クリスマスの時期 「クビツリー」がある北の街

 最北な街に来た。

 今日はクリスマスなので寒いと思っていたが想像以上に気温が低い。

 駅前にある気温計はマイナス20度になっている。

 時刻は夕方、街を歩く人も多く見かける。

 クリスマスの飾り付けが街路樹を飾っている。

 でもよく見ると何か大きなものが何本か下がっている。

 近づいてみると人間のようなものに服を着せて、首からロープが樹に括り付けられている。

 なんて悪趣味なんだろうか。

 クリスマスと言うよりハロウィンのようだ。

 もしかして先月からそのままなのだろうか。

 道行く人に訊ねてみると、

 

 「ああ、これはこの街の名物になっている「仕打ち(しうち)」だよ」


 シウチとはなんだ?人形の名前なのか。


 「これはね、路上で女性が襲われたり、ひったくりとかがあったら、それに気が付いた周囲の人たちが助けに行くんだけど、その場で首にロープを結んで樹に吊るすんだよ」


 はあ?何を言っているんだこの人は・


 「だからほれ、あちこちにロープがあるだろう。3人くらい集まればすぐに犯人を押さえつけられるからね。簡単なものだよ、僕も一度だけ遭遇したけど、慣れた人がいたので僕は足を押さえつけるだけで首にロープは結べなかったな。次こそはと思っていつも歩いているんだけどね。通りがかった車の人のほうが早くてね」


 なんという話だ。この街では「私刑」が行われている。


 「いやでも冬の寒い時期しかやらんよ。腐ってしまうからね。冬なら凍るから問題ないし、カラスとかが春までに食ってくれるのでゴミにもならなしな」


 僕は疑問に思ったことを訊いてみた・


 「警察や裁判をしないで民間人が勝手にやって大丈夫なんですか。それこそ過剰防衛とか殺人とかにならないのでしょうか」


 「何言っているのさ、ここは「特区」なんだよ。国からはむしろ積極的にやってくれとさえ言われている。そのうちあんたの街でも始まるんじゃないかな。

 ここでは犯罪者も命懸けだから急速に治安が良くなってね、深夜だろうと女性や子供が一人で外出して安全な街になっているよ。

 しかも、別にレイプや強盗以外でもてきようされるからね。

 例えば、ベビーカーを押している母親や妊婦、泣いている赤ちゃんに対して怒鳴ったり邪魔をしたりとかも同じ目に合うし、煽り運転もすぐに囲まれて運転手が引きずり出されるしね。

 ほんと、暮らしやすい街なったよ」


 僕はあまりにも衝撃が強かったので最初は理解できなかったが、話を最後まで聞いていると納得した。

 「じゃあ街はもう安全になっているのですね」


 「いやいや、春から秋にかけて再び犯罪が起きるんだよ。件数は昔より多くないけどね。

 そいつらが昨年のことを忘れているのか冬になってもやっているからね、結局は毎年こうやって首つりが並ぶってことさ。

 まあ解禁日は前日に発表されるんだけどね。だいたい12月の初旬で一日中氷点下になる日を開始日になる。終了日は逆に暖かくなる日だな」


 冬季間ずっと服を着た死体が街路樹にネオンと一緒に飾られる街。

 テレビやネットでの情報が規制されていて、現地に行かなければ確認できない街。

 でも全国には無理だよな、南国は凍らないのだから。

 そうだから来月は南に行って同じような特区に行く予定だ。

 画像や動画は公表できなくても文章なら許可されている。

 さて「クビツリー」の写真を撮りまくってホテルに向かうとしよう。

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