第56話 下鴨納涼古本まつり
夏休みの宿題が大体7割くらい終わって、今年は去年以上に計画通りに進んでいるな、と満足しているうちに、ひなのさんとの下鴨神社デートの日はやってきた。
私は生まれてこの方、古本市というものに行ったことがない。一番近そうな思い出であるのは骨董市。それには小学生低学年の頃にお爺様と彼の盟友政治家の家族一同に連れられて行ったことがあったけれども、一番記憶に残っているのは、例の孫娘の『お嬢様』にジュースをご馳走してもらったことだ。幼少期の記憶ってヘンなのが妙に残ったりするよね、本当に。
今となっては骨董市も十分に楽しめそうだが、しかし古本市は未知数だ。とはいえ、そんなに心配はしていないけどね。興味はあるし、ひなのさんも居るし。
でも、京都でお祭り関係のイベントに行くのは初めてだ。超有名なのだと7月に京都三大祭りの一角である祇園祭があるにはあるんだけどさ、
ただ混雑が予想されるので、日傘はかえって邪魔になりそう。ということで今日のデートコーデには帽子を合わせることに。ワッフルキャスケット。クリーム色に近い白系統の色合いなので奇しくも、ひなのさんの湖水浴水着コーデの帽子と色味と形状は近い感じに。
そこを意識したというよりも、私が黒髪のロングなせいで、あんまり色の濃い帽子は髪色と混ざるのよね。銀髪×白帽子という色の重ね方でも何とかなるひなのさんは割と上級者コーデの使い手だった。
「……おはよー、明菜ー。
今日の集合は明菜のが早かったかー……って、お。その帽子初めて見るやつだよね? 似合ってるよっ!」
「ひなのさんは、すぐに気付くよね」
「まあ……明菜のことだし?」
いつも通りの寮のエントランス集合だが、今日の行先は学園前のバス停からは直通ではないので、10分くらい歩いて西大路通にあるバス停まで歩いていく。そういう意味でも帽子コーデは間違っていなかった。
そして……実はひなのさんも帽子を被っていて。しかもそれは先ほど私が考えていた湖水浴のときと同じ帽子だった。
「ひなのさんも帽子を被ってくるとは思わなかったよ」
「いや、こんなに日差しが強いとタイヘンだし……。
ってかさ。同じ感じの色でお揃いだね?」
私はひなのさんに返事をする前に、辺りを見渡す。
……。
よし。大体学校からは離れたな。と、いうことで。
「……帽子交換とか、してみる?」
「明菜って、それ好きだよねー……。ま、恋人の業は一緒に背負ってあげないとね!」
いや、業って。そんなに交換とかって言いだした記憶は無い、と思ったけどあれか。セミナーのときの制服交換のことね。
逆にそれのことを言うなら、帽子の方がハードルが低い。ひなのさんが脱いだ帽子を、私は受け取って、逆にひなのさんに私の帽子を手渡す。
「おー、なんかスポーティ明菜は新鮮だ……」
「ひなのさんは文学女子っぽくなったね。却ってこれから行く古本市には向いている感まである」
なんか想像以上にしっくり来たので今日は、そのまま帽子を交換したままデートをすることにした。
「……というか。私の業が深いってひなのさんは言うけどさ。
貴方のがもっとすごいと思うんだけど」
「えー、そう?」
「……匂いフェチで、吐息フェチだし……」
「……」
図星だったのか、ひなのさんはバスに乗るまで何も言わずに、元は私のワッフルキャスケットを目元まで深く被って表情を隠してしまった。
*
源氏物語にも枕草子にも登場するくらいの京都にて歴史がある森。と同時に下鴨神社の境内の中にある森でもある。
というか今朝ちらっと触れた『京都三大祭り』。その1つである葵祭は下鴨神社でも行われるお祭りだ。源氏物語にはモロにそのお祭りが登場していて、主要登場人物の1人である『葵の上』がメインを張るシーンの副題が『葵』なのだが、このサブタイトルは葵祭から来ていたり。
というか『葵の上』という名前自体が後世『葵』の話で活躍していたということから便宜上付けられた名称であって、作品内では名前は出てこない。
平安時代から、そういう技法があったんだね。
