ある国の代議士選挙の前に

 ある国の政権内部は分裂していた。

 「感染状況は戦争と同じ」と「感染対策は社会福祉で国の義務」

 前者はベテラン政治家で後者は40代以下の若手とはっきり分かれていた。

 当然のごとくベテラン勢の考えが主導的なのが現実となっている。

 戦争と同じという理屈は、国を守ることは国民自ら命を捧げ「お国の為」という彼らの周辺だけの常識のことだ。

 つまり、感染で亡くなろうがワクチンで亡くなろうが、自粛で困窮しようが自死しようが、医療従事者が疲弊しようが、全ては国を守るための尊い犠牲となってもらおうということだ。

 終息後は英霊として神社を建立して置けば治まると考えている。

 武力をもっての戦争で負け戦勝国から責任を追及されることは我が国では起こりえない。

 欧州では国民が政治家を起訴できるようだが、わが国では公務員や最終責任者である政治家には及ぶことはない。

 何故なら全ての関係部署などは政権に忖度していかないと存続できないほど影響力を与えてきたからだ。

 ここにきて警察、検察のトップの人事も思い通りにかたまってきた。

 各省庁の上級官僚も若いうちから鍛えておいたから裏切るような気概ある奴いない。

 そんな職員はすでに地方に飛ばしている。

  

 しかし最近の若い政治家はインターネット世代となってきたからか、世界中の情報などがリアルタイムで得られ、政権の息がかかった従来のメディアばかりに囲まれて都合のいい情報に守られているベテランとは乖離が始まってきていた。

 ネット世代はSNSアカウントを持っているが、ベテランはスマホを私用の電話でしか所持していない。(政治家として秘密の管理もないということでもあるが)

 ベテラン政治家のほとんどは世襲であるため、地元で応援してくれている親世代高齢者のとしか相対していなく、稀に若い世代と対話と称することがあっても、年上目線の一方的な意見を述べるにとどまり、せっかく若者の意見を得られるチャンスを無駄にし、キャバクラの客のように自己優越を満たすだけとなっている。


 若い政治家はSNSを通じて真偽の定かではない情報であっても大量に流れの中から真実と最善が自然に淘汰されるさまを見てきた。

 しかも彼らは人生のほとんどを長い不況のなかで育ってきた。

 自分らは恵まれてきたが、同世代の状況は身近に感じている。

 数回の大災害を経験し、若い命がはかなく亡くなっている。

 自死も多い我が国の閉塞感にまとわれた社会のなかで未来を見通せない濃霧の中を手探りで生きている。

 今回の感染拡大という世界同時の危機で世代の価値観の違いがはっきりした。

 残り人生が少ない高齢者ほど命に執着していて、楽しいことが期待できる若者ほど破滅的な意識が目立ってきている。

 高齢者は我が国の発展と共に生きてきて自分も貢献して毎年のように給与が上がり楽しい人生を送ってきた。

 だから簡単に死ぬのがもったいない、納めた年金をできるだけ受給するためにも長生きしなければと思っている。

 人口が最も多い世代でもあり医療の発達で元気な高齢者。

 人口の平均年齢が48歳というのが発表された時に、それ以下は若者という定義がされた。

 反対に不況のあおりをまともに受けた平均年齢より若い世代の収入は少なく家庭を持つことも困難になり、少子化で同世代が極端に少なくて友人を身近より匿名のネットに求めるようになった。

 そのかわり学校では年齢差があっても先輩後輩のような上下関係が薄まり風通しの良い関係がつくられている。

 ゆえに社会の切実な現実を知るのは当たり前。

 このまま国が維持できたとしても、土台となる国民が疲弊してしまうのは時間の問題となる。

 これが我が国だけのことなら他国に移住するなりグローバルな生き方を選べるが、今回は世界同時の危機となっているのであてにはできない。

 農業に例えるならば、より良い収穫を望むのなら良い種を良い土に撒き十分な水と日差し、雑草を抜き肥料を与えなければならない。

 高齢者は産めよ増やせよで品質は平均値を求める社会だった。

 人口の多い世代だった高齢者たちの時代は人材は使い捨てのようなもの。玉石混交なので品質の差も大きく多かった。

 結婚も常識だったので義務教育のようなものだった。

 お見合い結婚で相手との相性などお構いなく、玉と石が結婚することで生まれた子供も玉と石になるのは必然。

 高齢者が同姓婚を忌避するのは子供が生まないということが禁忌だった。

 好景気なら問題なかったが、不況下では玉が勝ち残る。石でも見合う仕事がたくさんあったが現在は低賃金労働しかない。

 勝った玉同士の子供は生まれつき玉になる。カエルの子はカエルということだ。

 ただ遺伝の不思議なことは隔世遺伝のように石からでも数世代前の玉が出てくる。

 もちろん逆もある。世襲政治家などは典型的な例になる。

 

 若手政治家たちは国民の半分にあたる世代を支援していかないと国の形態が大幅に変わってしまうと危惧している。

 一つは200年以前のような王国制のような体制になるのでは。

 貧富の差が広がり、富裕層は貴族として政治に影響力をもち、国民は市民と奴隷に分かれる。

 もう一つは移民制限を撤廃して市民権を与えるようになるのでは。

 これも米国のような差別が生まれるというより、移民のほうが生存力に優れているので圧倒されるのでは。

 それによって伝統文化の消滅などが早まるなど危惧している。

 まるで大昔の欧州での宗教からみの侵略のように。


 世代支援もそうだが近未来的に我が国は自然災害が想定されている。

 このままの状況で30年以内に起きてしまったら国として対応できない。

 人口が半減し生産力が低下し国家財政は貧しく、災害救援は他国に要請することになるだろう。

 ベテラン政治家の常識では戦後復興を成し遂げたという実績を想定しているのだろうが、彼らは戦争を知らない。親世代が頑張った基礎があったゆえにだったこと。

 占領軍が維持してくれたことも忘れているふしがある。都合のいいことだけを前面に出して悪いことは隠したがる。

 

 若手政治家たちはこれまでの常識を覆すことを考えてソフトなクーデターを狙っている。

 選挙という正当な手段ではなく裏から政治家個人を政治の舞台から降りてもらう。

 手段はいくらでもある。

 一番有効なのがスキャンダルだろうが、他国が絡んでくる事案を模索している。

 ベテラン政治家ほど個人で外国とのつながりを持っているからだ。

 フェイクニュースと判別ができないほどの真実味を帯びた情報はいくらでも作れる。

  

 しかし若手政治家たちの独りよがりんなってはいけない。

 次の選挙で国民の様子を判断しなければならない。

 現状を受け入れていくか変革をのぞむのか。

 そこのバランスと隠れているかもしれない真実を精査して行動することにした。

 選挙まで2か月を切ったが、おそらく感染は終息していない可能性もあるし更に悪化していることも。経済の復調は終息後10年はかかると予想されている。

 若い有権者は半分以下しかいない状況。

 選挙結果はある程度予想できるが、政治家の命は国民のためにあるわけで、国民の命が政治家のためにあるわけけじゃないということを忘れないように活動を続けていけば国は良くなると信じている。

 

 

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