新しいエリート教育ー勉強学歴より「嘘」の才能

 以前から思っていた。

 この人間社会、特に日本は他人を疑うのは失礼だとか、偉い人の言うことは間違いない、テレビや新聞は正しいことしか報道しないとかが一般的な道徳のようになっている。

 でも実際は嘘を重ねるほど大きくなる政治家や企業、スポンサーの意向に沿った報道をすることが社会で正しい生き方であると、大人になってから先輩や上司から学ぶ。

 それに違和感を感じて疑うことから始める人間は周囲から疎まれる、結果出世はしないし組織から離れることになる。

 つまり嘘を上手につけて罪悪感をまったく抱かない人間を育てれることが最高の教育になるのではと考えた。

 勉強はある程度でいい、ただし国語だけはしっかり勉強して言葉を覚える。

 正しい嘘をつくには文章を上手に理解でき発信する必要がある。

 英語の長文読解と会話に近い能力と同じといっていい。

 昔は子供に嘘は泥棒の始まりとかと言って戒めたが、現実は泥棒のような仕事が一番儲かる。

 大人の世界では利権とか搾取とかと言い換える。

 大人にとって子供が嘘をつくと管理するのが困難になるので聞き分け良い素直ほど楽なだけ。

 子供の嘘で親が苦労したり問題を抱えないための予防策としてだ。

 そのまま真っすぐ良い子に育ち大人になると、嘘が上手な人間という親のような人たちに支配されるだけの国民が増えて、一部の嘘上手が支配するという構造になる。

 そう、嘘上手こそ立身の必須スキルなのだ。

 反対に自分が嘘に惑わされないようにしなければならないのも当然だ。

 自分だったらどうやって自分を騙すかと相手を観察して思考する。

 生まれつき嘘が上手な人間はいる。運動神経や芸術と同じようなもの。

 顔や仕草に性格は現れるし、趣味嗜好にも参考になる。

 一番はっきりしているのは声だ。

 人間が嘘をつくときは少し声質が高くなる特徴が出る。

 テレビショッピングなんかはわかりやすいし、セールスマンの話ぶりなんかをみればわかる。

 もちろん彼らは嘘をついているわけではないが実際より大げさにアピールする。

 事実ではあるが真実ではない。そこには個人の感じ方の差が出るからだ。

 生まれつき嘘が上手な人は本当にすごい。

 嘘を真実として信用させることができる。

 真実にさせる材料をできるだけ多く用意するのが大変だが、それを簡単にやってしまう。

 有名人の話をしたり、どれだけ多く人が利用しているとか、社会への影響力や数字まで細かく。

 つまり総合力があってこその嘘上手となれる。

  

 実技は勉強でどうにかカバーできるが問題は精神面の構築。

 善良な人間を騙すようなことを並べて自分の利益にすることへの罪悪感を感じないようにしなければならない。

 親が子供に嘘のつき方を教えるが、それが親の不都合になってはいけない。

 そのため他人に対して嘘をつくように教える。

 うまくいけばご褒美を与えていけば子供なので遊び感覚で急成長するし、親公認なので罪悪感も生まれない。むしろ褒められる良いことだと。

 嘘だけで生きていけばそれは単なる詐欺師という犯罪者になってしまう。

 嘘をつくことが最も有効な生き方を選ぶ。

 運動神経がいいとプロスポーツ選手になるようなものだ。

 官僚から政治家になることが最適だと思うが、広告代理店なども捨てがたい。

 しかし代理店は最初に嘘の洗脳を受けてしまい滅私奉公のような働き方を求められる。

 それは嘘上手の人間の生き方とは反すること。

 だから早めに先輩と同期を消して、新しく入社する後輩をうまく使うようにならなければならない。

 真っ当な心を持ってはいけない。

 身内以外は排除すべき存在だと教えてたことが生かされる場面だ。

 

 僕はこれらの考えを広めるために塾を開いた。

 親子で参加を義務付ける。英会話塾と進学塾と教会のような感じと想像してもらいたい。

 講義と実践、それと課外でのルールを教える。

 講義は必要とされる文章や会話の仕組み。

 実践はセールスのようなロールプレイング。

 課外ルールは犯罪にならない線引きの説明だが、主に法律関係となる。

 嘘は一般的に犯罪になるが例外が多くあるから成り立っているのが社会というもの。

 そこのさじ加減や方法によって抵触しなかったり秘密にさせる。

 それは人間関係の構築だったりが重要で、要は裏切らない仲間や従僕(しもべ)で固める。

 失敗した人が最後に辞任したり逮捕されるのは当たり前。

 もっともそれは、登山や冒険で装備が足りなかったり天候を予測できないとか、野球の試合で先発オーダーを間違えるのと同じこと。

 成功する嘘をつくことは簡単な事じゃない。

 ほとんど人は善人になり学校の勉強を頑張り友達と仲良くしていけば幸せな人生を歩めると信じている人がほとんどだろう。

 僕もそうだった。

 しかし現実の大人社会を見せつけられて対応できていない多くの人々がいる中で、本当に必要なことはそうじゃないと思った。

 他人より成績がよければ良い大学に入り豊かな生活を送れる。

 確かに一部の目だった人はそうだろう。

 しかし埋もれて声も出せない人の多くが善人とされている人ばかり。

 だからと言って全ての人が嘘上手になればおかしなことになる。

 僕にはまだ嘘に対する罪悪感が残っていることが残念でならない。

 幼いころから嘘の勉強をしておけば良かったと後悔している。

 

 嘘を上手につくというのは誰にも真実を知られることが無くすべての人が疑うことのないまま人生を全うするのが幸せな人生だということだ。

 知って良いことと悪いことがあるなら悪いことは知らないほうがいいに決まっている。

 信じる者は救われると古からの常識なのだから。

 

 

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