パンデミックが異世界をつくった歴史だったのか

 百年前のパンデミックがきっかけだった。

 振興大国から拡大した新型感染症。

 抗生物質が効かない肺炎を発症し短期間で死亡する。

 しかも反対に無症状者もいることによる感染拡大によって世界経済は麻痺した。

 早急なワクチン開発が各国で始まった。

 しかしワクチンは重症化を防ぐのが役割で感染を防ぐものではなく、特に以後の変異株の発生が続いたことにより、ワクチン以前より感染拡大は急激なスピードになってしまった。 

 変異株なので重症化が増え、ワクチンの効果などなかった。

 それでも当時はワクチンだけが頼りだった。

 最初に開発したのは発生源とされる国であった。

 次に成功したのはその国の研究所で共同研究をしていた他国の製薬会社だった。

 あまりにも早い開発にいくつかの疑念が出たが、そのことを問題にするよりも実益を優先して接種が開始された。

 ワクチンはメッセンジャーRNAタイプのものだった。 

 このタイプが開発されたのはその二十年以上前で十年の動物実験の結果で認可されなかったものだった。

 しかし作成方法が遺伝子コピーなので安く早く大量に製造することが可能であったので緊急事態の特別認可が下りた。

 つまり当時の人類は大規模接種という人体実験をしたのだった。

 最初は医療関係者から始まった。 

 医療崩壊を防ぐためという名目でもあったが、副反応があってもすぐに対処できるという環境のほうが重要だった。

 しかし現実に急変したのは自宅にいるときなど勤務外なので、ほとんど恩恵は受けられず、感染症の症状ではなく急死に近いので当時はワクチンとの因果関係は積極的に検証はされなかった。

 今の時代では副反応というのが常識になっているが、当時は感染対策と接種の奨励が優先されていたので因果関係の検証など邪魔でしかなかったのも理由の一つだった。

 次に高齢者接種も始まったが、やはり副作用と思われる死亡者が多かった。しかし既往症と年齢的なものとしてさほど問題にされなかった。 

 今となっては凄い時代だと思うしかない。

 世界規模で接種が開始されて数か月後、変異種の感染が拡大した。

 ワクチンの効果などどこにいったのかと思われるほど、接種以前のデジャヴのように時間が巻き戻った。

 ワクチンは重篤化を防ぐものであって感染を防ぐものではないということを認知されておらず、各国はそれまでやっていた感染対策を以前の平常時に戻した矢先だった。

 我慢を強いられ耐えてきた人類が歓迎したのは理解できる。マスクの着用、密のを避けるなどは流行おくれのヘタレがやっているという差別まで生まれるほどだったらしい。

 無症状の人が以前より増えたことで逆にその人たちが感染拡大を増長させた。

 つまり集団免疫どころではなく逆の効果となってしまった。

 変異株は重篤化より感染力のほうが高いタイプだったので、無症状の人が近くで呼吸しただけで感染してしまった。

 しかも変異株だけではなく通常の風邪などの軽症感染症に感染するとカゼ症状以外の疾患で急死する人が目立つようになった。

 最初は微熱とくしゃみなどで経過をみていたら急激に容体が悪化し、最終的に多臓器不全で亡くなるという患者が増えた。

 これは新型でつくられた体内の抗体が暴走した結果だった。

 今だからわかっている、RNAワクチンは抗体が遺伝子レベルで人間を改造させる劇薬だった。

 しかし当時はワクチンの正当性を脅かせ国家崩壊になりかねない事案なので直接の因果関係を報道することはできなかった。

 当時の報道機関は民間であっても国の支配下にあるのはどこの国でも同じであった。

 進化した変異株で亡くなり、ワクチンの遅れてきた副反応で亡くなるというダブルパンチが襲った。

 未曽有の感染爆発は隕石が衝突したかのように人類は激減した。

 富裕層も平民も、科学者も労者の区別もなく平等に人類は消えてしまったことにより、経済をはじめ食料生産、工業生産、エネルギー生産の全てが滞った。

 つまり歴史が三百年巻き戻ってしまった。

 それから百年が経った現在、生き残ったのは当時ワクチンを性急に接種せず、遅れて開発生産された培養型のワクチンを打った若い世代と子供だった。

 しかし子供の親はRNAワクチンの被害が少なからずあったので孤児のような子供が増えてしまった。

 世界的に文明が後退したこともあり、若い世代が中心となり子供たちと自給自足のコロニーが世界各地で発生した。

 それでも文明の資料は残されていたので、生き残った人類は時間をかけて最初から科学技術とインフラを積み重ねてきた。 

 ようやく僕らが生まれた時代になって電気が自由に使えるようになったようだ。

 先人の努力には感謝しかない。

 当時の失敗により人類は学習した。

 文明は発達しすぎると滅びると。

 そういえば新型感染症が流行する前の時代の偉大な宇宙物理学者が言ってようだ。

「宇宙間航行が可能になるほどの文明が発達するまえにその星は滅びるので、未知の知的生命体との接触は不可能だ」ということを。

 なぜ当時の人類はそれを知っていたはずなのに発展させたのだろうか。

 生き残った僕らには昔の人類にはない特徴がある。

 当時ワクチンを打って新型ウイルスに感染もせず、免疫に異常が現れなかった特異体質の人類が少なからずいた。

 しかしワクチンは体内で遺伝子の改変が起きており、それまでの人類が持っていなかった能力が生まれていた。

 ある人は犬レベルの嗅覚、イルカ並みの超音波感知、鯨のように無呼吸で深海潜水、フクロウのように暗視、などだ。

 そしてそれらを受け継いだ子孫たちが交配を繰り返し更に特異な人類が生まれている。

 ちなみに僕は魔法の一つ「ファイヤーボール」を使える。

 友人は水魔法が得意だ。

 現代は科学が発達しなかったが魔法があることで失われた時代より便利な生活を送れるようになった。

 だから当時の新型ウイルスの感染による滅亡の危機は歴史の必然だったのだろう。

 そうそう、魔法の資料は百年前の小説や漫画を参考にしているらしい。

 当時から似たようなことを研究していたのだろうか。

 


 

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