そういう感じで京都という場所はなんか有名な観光地に行けば大体何かしらの作品の聖地巡礼になるわけだ。まあ、ネタバレすると『葵』の話で『葵の上』は死ぬんですが。
閑話休題。
どうせなら表参道側から、きちんと回ろうとひなのさんと話し合って決めたので『下鴨神社前』という名称なのに西参道前で降りることになるバス停は通過して、ぐるっと南側に回ることにしたのであった。
「おっとっと……このまま参道を進んじゃダメだったんだ。
明菜ちょいと左に曲がるよ……って、おー。結構な人だかりができているねえ」
ひなのさん曰く、どうやら『下鴨納涼古本まつり』は表参道から一本ずれた『馬場』と呼ばれる道で開催されているらしい。馬場という名の通り、本来は
……どうでも良いけど、単に『表参道』ってだけ言われると、どうしても東京の表参道が脳内をよぎるのはどうにかならないのか。ちなみにあっちは明治神宮の参道だ。
そして人だかりに近付きつつ、その道の奥の方を見てみると。左右には『七夕』のときに見たようなテントが並んでいることが分かる。
古本市ってこんなに混むんだ、と内心私は驚いていたが……どうにもよく見てみると様子がおかしい。
「……冷やしうどんにかき氷に、冷たいジュース……。
もしかして、ここ……休憩スポット?」
「あはは、そうみたい! 入り口を休憩スペースにするなんて大胆だなー」
森の中ということで、学園を出てバス停まで歩いていたコンクリートジャングルよりかは涼しさは感じるけれども、それは別に8月の猛暑による暑さを相殺は決してしない。
せっかくのデートなのに、今日はひなのさんとあんまり引っ付いていないのも、単純に暑いからだ。汗だくだくになりながらも恋人繋ぎをするのは、流石にちょっと躊躇する。逆に言えば躊躇レベルなので、必要性を感じるムードが形成されればするつもりだけれども。
とはいえ。一応私たちは飲み物とかも持参してきていた……というか、ひなのさんの分のお茶のペットボトルも私のリュックサックの中のクーラーボックスに収納されているわけだが、そういう都合で今すぐに清涼を求めるほどひっ迫した状況ではないことから、この場は、配布の団扇だけ貰ってスルーすることに。
「じゃー……、早速掘り出し物探しに行く――」
「あ、ごめんなさいひなのさん。
ちょっとこのまま、真っすぐ進めば行きたいと思っていた神社があるっぽいので、先にそっちから寄っていいかな?」
「……もー! 良いけどさー!
出鼻をくじかれた上に、おあずけ状態だよこんなのー!」
「だって下鴨神社って縦に長いから戻ってくるの、面倒そうだし……」
糺の森は南北700メートルくらいあるらしい。今いる場所はそのほとんど南端なので、一通り古本市を見てから戻ってくるのは中々酷だし、最後に行く場所でも無かったので順番的に最初に消化してしまおうと思っての提案だったのだが、それをひなのさんは『おあずけ』だと判断したようだった。
ほとんど歩くことなく。塀で囲われた敷地に入ることのできる門が見える。
ここの名前は河合神社と言う。
下鴨神社の中に別の神社があるのは一見するとヘンなことかもしれないが、それは例えるなら2年1組という大きな敷地にまず委員長神社があって、その中に私の神社があるようなイメージだ。1つのクラスが1人で構成されることはほぼ無いように有名な神社も1人の神様だけで構成されることはほぼ無く、そうしたサブ神社を持っているわけだ。
ついでに言えば、下鴨神社はメインの神社の本殿が2つ連結しているので、ある意味2年1組の委員長とひなのさんの二大コミュ力強者体制に似ている。まあ、下鴨神社に祀られている神様は父と娘なんだけども。
で、話を戻して河合神社。ここは鴨長明ゆかりの地だったりするのだけれども、現代においては、それよりも美肌やコスメに対してのご利益があることで有名だ。
「……明菜ってホント、こういうの詳しいよねえ」
「全部、ひなのさんのことを好きになってから調べたことだけどね?」
「言ってくれるねえ。私の愛しの恋人ちゃん?
