コロナ中等症者テロ
コロナに罹ってしまった。
勤め先の駅ビルはクラスターが発生したようだ。
テナントの店舗もれなく感染者が出てしまった。
お客さんにも感染している可能性が高いが、濃厚接触者の追跡などできっこない。
そのうち感染爆発が起きるのだろう。
うちの店は店長以下六名のスタッフで回しているが、全員が感染したようだ。
最初は三十代の店長が体調不良を訴えていたが、勤務ローテーションを崩せないので無理して出勤していた。
しかし翌日には自宅から救急搬送されたと連絡が来た。
スタッフ全員の検査を行なったところ陽性認定された。
最初こそ自覚症状はなかったものの自宅で二日ほどおとなしくしていたが、症状は悪化するばかり。
保健所に連絡をして病院に行こうとしたが診察も看護師の派遣もできないのでそのまま自宅で待機してくださいと言われた。
夜になり呼吸が苦しくなり、いよいよ不安になり連絡をすると二時間後にようやく看護師が来たが、酸素マスクとボンベ数本、薬と簡易の食料を置き、簡単な説明をしてすぐに帰って行った。
食料は栄養バーとドリンク、ゼリー状のものなど被災した時の保存食のようなものばかりだった。
夕方なんとはなしにテレビを見ていたら(何か音がしていないと不安でしかたない)総理が記者会見をしていた。
「・・・・中等症、軽症者は基本的に自宅療養にし、重症者を速やかに医療機関に受け入れられるようにします・・・」と言っている。
はあ?じゃあ家族が看病するのか、家族に出来る人がいるのか、同居に要介護の人がいたらどうするのか、独り者はどうするのか。
ホテル療養に派遣する看護師も不足しているようで自宅でしか対処できないという。
中等症者が重症化したとして病院に早急に搬送される確約があるのだろうか。
そもそも重症化した人は自分では連絡できない、家族が不在の時ならどうするのか。
いわんや独り者は。
でも考えてみた。
重症者は病院でもエクモ装着するレベルなのだから死を待つのみらしい。
家族は最後を看取ることができない。
それなら自宅で家族に看取られることを選択する人がいるかもしれない。
中等症なら意思の疎通もできる、遺書を書くことも遺言を伝えることもできる。
内緒に外出し思い出を振り返る時間もあるかもしれない。
独り者なら酸素マスクを着けながら深夜に決死の行動にでるかもしれない。
田舎の親に会いに行くかもしれない、大事な人に会いに行ったり思い出の場所に向かって死に場所を探す旅にでるかもしれない。
自分の免疫力と体力がコロナに勝ち運よく生還しない限り死へのカウントダウンを自覚しながら時間がだけが過ぎる。
今眠ってしまえば二度と目覚めないかもしれないと思い眠ることも躊躇してしまう。
それでも何度か寝入ってしまい目覚めた時に生きていることを実感して安堵している。
ネットを見ていると同じように中等症自宅療養を余儀なくされている人達のSNS発信が回ってきた。
ほとんどが政府への不満と現状の不安の吐露ばかり。
次第に政府への怒りコメントがほとんどを占めてきた。
どこにも向けることのできない不満不安を自分たちに正当な治療の権利を奪った政府に向けられた。
そして動ける程度(とはいっても酸素マスクでもようやく)の自宅療養者が自然発生的に国会と五輪会場に集まり出した。
公共交通機関を使えないので自家用車を相乗りしたり、完全防護して酸素マスクをしていることがバレないようにタクシーを使って。
中には生配信をしながら行動している人も少なくない。
せめて自分の行動が世界に発信して認知され、ネット上とはいえ記録が残ることで生きた証を求めているようだ。
その模様を取材しているテレビなどの映像では数百人かそれ以上が集まっていると報道している。
彼らは特に騒いだり暴力に訴えることなくただ寝ているだけ。
中等症なのだからその場に来るだけで体力は無くなっている。
機動隊は彼らを排除しようとするが、コロナ患者でもあるので乱暴に扱うわけにもいかず難儀しているようだ。当然感染リスクもある。
排除したとして収容する場所がないので結局何もできないままになっている。
本当なら病院などに搬送すべきな人たちなのだから。
彼らはここを死に場所として選んだのかもしれない。
死をもって政府に示すことを最後の仕事としている。
総理は無言を貫いている。
この期に及んで言うことなど残されていないのだから、会見など開こうものなら袋叩き似合うのは必須だ。
しかも秋には選挙が控えている。
でも国民は十分知っている。
国は国民を見捨てたことを。
せめて最後まで見届けたいと私は皆と一緒に国会前で寝ながら思っている。
明日も目覚めればの話だけど。
近くでやたらと騒いでいる一団を観察していたら与党の代議士とその家族らしい。
上級国民でもふるいにかけられているようだ。
本当の上級国民は秘密裏に入院するからね。
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