テレポート実用化
テレポートが日常に浸透した時代の話。
ここ数年でテレポートシステムが生活にすっかり馴染んでいる。
僕のようなスマホネイティブ世代からすると隔世の感があるが、今では当たり前となっている。
祖祖父母の時代はネットがテレビ放送を衰退させて生活が様変わりし、祖父母の時代には無人配送の宅配が主流になり住宅も対応した造りになり、父母の時代には車の移動は無くなり、地上は地下トンネルを座ったまま目的地に運んでくれる(しかも個人から家族単位で)。
海外など長距離や長時間移動は飛行機ではなく沿岸海域の海面上に自動発電装置で動く真空トンネル内を音速の10倍で移動できるようになっている。
10倍だから秒速3キロ以上、単純計算で1時間もあればどこの国にでも行ける。
強大な加速Gはどう克服したのかは素人では理解できないが、どうも機械的というより薬品で体内の影響を一時的に耐性をつくるようだ。
そして僕らが学生時代には月面移住が本格化して、祖父母が余生を送っている。
子供が大人になった現在はSFの話といわれていたテレポート移動が実用化している。
おもに生命体以外での活用が盛んになっている。
例えば、一度身につけた服をテレポートさせてクローゼットに仕舞う。
それだけでも十分便利だが、メモリー機能で再び一瞬で着ることができるようになる。
メイクにも応用できるので、女性達は一度しっかり丁寧な仕上がりをさせておけば何度でも完璧なメイクができる。
ただし一度崩れれば使えないので、時間のある時にストックさせるのが女性のたしなみになっている。
しかし太ったり痩せたりシミシワができれば完全にフィットしないのが欠点になるので、各メーカの進歩を願っているようだ。
生命体は食品として加工された有機物なら問題なく可能なのだが、人間を含む動物は認可されていない。
理論的には可能で、マウス実験では成功しているようだが倫理上の問題が解決していない。
つまり100%安全性が確約できないうえに、遺伝子やその他の影響がいまだに不明だからだ。
どうも、国によっては秘密裏に終身刑や死刑囚を使って実験をしているような噂も聞くが定かではない。
今のところ短時間で移動できるので早急に解決する問題ではないということもある。
物資の輸送に膨大な化石エネルギーを使う必要がなくなっただけでも人類に貢献している。
だけど僕は最近よく思うことがある。
このまま科学が進歩していくと人類の存在そのものが意味不明になるのではと。
どこに行くのにも歩くことが無く、他人ともすれ違わず出会うことも無く。
景色を眺めるとかの時間が無駄という価値観になるのでは。
モニターを観るのと同じ感覚で現地の景色を直接見られる。
子供の頃に比べほとんど2足歩行をしなくなったので、自宅内でも座って移動している。
それは小さな子供も同じだ。
親が座っていれば子供も一緒に異動するのだから。そのうち自分専用の移動装置を祖父母がプレゼントしてくれる。
大昔はランドセルというバッグを買い与えるのが伝統だったようだが、今は学校もネット授業でアーカイブされているし、クラスメイトとの活動は週に一度バーチャルでやっている。
屋外には大昔のように安全で広い公園や施設は無いのだから仕方ない。
僕らが子供の頃は屋根付きの施設があったが、そこは現在水没している。
そう、今から10年前に地球の海面が上昇した。
それは温暖化というものではなく、世界じゅうの海底火山が爆発したからだ。
大量の溶岩と噴石噴煙が舞い上がった。
噴火は2年ほど続き、航空機は飛べなくなり、亜氷河期のように寒冷化してあらゆる生物が減少した。
人類はどうにか科学の力で生き残ったが、噴火が収まったと言えども海流の変化で気候が乱れ、従来の作物や伝統的生活が消えていった。
たまたま、その危機的な時代にテレポートが実用化になったのは奇跡のようなことだった。
気候が変化しようとも、適した土地や国から物資が流通できたからだ。
このうえなく便利な世の中になってしまったことを議論も無く慣れる時間も無く急速に受け入れてしまった。
本当なら絶滅しかけて時間をかけて復興すべきことが地球の理(ことわり)なはずだ。
もう昔のような生活には戻れないだろう。
不便な時代を知っている僕らが死んだ後にもう一度災害が起きたら人類はそこで一気に滅亡するのか、それとも宇宙に逃れるのか。
自分の足で動くことが無くなった人類は、見た目宇宙人になっているだろうな。
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