宇宙介護
ロケット発射時刻まで数時間、今回登場するメンバーが記者会見をしている。
操縦士3人以外のメンバーの年齢は70歳を過ぎた男3名、女性7名。
全員が車椅子でロケットに乗り込むまで介護士が付添っている要介護5。
彼らが向かうのは月面に完成した施設。
数年前から人類の移住計画が進められてきた。
当初は研究者がほとんどだったが、重力が地球の6分の1という環境を利用して老人介護、もしくは車椅子生活者などの障碍者に適しているのではないかという議論が生まれた。
現在月面には研究者の他に資源採掘のプラントと従業員が期間限定で居住している。
しかし彼らは地球に帰ることが前提だが、今回のメンバーは命尽きるまでという確約になっている。
最初の本格移住者というある意味実験というか生贄として。
記者が質問をする。
「今のお気持ちはいかがですか」
中央に座っているアジア系の女性が答える。
「楽しみかないですね。重力が少ない生活はとても楽だと思いますし、地球を見ながら最後を迎えられるというのは地球に生まれたと実感できるのではないでしょうか。
私たちは健康状態が良く、発射の衝撃に耐えられると選ばれましたが、誰もが安全に行けるようなカプセルを使用することになっています。
うまくいけば、健康状態が悪い人でも最後は月で迎えられるようになるでしょう。
子供の頃は夢でしかなかったことが、まさか老人になったことで実現するとは。年を取るのも悪くないですね」
計画ではピストン輸送で要介護の人類を送り出す。10万人を目安に施設を増やし街を形成させる。
そして安全性やインフラなどのシステムがしっかり稼働していることを確認して一般の人類が移住する。
例え途中の不具合で事故などが起きて人命が失われても残りわずかな高齢者を中心に生活をしてもらうので喪失感は減るというか、それを前提しているのだから。
月面では介護士がいなくても自力で移動したり生活ができるようになっている。
誰に迷惑をかける心配もなく、さらに人類の進歩に貢献できるという使命感をもてるので、全員が何の憂いもない
たぶん彼らは地球では長くて5年、短くて1年以内に亡くなることだろう。
しかし月面では重力が激減したことで血圧低下やなんらかの影響で長命になる可能性もある。
あれから10年、地球は荒廃して人類をはじめとする陸上生物の半分以上が滅びてしまった。
月面で人類が移住していたので滅亡だけは避けられた。
しかし月の全人類の8割が高齢者という超高齢化社会になっていた。
残り2割も壮年がほとんどで、子供を産み育てることができる若者は数人ほど。
たぶん絶滅するのも時間の問題だろう。
地球時間80億年。
地上では新たな文明が栄えていた。
彼らはいずれ空に浮かんでいる月に行こうと科学を発展させることだろう
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