第29話 最初で最後のクリスマス(2)

「……ふん、ふふーん――」


「……」


 お茶会……というか清水寺のお水飲み会が終わった後は。ひなのさんは答案採点アルバイトのプリントの整理を始めた。私は、ひなのさんのひざ掛けを肩にかけながら、座卓の前から動かずにその様子を観察しつつ、スマートフォンのソーシャルゲームをしている。

 ひなのさんは、あんまり多くはないのだけども稀に今のように鼻歌を歌いながら作業することがある。これについては無意識的なものなのか、私に対して狙ってやっている計算による行動なのかは判断がついていない。


 ただ、正直。そんな鼻歌を歌っているときのひなのさんの髪はふんわりと揺れ動いていて、その感じが好きだし、めちゃくちゃ可愛いから、私からそれを指摘したくない。

 万が一にも癖とかで本人的には恥ずかしいって思ってて、やらなくなってしまったら非常にもったいないので。逆に狙ってやっているなら、私の趣味嗜好を理解しすぎでしょ、この子。


 ずっとその旋律を聴いていても良いけれど。しかし、彼女の頭の揺れはそんな鼻歌のリズムに乗っているものとともに、時折私の方を気に掛ける動きも挟まっていた。

 ……多分、自分の作業でほったらかしにしていることに罪悪感を覚えているのだろう。

 別に気にしなくてもいいのに、とは思うが、こういうところも含めて私はひなのさんのことを気に入っているというのも事実。せめてその気持ちを軽減するためにも私から話しかける。

 邪魔じゃないかと思われるかもしれないが、ひなのさんは別のことに集中していても頭をそんなに使わない会話なら問題なく処理できるマルチタスクなので大丈夫。……お、スマホゲーのデイリーミッションがちょうど終わった。



「ホワイトクリスマスとかおしゃれだけど、今日は雪が降ってなくて良かったかもね」


「……そうだねー。実家に居た頃だと、雪の日は自転車通学禁止だったからさー、そうなったら歩きか両親の車かの2択だから、大変だったなあ」


「おー、雪国あるあるじゃん。私、全く共感できないけど」


「……ふっふっふ、明菜に伝わらない他のあるあると言ったらあれかな?

 道路の雪を融かす用に水がずっと出続けるやつがあるんだけどさ。あれ1個だけめっちゃ水が出てて危険なやつとかあるんだよっ!」


「本当に全然ピンとこないネタが来た……」


 逆に、ひなのさんに全然伝わらないであろうネタはあれかな。『放課』のことを昼休みとか中休みってこっちでは言ってて、逆に放課は全く伝わらなくって最初本気で焦っていたことだろうか。

 試しにそれをひなのさんに名古屋あるあるネタとして言ってみると、


「えー、なにそれー。全然分かんないんだけどっ」


 というリアクションが返ってきて、やっぱり方言というか、地元ローカルネタなんだなって思った。




 *


 そうして、ひなのさんの作業が終わった後。私たちは、彼女の部屋を後にする。ひなのさんは暖房の電源を切ったりして外出の準備をしている間、私は一旦自分の部屋に戻って、部屋着から制服に着替えて、ダッフルコートを手に持つ。


 それで寮のエントランスに行けば、十数分ぶりのひなのさんと再会する。

 ひなのさんも制服を着ている。思えば、この銀髪の青森少女は制服が可愛いと思ったから碧霞台女学園を選んだ、とも言っていたっけ。


 入学時点では、もしかしたら制服に着せられていた印象もあったのかもしれないが、流石に12月にもなれば私もひなのさんもお互いに風格というか『慣れ』が滲み出ていた。


 で、そんなひなのさんのネクタイの結び目は、いつもと同じく若干だけれども存在感がある。……セミ・ウィンザーノットという一般的ではないネクタイの結び方をしているためだ。

 正直、知ってからは他の人とは違うと分かるが、しかしネクタイの結び目まで一々見ないとも思うので周囲の人たちが気付かないのは仕方ないとも言える。……というか、気付かないで欲しい。私だけが知っている状態を保持したい。



