コロナ重症者病棟計画

 例年ならクリスマスセールが始まっている時期だが、今年はどこもやっていない。

そんな、ある県の知事室に朝一番で報告に来た男が恐縮した声で


「夏より計画建設しておりましたコロナ専用病棟が明日に完成ますが、募集職員が半数にも満たないままになっております。このままですと一部のみの稼働になります」


 数秒の沈黙の後に椅子から立ち上がって叫ぶように

「アホか!!寸前になって足りないとかどうすんじゃい!」

部屋の外にまで聞こえていた


 男はうつむいて答えた

「募集は県内ばかりでなく全国の職安や求人サイトに載せておりましたが、コロナ専門ということである程度ベテランで有能な看護師や技師はそもそも少なく、重症者は高齢者が多いので病床数の数倍の人員が必要という一般病院より確保が困難というのもあり、また報酬も特別高額にできませんので致し方なく存じますが」

 

 男は一呼吸を置いて

「土地が高額だったうえに建設納期を早めるためにプレハブでしたが作業員を倍増して突貫工事を無理しておこなったので工事代金も高額になったのです。潤沢な予算でしたが最終的にはギリギリです。

新たに予算を組んでいただけないとこれ以上は無理です。

 しかも他県の新設コロナ病棟にあるはずのエクモが一台もありません。これでは重症者の治療ができない名ばかりのものになってしまいます」


 知事は声を落として男に告げた

「それはいいんだ、プレハブだろうが職員や機器が足りなかろうが問題ない。この病棟は重症者専門だ、

つまり治療のかいがなく亡くなるのを待つだけの患者ばかりだ。

エクモなんか使ってみろ、無駄に時間が経って死ぬのが長引くだけで意味がない、回転率も悪くなる。

県内の病院が対応しきれない要介護の高齢者患者を集めるための施設に過ぎない。

まあこんな話は公にはできないが、これが現実だ。」


 男は黙って聞いていた

「わかりました、それでは一部稼働ということで開院とさせていただきます」


 開院後に警備員が増員された。各病院で選別された要介護患者を搬送後に院内を完全に立入り禁止にするために。表向きはコロナ感染対策だが、実態は院内でまともな治療が行われていないことを秘密にするために。そのため職員は少ないほうが都合がいい。知事の叱責はいつものパフォーマンスでしかないことを男は理解していた。

 募集は続けるが給与は並みだからこれ以上来ることはないだろう。他の病院が不足しているのに来るわけがない。火葬場に運ぶための効率的な仕組みを考えなくては。


 

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