というか恋人ちゃんには、もうこのご利益要らなくない?」
「……私、ひなのさんのためなら無限に可愛くなる予定があるので」
「まー、お互い様かー。じゃ、参拝しなきゃだね」
なんというか、湖水浴での一件があってからひなのさんの恋愛守備力が上昇しているような気がする。まあ、あれだけのことをすれば慣れるか。
ということで、ここでの願い事は『ひなのさんが恥ずかしがるくらいもっと可愛くなりたい』にしてみた。叶うかな、どうだろう。
そして、河合神社に来たならば参拝とともにやらねばならないことがある。
「……えっと、明菜? これなに?」
「これは『鏡絵馬』と言って――」
鏡絵馬。手鏡の形をしたあらかじめデフォルトの顔が描かれている絵馬。
ここに自分のコスメ道具を駆使して『絵馬のお化粧室』でなるべく自画像になるようにメイクアップをして願い事を託す場所。
「ははー……つまり。
明菜はこの場でメイクアップバトルをご所望で?」
「いや、なにその戦い。初めて聞いたんだけど。
というか、ひなのさん元美術部じゃん。絵って考えたら勝てないよ」
「……ちぇー」
筆以外はなんでも描けるひなのさん。そう言えば化粧筆は筆扱いだったら苦手なのかな、と思ったけれども、ひなのさんのポーチにはメイクブラシは入っているはずだから大丈夫なようだ。……お、実際出てきたし。
そして、ひなのさんは相変わらず絵に関しては謎の才覚を発揮し、ここではコスメを利用してなぜか自画像をアニメ風な作画で仕上げるという技巧を魅せつけてきた。
……いや、コスメでアニメ絵って書けるんだ。
*
というわけで、古本まつりに戻ってきました。
最初の休憩スペースは素通りすると……。
「わぁ……明菜っ、明菜っ! 露店の本屋さんだっ、すごいねー!」
「……ええ。
これは、独特な世界観だね」
森を縦断する砂利道の左右の端には、大型のテントやらの下に、ワゴンとか本棚を外に設置して本を販売しているお店がずっと奥の方まで続いている。
雰囲気はお祭りの屋台に近いだろうか。けれども、そこには焼きそばも綿あめもお面も射的もなく。ただひたすらに本を売る屋台だけがずっと並んでいる……そんな空間が今、私たちの眼前には広がっていたのだ。
「明菜にはちょっと悪いんだけどさ。
……ちょっと、私好き勝手に見たいんだけど……良いかな?」
「良いよ。だけど、別行動はダメ。
一緒に行動しよ?」
「……そうだねっ!」
ひなのさんは最初ちょっと遠慮した口調で話し出したが、私のことを身内だと思っているならもっとワガママを言って欲しい。恋愛面でのあざとさだったりはたくさん仕掛けてくるのに、こういう自分がやりたいことの主張をあまり前面に押し出してこない面は一部残っている。
とはいえ、私の前ならひなのさんは『誰にでも優しい』という一面を少しだけ後ろに持っていけるのなら……それで良い。まだ付き合ってから1年経っていないことを考えれば進歩ではあるのだろう。彼女の16年の人生を私はたった8ヶ月かそこらで捻じ曲げているのだから。
とはいえ、彼女の真横に引っ付いて同じ本を手に取り合うところまではしない。それは普通に邪魔だし、暑いし。
同じ軒下の店舗に入って、別の棚をぱらぱらと見る。
「……」
ひなのさんは完全に自分の世界の中に入っている。……思えば、読書好きって傾向はあまり露骨ではなかったがあったかもしれない。というのも、日帰り温泉の休憩スペースにて1時間近く黙々と会話をせずにカップル用のハンモックソファーにて読書をしていたこともあったし、もっと辿れば、そもそも彼女が『5割』くらい行きたい場所が『京都国際マンガミュージアム』だった。
「……明菜、次のお店行っても平気?」
「あ、構いませんよ」
何店舗か巡ってみて。
こうしてじっくりと見てみると、意外と本だけではないことに気づかされる。版画だったり、ポスターだったり、はたまた昔の人のサイン色紙だったり。こういうものも、本屋さんと本屋さんの間にしれっと紛れたりしている。