 そして、ここでひなのさんはあざとさポイントが加算されることを仕出かしてきていた。


「……ひなのさん。

 ネクタイ曲がっているから自分で直しな」


「……。

 そーこーはー? 明菜が直してくれたって良いんじゃない?」


「結局マンガミュージアムでもやらなかったのだから、友だち期間中はやらないよ」


「ちぇー、けちー……」


 わざとネクタイを完璧に結ばずに、この場にやってきた。結構、こういう小手先の技はお互いの恋心を自覚してからは気付くようになったけども、きっとそれ以前もこの子は計算してやっていたりしていたのかも、末恐ろしいね。



 2人で寮のエントランスから外に出て、向かう先は遠い場所ではない。というか学校の敷地内。鍵を借りてきたひなのさんと共に、第3音楽室へと向かう。

 高名な京都の画家が描いた抽象画の飾られた玄関。レトロな造りの螺旋階段を昇り。


 そして3階でも特に奥まった場所にある第3音楽室へ続く廊下は、窓の外には葉が散った木々が見え。

 ひなのさんとの話し声に上履きが鳴らす足音はかき消される。



 第3音楽室の扉の鍵をひなのさんが開け、中に入る。ひなのさんは一直線にグランドピアノへと向かっていったので、私は空調のパネルを操作して暖房を付けた。


「ひなのさん。今日はどれくらいやる感じ?」


「うーん……気が趣くままに! あ、この言い回しってなんか音楽っぽいね!」


「『気のおもむくままに』という意味なら、確かにカプリッチョーソとかカプリシュみたいな曲想はあるけどね」


 確か、カプリッチョーソはリストのピアノ協奏曲第1番の第3楽章で出てきて、カプリシュはドビュッシーの『パックの踊り』辺りだったかな。どっちが一般知名度が高いかはちょっと分からない。



 やり取りもそこそこに、ひなのさんは演奏を始める。

 実は、中学のときから弾ける楽曲もひなのさんはいくつか持っていて、全部合計すると10曲ちょっとはレパートリーがある。それが独学習得者のペースとして速いのか遅いのかはちょっと私に検討は付かないが、ただひなのさんは昔に覚えた曲はあんまり弾きたがらない。


 彼女的にその理由は、単純に流行が去った曲だかららしい。確かにポップスは流行り廃りの波が激しい。中学時代にやっていたドラマの曲なんて、女子高生的には懐メロポジションだ。

 また私の意見で付け加えると、数回聴いただけの昔覚えたひなのさんのレパートリーは、編曲というか譜面起こしが大分独特っぽさを感じる。演奏簡略化のために音を削ったり、移調を駆使して黒鍵数を極端に減らしている感があって、ひなのさんの演奏技術以前の部分で違和が垣間見えるのだ。恐らく謎の楽譜で覚えているのだろう。



 そして演奏技巧については、どうだろう……上達、しているのかな。上手くなっている気もするが、私の耳が慣れてきたというのもあり得てちょっと判断に悩む。

 運指の癖が強い部分とかは口出しをしていない以上は改善可能性がなく、これに起因するタッチの振れ幅は残り続けている。けれども、力を入れやすい指の動きだったら、カスカスだった音がちょっと強く打鍵できるようになっている雰囲気もあるのだ。


 あとは、ひなのさんの演奏を見続けてきて、新しく気付いたこともいくつかあった。

 先ほども言った『運指の癖』……これの原因は恐らく彼女が小指で弾くことを嫌っているような素振りがあるところだ。全く使用しないわけではないが、小指で弾けるところなのに、無理やり手をスライドして弾いたりして誤魔化すシーンが散見される。


 またずっとけなしてばっかりだが、良いところも一応あって。そういう複雑な動きで覚えている関係か、ひなのさんはトリルやターンの演奏が実は上手であったり。あ、もちろん小指を使用しないとき限定ね。



 ひなのさんの演奏が終わる。

 そして――。彼女は私に対して、演奏後としては初めてこう言った。


「――どうだった?」


「……一番最初に会ったとき。ひなのさんはそれを拒んだけれども……良いの?

