第26話 悪役姫の経験値
聖国カンタブリアは光の神が愛する土地であり、カンタブリア王家には神の血が流れているとされて、代々、尊い存在として敬われてきたの。
光の神を信じる沢山の信者が訪れたし、沢山の人々に祝福を授けたわ。それはすぐに目で見て分かるようなものではなかったけれど、人々は神の加護を確かに感じていたの。
そうやって訪れた人々が寄進するお布施を利用して、小さな聖国を運営していったわけだけれど、聖女を祀る聖女教会があっという間に勢力を拡大していく事になった時には、うちの立場は物凄く弱くなったみたい。
何しろ、千人規模で人を癒すし、無くなった腕や足ですらニョキニョキ生えさせる力を持っているんですもの。あっという間に人々は聖女に心酔してしまったの。
聖女教会はお金を集めるのも得意としていて、治療を餌にして多額の寄付を募っていったの。人々の善意の寄進で成り立っている聖国なんか全く太刀打ち出来なくて、我が国の聖女教会に対する怒りの矛先が、結局は無能の姫巫女に向かってしまったのよ。
だけど、何度も何度も処刑をされて、8回も繰り返し続けて、今は9回目となっているけれど、これだけ繰り返せば経験値だって溜まっていく。
今までの過去の知識と経験を使って予言を行う事にしたんだけど、その予言が当たる度に、周りの見る目が変わっていく。
聖女は確かに人を癒すことが出来るかもしれないけれど、聖国の姫巫女は予言の力があるのだと密かに語られるようになっていったの。
帝国の皇帝がわざわざ会いにきた事もあったし、聖国を滅ぼす侯国へ、わざわざ出向いて行った事もある。聖国が滅ぼされないように、私がバレアレス王国に嫁ぐ事などないように、家族に協力をしてもらいながら進めていても、最後には侯国に我が国は滅ぼされてしまう。
五度目の生では滅びる聖国に最後まで残って、炎に飲み込まれる街の姿を見下ろしながら命を断とうとしたけれど、持っていたナイフを叩き落として、攫うようにして王国へ連れて行くのがバレアレスの国王陛下で、
「なんで・・・なんであなたは死なせてもくれないの?」
あの時の私は訳が分からない状態の彼を叩きながら大泣きしたものだった。
「ただでさえ処刑という言葉に敏感なセレスティーナ様に!処刑に立ち会えなどと言い出すとは!全くもって信じられませんわ!」
ベッドに身を横たえながら、ぼんやりと侍女頭のマリアーナの言葉を聞いていた。
こともあろうに私に処刑前の令嬢に会いに行け?処刑に立ち会えですって?鬼畜以外の何者でもない発言よ!
でもね、考えてみたらセレドニオ様はアデルベルト陛下の側近なのよ。
過去のアデルベルト陛下を思い出してみて?あの人、王妃として私を迎え入れながら、私に冤罪をひっかぶせて殺すような鬼畜なのよ?
そもそも、何故、過去8回の生でアデルベルト陛下が白い結婚を貫き続けてきたのか?おそらく、聖国の姫巫女である私を純潔のままぶち殺すために、あえて、生殺し状態のまま放置する事にしたのよ。
神の象徴にもなる私を残虐な目に合わせて殺してしいく。これについては、成功している、成功していると思いますよ?
広場から溢れるほどの人に囲まれて、雨のような石礫を浴びながら裸足で歩いた私は、いつでもズタボロ状態だったもの。聖女を敬う組織も、私の憐れさが極まった姿を見て歓喜していたでしょうね。確かに処刑見物に訪れた聖女様も嘲笑を浮かべていましたもの。
それで、毎度殺されて、元に戻ると。
光の神は、聖女教会が滅ぼされるまでこれを続けるつもりだと。
「あああああー!今世では毒杯を賜って楽に死ねたら御の字くらいに思っていたのに!死んだらまたループって事になるじゃない!いい加減もう終わらせたい!正直に言ってもううんざりなのよーーーーーー!」
はね起きながら声を上げると、ベッド脇に控えていたマリアーナがドバッと涙を溢れさせた。
「そんな!毒杯などと!私たちは王妃に毒杯など用意は致しません!」
マリアーナは涙を流しながら訴えた。
「今までの侍女頭の横暴な態度から、妃殿下がそのようにお考えになるのも理解いたしますが、私どもは決して!決して妃殿下に危害を加える事など致しません!」
慌てた調子のチュスまで私に向かって言い出した。
「姫!我々が王国に来た頃より周囲は変わり始めているのです!姫様を傷つけよう等という不埒者など今の王宮にはいません!」
「そうじゃない!チュス!そうじゃないのよ!」
わーっと私は泣き出すし、マリアーナもわーっと泣き出すし、チュスはあたふたして右往左往するし、専属侍女がセレドニオ様を連れてきてまた大騒ぎになるし、
「姫の事情も考えずに、処刑の立ち会いを願い出るなど、到底許されぬ事を致しました!申し訳ありませんでした!」
最後にはセレドニオが土下座で謝って収まったけど、そうじゃない!そうじゃないのよ!
「陛下もセレスティーナ様の事をとても心配されておりまして!数日後には王都へ帰還される旨が届いております!とにかくセレスティーナ様のお心の安寧を第一とお考えください!」
そうじゃない!そうじゃない!陛下が帰ってくるから大丈夫みたいなのやめてほしい!
「あああ・・・」
目の前が真っ暗になった、私は再び失神してしまったらしい。
私の度重なる失神、これは現実逃避の一種とも言えるかもしれない。
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