そして古本と一口に言っても千差万別だ。古本と言うと、学術書とか歴史書みたいなのを想起するけれども、料理のレシピ本とかも置いてあったりするし、お店によって特色があり、時にはノージャンルで置いているところすらある。
「……え。嘘でしょ。
ネウマ譜の解説書だけど絶版で、全然見つからなかったやつ……。どうしてこんなところに。
いや、でも。7万円はちょっと流石に無理……」
ネウマ譜は中世の教会音楽において使われていた古音楽の楽譜。だからピアノ誕生の時代と大きくずれているから、私にとっては実用物ではないけれども。一時期解読したさで日本語の解説書を探していたけれども地元の図書館とかでも全然見つからなかった本だけに覚えていた。
そういう思い出がある本とはいえ、でも金額的に手が出せるものではない。
改めてひなのさんのところに戻ると彼女は何冊かの本を既に手にしていた。
「あ、それ買ったの?」
「うん、まーね! 安かったし、3冊で100円だった」
「えー安くない? 私がちょっと欲しいと思ったやつ7万円だったのに……」
「需要が無い本は、基本高いからねえ」
まあ、世間一般の需要があるかと言われたら私も自信無いや。なんとなく価格設定に納得したところで、じゃあひなのさんの本はさぞかし需要がある本なんだろうな、と思ってちらりと表紙に目を向ける。
「……昔ばなしとかの本?」
「というか童話かな。児童書コーナーで見つけてね。
実は選んだ理由があるんだけどさ――」
そう言って、ひなのさんはその童話の本をパラパラとめくる。確かに古い本ではあるけれども昔ばなしテイストではなかった。
しかし、それよりも気になったのは――。
「ねえ、ひなのさんこれ返品した方が良いよ。
めっちゃ書き込まれているじゃん」
ラインマーカーのごとく色えんぴつで文字が塗りつぶされて読みにくくなっていたり、勝手にセリフを書き加えていたりと、まあ控えめに言っても状態はあまり良くないものであった。
「いいの、いいの。むしろこれ目当てで買ったんだし。
……実は買った童話って全部さ。昔、読んだことがあってね。これだけ書き込みがあるなら、他の子がどう読んでいたか、ちょっとでも分かるかなーって考えたら、面白そうだから買ってみた!」
「……ひなのさんのこういうところの趣味というか、興味を持つ分野って。
私はいまだによく分からないや」
ピアノに、ドイツ紋章学に、哲学に、童話。
共通項が無さ過ぎて意味が分からない。
「まー、私もこういうのは、割とその場のノリ! って言うかさ。
気分次第ってとこはあるからねー」
「気まぐれだなあ……ひなのさんは。まるで猫みたい――」
「えー、『猫ちゃん』は明菜の方だけど……ね?」
……否定はしないけどさ。
その後は、一旦軽く昼食を取りに行って。そこから西参道経由で2つある本殿を参拝したり、みたらし団子の発祥の地である『みたらし池』で
「……で。ここが明菜が下鴨神社で一番来たいって思ってた場所……だね?」
「うん――『
「確かに、古本市と同じくらい混雑してるね、ここ……。もっとも、ほぼ女子かカップルしか居ないけど」
「どっちの条件も私たちは満たしているから大丈夫だよ」
相生社はそのまましっかり縁結びのご利益がある。
というのもこの社のすぐ隣にある祀られている木――名前を
2人が一緒になれるという暗喩と考えれば縁結び、と結びつくのはある種当然かもしれない。そして、この場所には特殊な参拝方法がある。
だから私はひなのさんを先導して、まずは絵馬を購入した。
「まず願い事を書くんだけど……」
「でも縁結びなら決まってるっしょ? 私はもう『明菜とずっと一緒に居たい』……これしかないよ?」
「……私も同じ感じで書くね」
こういうときのひなのさんのワインレッドの瞳は真剣な表情をしていてかっこいいのが、ちょっとずるい。ひなのさんの何気ない表情が私の感情を揺さぶってくる。