 私の感想を聞いて」


「――だって、今日の演奏が『友だち』としては最後の演奏だから。

 そりゃ、最後の機会くらい……ちょっとだけ持論を曲げたって良いでしょ」



 正直、驚いた。趣味を『作業』にしたくないことを公言していた彼女に、ここまで言わせることになるとは。

 少し考える。嘘は言うつもりは無い。けれどもひなのさんの趣味を『作業』にしてしまってはこれまでの私たちの歩みは台無しだ。

 ひなのさんが私に対して歩み寄ったのならば、私も歩み寄らなければならない。尊重はどんな関係であってもするべきものである。


 ……率直に言おう。

 ただし、技術的な部分は一切触れずに。


「下手です」


「うぐっ――」


「基礎的な部分が身に付いてないです」


「はうっ……」


「ミスも多い」


「あ、明菜……それくらいで――」


「――だけど。どうしようもなくひなのさんの演奏に惹かれている私が居るのも事実です」


「……? それって、どういう――」


 私はひなのさんの真後ろへと回り、彼女の後ろから手を回すようにして右手だけでフレーズを弾く。意図的に強く打鍵して、運指もひなのさんの手の動かし方に似せて。


「……このフレーズ、ひなのさん好きでしょ?」


「うんっ! 原曲で聴いてたときに、めっちゃ歌詞良いなあって思って、『ここ』が弾きたくて、この曲を弾いているんだー」


 技術は稚拙で、演奏中に楽譜は見ないし、曲の完成度は正直低い。


 だが彼女の独創性は曲の表現力にあって。その表現力は、ひなのさんが本来有する理解力に起因していた。

 そう、あれだけ下手なのに伝わっているんだ。『何故、この曲を弾きたいのか』という部分が、この銀髪少女の演奏から明瞭に伝わってくる。


 ……それは、きっと。コンクールや演奏会を繰り返し、与えられたものを弾いていた私がいつしか忘れてしまっていた――『弾きたいから弾く』という根源が確固としているからだ。

 趣味で、好きな曲だけをチョイスして、弾ける曲数も全然無いからこそ、ひなのさんはそこがブレていない。


 ……ひなのさんの言葉を借りるのであれば、どこか私はピアノを弾くことを『作業』と認識していたのかもね。

 もし技術を無理やり習得させて、ひなのさんの中で趣味が『作業』と化したとき。間違いなく彼女の演奏の魅力は損なわれるだろう。……それをひなのさんは理解していた。


「ひなのさんの演奏は……『音楽』なんだよね、結局。そこが一貫してる」


「そりゃー。ピアノを弾いているんだから音楽・・以外の何物でもないでしょ」


「……ふふっ。分かってないなあ、ひなのさんは。

 でも、だからこそ私よりも大事なことを理解している」



 いつからか私が見失っていたものを、彼女は最初から持っていたからこそ。

 あの最初に出会った日。――私は第3音楽室の扉を開こうと決意したのだと、今になっては自信を持ってそう言える。




 *


「飾城せんせー! 第3音楽室の鍵を返しに来ましたっ!」


「東園さん、はい。確かに受け取りました……って、あら?

 澄浦さんも一緒に来るなんて随分珍しいですね」


「そう言えば、2人で飾城先生のところに来たことってあんまり無かったなあ……という話になりまして」


 もう終業式後でクリスマス・イヴの真っただ中なのに、大体の先生方は職員室に居た。まあ、私たちからしたら授業が無いだけだけれども、3年生の先輩方からすれば今は大学受験の追い込み期でもあるわけで。休みにくそうとは思う。


「でも、クリスマス・イヴに2人きりで音楽室なんて、随分ロマンチックなのですね」


 ちょっと声を抑えて話した飾城先生の客観的な言葉に、ひなのさんは顔を赤くする。


「あー……実は、今日まではまだ友だちなんですよねー……」


 そう言って、ざっくり搔い摘んで先生にも話す。途中途中で『あ、明菜!?』と動揺する隣の少女の声はしたけれども、この先生には大体話してしまっているのでスルー。


「……告白事前申告で、恋人確定状況を維持しつつ友だち続行……?

