パンデミック2 やっぱり日本
最近日本では、いやアジアを中心に新型の感染症が流行している。
年末に発見確認されて3ヶ月が経とうとしている。
国内では旅行やイベントが中止。海外からの観光客は激減。
大都会で流行っていたが、地方都市にまで拡散。
年代も未就学児から中高年までになって、感染経路なども不明になって防ぎようがない状態にまでなっている。
現在は感染者をどこに何人とか細かく報道されているが、国民にとってはマスクさえしていれば大丈夫、もしくはまさか自分がなるとは思ってもいない。
つまり生活パターンはほとんど変えていない。マスクが品薄状態のようだが、元々日本人の多くはマスク着用で通勤したり仕事をしている人が多かったので、そういった人々は手持ちに余裕がある。
買い占めているにはそうじゃない人だろう。それも増産されているそうだから次第に落ち着くそうだ。
都内に通勤している新卒3年目の青年の名は海川。毎朝1時間ほどの電車と15分ほどの徒歩で仕事場に着く。
神田にある6階建ての古いビルの4階まで階段で向かう。エレベーターはあるが4人で満杯になる。詰め込めば6人くらいはなんとかなるだろうが、出来れば避けたいので帰社のときだけ使っている。
ただ今朝だけは足が重い。
目覚ましで起きる時も辛かったがどうにかなったが、時間が経つにつれ体全体が重くなっている。
一昨日から微熱があったがどうにかなっていた。
普段なら4階まで一気に駆け上がるように登れたが、3階で休んでしまった。
それでもオフィスのドアをようやく開けた。
会社は事務機器の営業販売で国内大手メーカーの関連下請けのような業務。社長はべつにメーカーからの出向でもなく独立オーナー3代目。まあ携帯販売店と同じような形態だ。
すでに3人の同僚がいた。この時間ではいつものメンバーになる。
全員先輩社員になる。一人は上司で課長の川山で45歳。中途入社で8年目になる。もう1人は29歳の貝下は同じく中途で5年目になる。
課長に向かって挨拶をするがデスクで新聞を読んでいるからなのか無反応だ。毎朝のことだから気にしないようにしている。
スマホをいじっている貝下に声をかける。年が近いので比較的話しやすい。
「おはようございます」
「おう・・」
まあ何かしらSNSを確認しているのだろう。ネットニュースあたりに決まっている。コメントもけっこう残すようなので指がせわしなく動いている。
自分の席に着き予定の確認をしていると貝下が近寄ってきて肩をたたいた。
「どうした、なんか無口だな今日は」
いつもは何してるんですか?面白いことありましたかと声をかけてから座るのだが、今日はそんなことより早く腰を下ろしたかった。
「なんか今朝から体が重いんですよ」
「熱とかあるんじゃね、計ってみたのか?」
「いやー、体温計が無いからわかりません」
これまでの経験上たぶん37度は超えている。もしかすると38度はいってるのかもしれない。
そんなそぶりを見せないように明るく答えてみた。
「まあ辛そうなら薬でも飲んでこいよ。持っているのか」
「いや無いので後で買いに行こうかと思っています」
今日の予定は都内の取引先へ行って契約の最終確認がある。担当者として他の人には任せられない。自分の成績になるのだから。
しかも1年ぶりの仕事らしい成果を得ることになる。
ここんとこ課長からあからさまに叱責を受けてきた。営業は成績が全て結果が全て。しかも新卒3年目となる身となれば期待もされるがお荷物ともされる。
同僚のほとんどは中途が多い。皆それなりに経験を積んだタフな人間ばかりだ。
最初の1年は新人教育という名目だったがしっかり売り上げ目標をつけれられた。まあ他の人の半分以下ではあるが。
半分でも到達できず2年目に入って目標が倍になった。期待値とノルマ。前年よりは売り上げは上げたが目標額からすれば半分だ。
3年目の今年もそろそろ終わり4年目に入る。
今日の売り上げが決まれば目標の8割になる。
自分の時間を全て潰し、帰社後や休日に相手先の場所や内容や地域の情報をまとめた。勤務時間内にやると効率が悪くなるからだ。
いや時間単位で考えるとおかしな話になる。時給に換算すると数十円だろう。
体は辛いがどうにか取引先に向かった。途中で咳止めを買って飲んだ。
先方に着く頃には咳は止んだが体は更に重たくなっていた。
息が苦しいのでマスクはしていない。咳をしていないから問題ないだろう。寒いのでマフラーを口元に巻いて行く。
商談は無事に済んだ。金額的には大きくないが長い付き合いにはなりそうな気がする。
帰社後すぐ課長に報告に行った。
「課長行ってきました、無事完了しました。これから発注をします」
課長は書類に目を離し椅子の背にもたれて言った。
「海川君の予算達成率はこれでどれくらいになった」
「えーと8割以上は・・」
「で残り2ヶ月で達成するにはどうなのさ。温めている案件はある の?」
「あるにはあるんですが詰めるところまではいっていません。親しみというか何かあったら優先的になる程度が10件以上はもっています」
「それすぐどうにかしてこい、2件くらいならなんとかなるんじゃないのか」
「そうですね、頑張ってみます」
そう言うしかない。正直すぐどうにかなるとは思えない。現状の機器を修理したり中古でどうにかしているところがほとんどで、新製品はもちろん修理でさえ少ない。余裕がないのはどこも同じだ。コピーでさえ5円でできるようになった。プレゼンも個人のタブレットで済む。
「課長、明日午前中に病院に寄ってきますので遅くなります」
「おまえさ、ただでさえ時間が惜しいのに勤務時間中に行くなよ。明後日に休みがあるんだからその時に行け。薬でも飲んで栄養ドリンクや錠剤でなんとかなるはずだ。俺の若い頃はみんなそうして数字を稼いでいたんだ」
「わかりましたそうします・・」
自分の席に戻り残りの仕事をどうにか処理して帰宅した。
買ってきた解熱薬と栄養ドリンクを飲んで早めに寝た。
翌朝、寝坊した。体が痛いというか硬い重い。
電車の時間を1時間ほどずらした。
会社では溜まっていた書類仕事や発注のメールや電話だけにした。とてもじゃないが外回りに行く気になれない。椅子から立ち上がるのも無理だ。
オフィスには課長と事務員の女性が1人しかいない。薬が効いているのか咳の回数が減って電話も大丈夫だった。
早く帰りたい。定時までが長いと思いながら耐えた。
休日になりようやく病院に来れた。
個人病院というか土曜日の午前でもやっているクリニック。
診察で症状や経過を知った先生は少しあきれた表情で言った。
「なんですぐ来なかったんですか、詳しい検査をしますから今すぐマスクとアルコール消毒をしてください」
検査結果はコロナの陽性だった。
救急車で感染対応できる病院に運ばれた。隔離である。
誰にも連絡ができないまま時間が過ぎた。
ようやく体勢がかたまって親と会社に連絡ができた。
会社にしばらく出社できないと伝えたら同僚の貝下が電話に出た。
「何、お前もコロナか。課長をはじめみんな陽性らしいぞ。昨夜連絡が来てここは閉鎖になったよ。俺は出張中だったからさ大丈夫だったけど、さっきまで消毒作業」
それを聞いた僕は自分だけじゃないことに安堵したが、まさか日本中がそうだとは思っても見なかった。
これが日本崩壊のきっかけになるとは。
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