彼らの頑張りには頭が下がりますな」


 「いやいや違うんだよ。所長達には逆に感染対策の専従職員を減らせと指示をしたんだ」


 「それはどういうことですか」


 「つまりだ、感染者数は確認者数でしかない。濃厚接触者を特定調査をしなければ簡単に減る。

 首都では結構前から実行してきたじゃないか。

 まあだから首都の感染者数は=発症者になるから死亡者も多くなっているわけだが。

 地方はそこまで余裕がないわけじゃないから真面目に濃厚接触者の追跡検査をやってきたはずだ。

 だから無自覚の自宅隔離者が多く、自覚症状のある患者は少ない。

 ワクチンは普及してきたが、それは無自覚感染者を同時に増やすと同じことになる。

 首都は地方より接種率が高いので無自覚ばかりになっているだろう。

 ただしブレイクスルー感染で発症してしまう人も少なからず存在する。

 その人らは入院するわけだが、現在の感染者数は彼らを集計したものになる。

 つまり積極的に感染者数を数えるなと。

 保健所にしてみれば数字が減ることで表向きの業務が減る上に対外的にも評価される。

 役所も保健所の所長を評価するからな。

 楽をしたほうが評価される仕組みをつくっておいたのだよ。

 ただこれはタイミングが難しかった。

 本当に感染が酷く医療体制が崩壊してしまったら意味が無い。

 ワクチンがどうにか間に合っているからこそだ。

 接種ペースと地方の動き、政治日程も考えないといけない。

 国際情勢も混乱してきているから余計に難しかったな。

 この案は前の党の役員を中心に秘密裏に画策してきたんだ。

 皆にはこの事実を知ったうえで選挙に向けてがんばってくれたまえ」


 その場にいた一同をひたすら感心していた。


 「じゃあ我々新役員はあれですか、現実の数字を根拠に現政権の有能さをアピールするだけでいいのですね」


 「そうだ、ワクチンで名目上の感染者数は増えることはない。重症化して亡くなる人はいるだろうが、インフルでも癌でも亡くなるし、ましてや事故や事件で命を落とす人は感染に関係なくいるのだから些細な問題にすぎない。

 大事なのは我が党でないとこの国はまともに機能しないのだということを示すことだけだ」


 選挙の公示2週間前のことであった。

 結果がどうなるかはまだわからない。

 

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