 どうしましょう。先生、最近の若い子のことが分かんない」


「やっぱ、そーですよねっ、飾城せんせー?」


「……というか。確かに事前宣告は私から言ったけど、友だち続行を選んだのはひなのさんじゃん」


「ぐっ……」


「……何で付き合うのを延期にしているのかしら、この子たち……」


 このまま説明に費やしても共感を得られるとは全く思わなかったし、何よりひなのさんが恥ずかしそうだったので、挨拶だけして足早に去ることにした。




 *


「飾城先生には悪いことしちゃったかな、もしかして」


「……明菜ー。それ思ってても絶対、せんせーには言わないであげてね?

 子どもから気を遣われているって分かった方が、絶対傷付くから」


 学食へ移動して昼食を取る。クリスマス特別メニューになるのはどうやら夜だけのようで、今は平常メニューのままだ。

 午前中からずっと一緒にいるけれども、ひなのさんとの会話に悩むことはない。


 ご飯を食べながらでも、ゆっくりと話し込んでしまったこともあり、いつもなら20分もあれば食べ終わるお昼ご飯に40分以上もかかってしまった。


「……こればっかりは、冬休み中で良かった」


「えっと……『昼放課』だっけ?

 普段だったらそれが終わっちゃうもんねー」


「……ひなのさんもこれで名古屋でやっていけるね」


「ホント? やったー」


 脳の回転量にエコな会話を楽しみつつも、流石に長居しすぎたかな、と食べ終わった食器の投入場所に食器を持って行き、上着を着て食堂を後にする。



 午前中から比べればちょっとだけ暖かくなってきた。幸運にも風もほとんど吹いていないから、日向に居るなら外に出ていてもそこまで寒くなくなってきた。

 そうして昼下がりにやってきたのは、寮の中庭。冬なので既に芝生は枯れていて、土がむき出しになっていた。


 勿論、毎日のように寮から見える場所なので取り立てて真新しさなんてものはない。けれど。


「……この中庭での私たちの思い出と言えば、なんと言っても『七夕』だろうね」


「あー、明菜が勝手に浴衣着てきたやつ。

 あれ、私マジでビビったからね? どうして急にそんなことしたの?」


「……今だから言うけど、ひなのさんに振り回されてばっかりだったから、驚かせてみよう! ってくらいの勢いでやっただけなんだよねえ――」


「……それだけのために身体張りすぎでしょ……。

 それに、最近じゃ私の方が逆に明菜にしてやられている方が多いのにー!」


「あの、ひなのさんも私にちょくちょく悪戯的なことをしているのは知っているからね……」


 そんなことを言い合いながら、中庭に車とかが入ってこれないようにするための膝くらいまでの高さがある石製の車止めにハンカチを敷いて座る。別にそのまま座っても良いのだけど、ハンカチを敷いた場所に互いを座らせるのは、何か雰囲気良い感じになるので私たち2人だけのマイブームとなっていた。


「――でも、浴衣とか着物とか。今度はひなのさんと一緒に着てみたいな」


 私がポロっと呟けば、ひなのさんはからかいモードになってニヤリとしながら言い返す。


「……その時は。私たちはもう友だちじゃないだろうけどね?」


 今はまだ。友だちなので、ここはムードを盛り上げるのではなく、全力で茶化す。


「手すらまともに繋げなかった人がよく言うよ」


「わーっ! わーっ! 最初に踏み込もうとしたんだからもうちょっと評価しても良いんじゃないかな!?」


「それでも、手の甲って。

 どんだけヘタレなの……」


「ぐぐぐ……」


 それでも、あの頃は傷付くことを恐れて踏み込まなかった私たちはお互いのことを何も知らなかった。

 そこから考えれば、今の関係は大きな進歩だろう。そのきっかけではあったから、ひなのさんのヘタレ行動にも感謝はしてるよ。ヘタレだが。




 *


 中庭で思い出話をした後、私たちは一旦解散した。というのも、午前中はひなのさんの部屋を使ったので、夜は私の部屋に完全消灯まで集まることにしていたからである。


 寮には門限の時間があるものの、これは『寮という建物』に戻る時間なので、寮内に居るならば別に門限の時刻を越えてもどこに居ても良い。

 ただ完全消灯時刻以降は、自室に居ないといけない。逆説的に言えば、完全消灯までなら私とひなのさんは一緒に居られる……つまり、今日のタイムリミットはその完全消灯時刻である。