で、願い事を書いた部分を隠して紐を結び、相生社の正面に立つ。
「絵馬を置く場所は、裏にあるんだけど……。このお社と木の回りを2周してから絵馬を奉納するってお作法で。
男性は左から。女性は右から回るんだって……」
「……なるほど。だから明菜はここに来たがってたわけか」
つまり、この場所は異性のカップルで来たとしても、この部分だけは一緒に行動することはできない。
けれども……私たちなら。一緒に、このお参りをすることができるのだ。
だから、私はまだまだ気温は高いことは百も承知だけれども。ひなのさんの手を恋人繋ぎで結んでから、身体を寄せ合った。
「ちょちょ、明菜……いきなりじゃん」
「1人で歩くための道を、2人で歩くんだからくっ付いた方がいいでしょ」
ひなのさんも私も手や肩、二の腕の相手にくっついている部分からじんわりと汗をかいていたけれども、私はここは譲れない部分だったし、ひなのさんも察してか一緒にくっついたままであった。
「もー、しょうがないねえ。明菜は」
そうして私たちはゆっくりと反時計回りに歩みを進める。その間、心の中ではひなのさんのことだけを考えて、繋いでいない方の手は帽子――本当はひなのさんのものである帽子を掴んでいた。
両手と、頭の中を全部ひなのさん一色にして。ひなのさんと歩調を合わせて2周した。
「……これで?」
「最後にもう1周して、その途中で絵馬を飾ってから、お祈りをする感じ」
「りょーかい」
絵馬を飾って、再び正面に戻り二礼二拍手一礼。
そして最後に。連理の賢木から伸びている2本の鈴がついたロープを、2人で同時に2回引けば……おしまい。
「じゃあ……ひなのさん、せーのっ」
「えいっ! えいっ!」
からん、からん、と音が鳴り。
私たちの何度目か分からない――共同作業が終わった。
*
そうして私たちは、その足でお守り売り場に行く。
「縁結びにコスメのご利益と色々あったから、お守りも映え系のが多いねー」
「そだね……お守りは別々のを買っておこうか。そうすればご利益2倍感あるし」
「割と謎理論だけど……明菜の意見に乗った!」
ということで、私は
「あと、もう1個だけ……」
そして……良縁を結ぶ『葵紐』。1対のレースで出来たブレスレッド風のアイテム。様々な色があったけれども。
「……まあ。私たちで『縁結び』と来たら、こういうアイテムで選ぶ色はもう1つだけかも」
「そうだね、ひなのさん――」
私は迷わず『薄桃色』のレースの飾りを手に取って、それを買って。
すぐに袋から取り出して、それをひなのさんの右手首につけた。
「お、結構可愛いねこれ。明菜にも付けてあげよう!」
「どうも」
1対なのでもう1つ入っているので、それをひなのさんは私の左手首につけてくれた。
そうしてお互いの手をくっ付けてみると。
「お揃いだねっ!」
「思ったよりも、雰囲気あるね……」
そうしてそのまま、もう一度手を繋いでみれば。ペアルック的な感じが何とも写真映えする感じに。レースってやっぱり印象を華やかにするね。
それをひなのさんはじっと眺めて、無言で写真を撮ったのちにこうぽろっと零した。
「ブレスレッドのペアルックって……思った以上にどきどきするね」
「ほんと? え、ひなのさんの心臓、触ってみても良い?」
「え……あ、うん。いいけど……」
ひなのさんの胸元に、わざと私は『葵紐』が付いている左手を持ってきて、ぴとっと彼女の洋服の上から心音を確かめてみると。ひなのさんの心臓の鼓動が手にも伝わってくるようだった。
お互い顔が熱くなって……暑くなって。
結局、古本まつりの左右の本が折り重なった道を再び通って休憩スペースまで戻って。
そこで、かき氷を食べてから私たちは帰宅することにしたのであった。
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