新興宗教 コロナ教

 ここはとある街の公民館のホール。性別も年代も様々人々が50人以上は集まっている。

 ただ一般的な雰囲気は無く、それぞれの感覚が2メートル均等に離れている。

 顔にはガーゼの布マスクを着けて静かに正面を向いている。

 足元には立ち位置を示すテープが貼ってある。乳児を抱えた母親はそのままだが、歩けるくらいの年齢の子供を連れている家族連れは離れて立っている。

 正面のステージにはポンプ型の消毒スプレーボトルが置かれている。周囲は透明のビニールカーテンで囲まれ、その前には布製のガーゼマスクが小さな座布団のようなものの上に鎮座している。

 するとステージの上に一人の女性が現れた。年齢は60代前半に見える、髪はユルふわに白髪染めの栗色、暖色系の大きな花柄のジャケットと黒のスカート、ネックレスの代わりに老眼鏡が胸にかかっている。

 

 「みなさんようこそ今日のお祈りに集まっていただきご苦労様です。時間も限られていますので早速始めたいと思います」

 

 女性は両手を前に出し手のひらをすり合わせてから上に掲げ叫ぶ「しょーどく!」

 集まった人々も同じように手をすり合わせ復唱する「しょーどく!」

 これを10回繰り返した後に集まった人々が列を作り女性の前に並んだ。やはり2メートルの間隔を空けているのでホールを3周するくらいの長さになっている。

 「本日お配りするアベノマスクのレプリカはお布施と引き換えになります、箱の中に入れた後受け取ってください、そして新たなお仲間にお渡しできますようお願いいたします」


 この布マスクは数百年前に地球を襲い日本を壊滅させた新型ウイルスに対抗してその時のリーダーが全国民に配ったあのマスクのレプリカ。今では教会のお守りとして、キリスト教の十字架のようなシンボルとなっている。

 ほとんどの人が不織布マスクのところをガーゼの布マスクをしていれば「あーあそこの宗教の人だ」とわかってしまうほどになっている。

 消毒ボトルは御神体、透明ビニールシートは鳥居というか結界、戒律はソーシャルディスタンスで2メートル保持、誰かが近づいてきたら離れなえればならない不自由なものだ。他の宗教でも避妊が禁止とか肉食禁止があるように守らなければ信徒とみなされない。

 2メートルに縛られないのは子供を作るときだけで、デートや食事も距離をとっているので恋愛結婚はメールなどで親しみを育て、もしくは信者同士の紹介で当日の夜に会うだけになる。


 「みなさん、私たちコロナ教は人類の危機を乗り越えさせてくれたショウドク様とアベノマスクの御利益により平穏な日々を送り続けることができました。もし感染したとしても常にアベノマスクとショウドク様を拝んでいれば天国に召されることは確実です。さあ、この幸せな教えを多くの人々に広め安らかな世界を作りましょう」


 集まった人々は両手に持ったアベノマスクを頭上に掲げ、手のひらですり合わせるお祈りをしながら同時に叫ぶ「しょーどく!しょーどく!しょーどく!」

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