 というわけで今日の締めくくりは私の自室。なので、当日ではあるけれども、ちょっと掃除したいな、と思ってこういう時間を貰ったのである。まあ、昨日大掃除はしたけれども……好きな人を最終的には告白目的で招くんだから、いくら掃除をしても、し過ぎということは無いと思う。


 で、正直もう床にゴミなんて落ちていないのに入念に掃除機をかけたり。今のうちにしっかりと換気したり。粘着クリーナーの使用後とかウェットティッシュみたいなゴミばかりのゴミ箱も、綺麗に集めてゴミ捨て場へと持って行き。加湿器やポットの水も今のうちに交換しておいて。

 そんな無理やりやることを見つけ出すような整理整頓を行っていたら、ふとランドリーバッグが目に付く。


「あー……これ、ひなのさんに見られたら普通に恥ずかしいな……」


 別に普通に洗い物が入っているだけだが、だからこそ恥ずかしくない? ただ問題は今この瞬間に洗濯すると、着ている服については洗い物として残っちゃうのだけれども。でも、ひなのさんに会うギリギリにお風呂は入りたいしそこは妥協するしかないか。

 あ、さっきひなのさんが座ったハンカチも追加で投入しておこう。


 ということでランドリールームへ直行。今着ている服が洗い物になった暁には、なんかこう上手いこと隠しておこう。


「……あっ」


「……よっす、明菜」


 そして、折角一時解散したのに、このタイミングでランドリールームという場所ですぐにひなのさんと再会するのは気恥ずかしさがあった。




 *


「明菜……そう言えばランドリーバッグ、買ったんだったね」


「え、あ、うん。お洗濯の時間は中々ひなのさんと一緒にはならないから、言うの遅れちゃった。ひなのさんのやつの色違いにしたよ」


 こんな少量で洗濯機を回すのは中々レアかもしれない。いつもの半分以下くらいしか洗剤も投入していないし。少量だと時間も短くなるのだろうか。

 ランドリールームには私たちのほかに、あんまり話したことの無い同級生の子たちのグループが居たので軽く会釈だけして、ひなのさんの真隣に座る。


「わっ、ちょ! 席は幾らでもあるんだし、何も隣じゃなくても――」


「ひなのさん、前にランドリーバッグの話をしたのっていつだったっけ?」


「え? あー……確か、京都水族館の約束をしたとき、だよね?」


「そうだった。……水族館も色々あったね。

 ――でも、楽しかった」


 どんな些細なことも、想い出に繋がっている。

 たった1日、何事もない日常をひなのさんと過ごすだけでも。私たちは『友だち』として色々な経験をしてきた。それを、思い返すことができた。



 乾燥機が止まる頃には既に日は落ち始めていた。既にひなのさんとはまた別れて、夕食のとき食堂で合流することになった。


「――もう、1日が終わるんだね」


 窓に映る夕焼けは、既に肌寒さを感じさせるが、乾燥機から取り出した洗濯物の温もりのおかげもあってか寒くなかった。


 今日が着々と終わっていく。




 *


 クリスマス・イヴの空に日が沈んでから2時間。

 洗濯も、夕食も、歯磨きも、お風呂も終えた私は。自室に居た。


 部屋の扉が本当にか細くノックされる。


「……ひなのさん」


「……明菜。入って良い?」


「ええ、もちろん。

 お風呂、入ってから来たんだね」


「……明菜も入った後じゃん」


「……まあ、そうだけど」


 完全消灯まではあと3時間。

 ……友だちで居られるのも、あと――。


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