国王制のまま戦争へ

 ついに戦争が始まった。

 象徴性とはいえ国王制があるのにかかわらずだ。

 国王は反対の意思を示す代わりに新政権の承認を行わず国会への臨席も欠席された。

 100年前の戦争で我が国はA国に負けて占領されたが、国王制を維持する代わりに新憲法が制定され独立国として国際的に承認された。

 もし国王制がなければ完全に支配されA国の領土となっていたはず。

 実質的にはA国の傀儡として共産主義との防波堤として機能している。

 新憲法は平和憲法とされ二度と戦争はしないと宣言されているが、現実的には緩衝材としての役割でしかない。

 一触即発はできないというアピールのためであって平和を担保されているわけではないが、国民は子供の頃から教育されているので戦争など我が国には未来永劫無いと信じている。

 しかも敗戦国であることを忘れさせ自尊を生み出す言霊なので疑うこともしない。

 

 政権は国王を軟禁することで戦争に突き進んだ。

 実際はA国の指示通りに動いているだけにすぎない。

 国会は従来通りに開催することなく、与党の独裁で進められ国家動員法が可決された。

 国内にA国の軍隊や兵器が配備された。その中には核兵器も含まれている。

 国民は戦時下ということで徴兵が行われた。

 最初は予備兵を70歳まで強制招集し、順次独身男性が徴兵された。

 大学の運動部出身やマラソン大会などの名簿から無作為に選ばれた。

 国民総番号制がここで活用された。

 普及率は半分もいっていないが、登録している国民は国に従順なタイプが多いということで。

 反権力思想をもっている国民は最悪な事態を想定した場合に最前線の弾避けとして温存させておくらしい。

 今回の敵国になったC国は数年前から始まった欧州紛争の混乱に乗じているようだ。

 欧州でA国が支援している国が戦っている国のR国はC国が裏で支援している。

 C国はA国の力を分散させるためと長年の懸案だった領土問題を終了させるために宣戦布告なしに侵攻が始まった。

 通常は宣戦布告なしで戦争は国際法違反になるが、過去の因果から不要と判断しているようだ。

 だから戦争であっても両国は侵攻と防衛としか言っていない。

 すぐさまA国は侵攻されたT国を支援するために参戦した。

 我が国はT国と友好国であり最先端技術の依存先でもあるのでA国と同調して参戦した。

 もちろん最初からそのつもりでのことだが。

 C国は我が国にあるA国の軍事拠点を攻撃するといういわゆる本土攻撃を開始した。

 しかも欧州で戦争中のR国の海軍と空軍が参戦し、国土全域が戦地となっている。

 国内は輸出入が全て止まり、国内の生産物流も機能しなくなった。

 エネルギーはどうにかA国の支援でどうにかなっているが経済は全く動かなくなり、企業は給与の支払いを止め休職とさせ、食料事情も壊滅的に滞った。

 疎開や避難をしようにも行くべき田舎には限界があり、ほとんどの国民は留まっている。

 川に水を汲みに行き現金で買い物をする。

 ガソリンはあるので車はあるが故障を修理するのは現金のみになっている。

 電気やシステムは生きているが決済に必要となる現金でしか通用しない。

 金融機関に殺到しているが少額の紙幣か貨幣でしか生活はできない。

 大金がいくらあっても役に立たない。少額の買い物に大金を払ってもお釣りが無いという状況。

 そのうち貨幣を売る闇の商売が出てきた。

 額面の100倍1000倍で取引されている。

 富裕層が優遇されそうだが実際はそうでもないらしい。

 彼らの財産の多くは不動産や証券などで、財産を現金で買ってくれない限り用意できないのだ。

 この時勢でそういったものを欲しがり現金をそれだけ持っている人間など数えるくらいしかいない。

 戦争が長引くほど貧富の差が無くなるかもししれない。

 いや単に平等に疲弊して国が亡びるだけだろう。

 その時この国土はどこの国のものとなっているかは誰も知る由が無い。


 

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