感染終息後の復興計画の新たなファクターの闇

 ここはある国の首相の執務室。

 与党の重鎮が集まって何やら話している。


 「総理、感染症が終息した際の経済対策が全く裏目になっていますな。

 我が党の資金援助業界の陳情で色々対応してきましたが、どれも人流を増やすだけで単に終息を先延ばしにしていると批判が高まっています。

 ようやく治療薬の目途が立っても患者数が多く、医療人員が慢性的に不足している。

 また廃業した業種も多く、それらの失業者を受け入れる職も飽和になっているうえに熟練ではないのでむしろ足手まといな効率の悪い生産性になっているというし。

 しかもだ、巷では「歴史的に五輪を開催した国は10年後を目安に国家的危機に陥る」という都市伝説のような噂も広がっている。

 確かにいくつか当てはまる事象が起こっているので信じてしまうのも仕方ないかもしれない。 

 あなたも退陣する決意があるようだが、まさか後始末を我々に押し付けて逃げる算段じゃないだろうね。」


 「まさかそんな無責任なことはしません。実は同盟国のアメリカに行く予定ができまして、向こうで話を付けてこようと考えています。」


 「それはどういうことですかな。既に退陣が決まっている人間に会って何をどうするのですか」


 「実は半年ほど前から打診はあったのです。

 20年以上続けていた紛争国から撤退を先週で完了したのは御存じだと思いますが、どうも新たに戦争に介入する計画があるそうなのです。

 はっきりとした計画は直接会った時に知ることになりますので、現時点ではどこの国で起こすかはわかりません。

 しかし我が国は同盟国として物資などを支援することになっています。

 関連産業は多岐にわたるので経済復興の助けとなるはずです。まさに戦争特需が発生します。

 第二次大戦の前にスペイン風邪と世界恐慌、同時に農地の砂嵐で破綻寸前だったのを戦争によって回復した経験が、その後の経済回復のカンフル薬として常用しているにですから効能は確かです。

 まあそれによって世界は混とんとして複雑なパワーバランスが感染症パンデミックに繋がったかもしれませんが。

 いずれにせよ、半年以内にどこかで戦争が始まります。

 我が国は直接の関与はしませんから国民から非難は起きないでしょう。

 正義感溢れる面倒くさいジャーナリストは非難するかもしれないが、現実に社会が回復すれば誰も聞く耳は持たない。

 みんな他国のことより自国、いや自分のことだけに関心があるのですから。

 世界平和で飯は食えないと心の底では思っているはず。

 まあ見ててください、しっかり話はつけて来ますから。

 これが私の最後の奉公になりますな。」


 話を聞いた党の重鎮達はもう何も言うことはなかった。

 戦後我が国を率いてきた与党として、何度も経験してきた同盟国のしきたりのようなものだからだ。

 しきたりは破ることはできない。

 我が国が国家としていられる条件なのだから。

  


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