お一人様野垂れ死にツアー あるツアコンの呟き

 僕の仕事はツアーコンダクター。

 団体旅行の企画運営と現地ガイドをしている。

 今回のツアーも季節ごとに企画して大好評、かもしれないと勝手に思っている。

 なぜなら参加者とはツアー後に接触することはほとんどないからだが、毎回定員をオーバーしている。

 だから同じようなツアーを場所を変えてやっている。

 僕が今回同行しているのは南の無人島。

 季節は冬だが、ここは夜でも20度を超えて過ごしやすい。

 個人的にここに来るのは1年ぶりになる。

 正確に言うとガイドとして来るのがだが。

 10カ月前に前回のツアーの後片付けで、同僚と数人で来ている。

 

 今回の参加者は10名。男性8名に女性2名。

 年齢は70歳以上がほとんどで、今回は珍しく50代の男性と20代後半の女性がいる。

 高齢者とはいえ皆健康で体は丈夫なようだ。

 この島は無人島だが周囲が100キロ以上もあり、砂地はわずかで崖が多い。

 元は火山島だったようで高い山がそびえている。

 ツアー一行は数少ない砂浜にボートで上陸する。

 そこでキャンプをして翌朝から目的の行動を開始する。

 まずは全員で島内のポイントを巡る。

 それを三日で終了し、その後各自が選んだポイントを目指して単独行動をする。

 つまりソロキャンだ。

 ただし超本格的なサバイバル生活になる。

 道具はナイフのみで放たれる。

 普通の人はこう思うだろう。

 「危険だ、ましてや高齢者や女性がやることじゃない、無責任だ」と。

 そう、僕らが仕事として請け負うのは島へのアクセスだけ。

 ここからは参加者の自由行動を無期限にさせている。

 帰りはどうするのか?という疑問もあるだろう。

 参加者は死ぬまで島にいるつもりだ。

 つまり人生の最後を独りで迎えるために。

 もちろん途中で帰ることも可能だが、早くて1か月後、遅くて1年後になる。

 こうやって次のツアーで来ない限り接触はできない。

 今回は浜に迎えてくる人がいなかったので帰る意思のある人はいないのだろう。

 これまでも誰一人現れた人はいなかった。

 どこかで生活しているか亡くなっているか。

 ツアーで現地解散した2か月後に再び来るのは意思の確認と亡骸の埋葬のためだ。

 ツアーごとにエリアを決めているので、参加者の居場所は把握している。

 そして多くの人が2ヵ月の間に亡くなっている。

 暖かいので腐敗が進んでいるものもあれば、直近で亡くなった人もいる。

 この島は哺乳類はネズミのような小型種ばかりで、ほとんどが鳥類の生態系になっている。

 昆虫類は豊富なので亡骸の分解は遅い。

 数回後のツアーのために土に埋めたりして見えないようにする。

 名簿があるのでどこの誰の体か把握しているので、契約している医師に死亡診断書を書いてもらい戸籍の役所に届けるまでが僕らの仕事になる。

 全く遺体が見つからない場合があるが、たぶん海で亡くなった可能性がある。

 もちろん水死として扱う。

 

 この島は人生の最後を迎えるだけの場所。

 言い換えれば死ぬための島。

 細かく言えば独りで朽ち果てるため。

 現代社会は生きるのも死ぬのも難しくなっている。

 病院では尊厳を無視した死なないための治療をさせる。

 施設では死なないために行動制限をさせている。

 住む家はあるがわずかな年金と物価高で苦しい生活。

 施設に入って生活保護で生きても楽しみは制限される。

 自殺は周囲に迷惑をかけるしできない。

 葬式費用と墓を用意できない。

 そんな人々ばかりの世の中。

 科学技術が発達し生活は便利になったが、恩恵を受けているには若い世代だけ。

 ついていけない人々にとっては不便でしかない。

 全ての情報が携帯端末になり現金はほとんど流通しなくなった。

 対人関係が希薄になり自分の存在を確かめる術はネット上にしかない。

 特に高齢者にとって生きずらい時間が続いている。


 僕らはそんな人々を安らかに最後を迎えることができる環境を提供する。

 積極的に島で死ぬのもよし、しばらく自力で生活しながら自然死を待つのもよし。

 人間は飢餓状態になると苦しまず死ねるようだ。

 途中で怪我や病気、不慮の事故で望まない最後もあるだろう。

 誰にも看取られずに死ぬことを美しいと思っている人もいるようだ。

 ここは南の島だが、北の極寒地のツアーもある。

 腐敗を避けてきれいな体のまま凍りつきたいとか特殊な目的の参加者ばかりのようだ。

 はるか未来に発見されて歴史資料として保存されることを望んでいる人もいる。

 所持品も時代を現わすものを抱えながら亡くなるようだ。

 まるでタイムカプセルとして。

 同じような考えで砂漠のような乾燥地帯のツアーも人気がある。

 こちらはミイラとして残りたいようで、棺の持参が多い。

 どれも緩い自死を目的としているのが共通している。

 死を自分のタイミングで決めないという。

 その時までの時間を楽しむかのように生きる。

 そして若い時のように疲れて夜に満足して眠るように。

  

 

 


 

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