第25話  悪役姫の驚き

「え?牢に入れられているリリアナ嬢と面会が出来るのですか?」

「ええ、面会は可能です。裁判も無事に行われ、刑の執行日も決定致しましたから、セレスティーナ様がお会いになっても何の問題もありません」

「ええええええ〜!」


 私、セレスティーナは、セレドニオ様からの提案に度肝を抜かれておりました。


 リリアナ・イリバルネ子爵令嬢はアデルベルト陛下の乳母の娘さんという事になる為、陛下の妹ポジションをキープしているような方なのです。


1回目の生では、陛下とあまりにも仲が良いリリアナ様に嫉妬して、虐めまがいの嫌がらせを行った覚えがあります。


 陛下には隣国の王女とか聖女など、恋人がその都度現れるので、愛に飢えた私、セレスティーナは、反抗的な態度を取ったり邪魔をしたりと、皆様の反感を買うような事をしでかしていた訳ですね。


 3回目くらいから関わるのも嫌になって、当たらず障らず、距離を取って過ごすようにしていたのですけど、最終的にはいつでも断罪を受けて殺されるのですよ。

 処刑されるのが嫌で二度ほど逃亡を試みましたけど、犬に噛み殺されるし、暗殺者に殺されるしで散々でした。


 という事で、9回目のこの生では、王宮の本宮奥の庭園で、アデルベルト陛下とリリアナ嬢との逢引きする姿を発見して、今回の生ではリリアナ嬢が恋人なのだと理解した私は、正直に言ってガックリしたのは間違いないです。


 陛下に恋人がドーンと現れると、あっという間に断罪が進み、私は処刑台へと一直線。今まで何回、処刑台に登ったと思います?6回ですよ!6回!そろそろ発狂しそうです!


今まで王国に嫁いでから最短二ヶ月で処刑台送りですよ!怖いですって!


「セレスティーナ様は乳母の娘であるリリアナ嬢と陛下の関係に疑問を持たれたからこそ、部屋に引きこもりになられたのですよね?」


 陛下が何処かに行かれてから、朝食、夕食、一緒に食べよう、一緒にお仕事しましょう時間が無くなったので、私は部屋に引き篭もりとなっていました。

そろそろ処刑期間に突入するので、色々と怖くなってしまってしまったからです。


 セレドニオ様、私が部屋に引きこもりになっているのは、殺されるのが嫌だからですよ!


「イリバルネ子爵家は敵国の間諜となり、リリアナ嬢を使って我が国の情報を流していた事が判明し、一族郎党、死刑という事になりましたし」


「死刑!」

 その言葉!ゾッとします! 


「セレスティーナ様のご協力もあって、無事にフェルミン・ジョンパルト宰相の汚職も明るみとなって死刑の判決が出ましたし」


「死刑!」

 その言葉!ゾゾゾゾゾーーっとします!


「処刑の前に、セレスティーナ様の胸の中にある疑問をぶつけてもらった方が良いかと思い、声を掛けさせて頂いたのですが」

「ひえええええええええっ」


 思わず泡を吹いて倒れそうになりました。

 過去6回、あっさりと死刑判決を受けてきた私は、確かに処刑の前日あたりに陛下の恋人(その時によって相手が違う)から罵詈雑言を吐かれまくった覚えがあります。


「もう!本当にうざい!さっさと死ね!ブス!」

「どうせ死んでも迷惑かけるだけの存在ですもの、ここで消し炭にしてしまいたいですわ!」

「前々回はギロチン、前回は絞首刑だったから今回は斧で首を切断にしてあげましたわよ!毎回、違う処刑の方が貴女も楽しいでしょう?」


 牢屋の外から投げかけられる言葉を思い出して、全身がブルブルと震えます。そういえば、マリアネラ王女って、あの時から前回とか前々回とか言っていたわよね?やっぱり王女もループを続けているって事なのよね?


「セレスティーナ様!大丈夫ですか!」

「だ・・だ・・大丈夫ですわー〜―」


 私はチュスが用意してくれたハーブティーを飲んで、深呼吸をする事にしました。

 処刑は怖い!処刑は怖いけど!まだ私が処刑台に登る事が決まった訳じゃない!


「リリアナ嬢への面会は結構です。私、ご挨拶した事がございませんし、窓越しにちらっとしか見たことがない方ですから」


 今世では面と向かって顔を合わせる前に、リリアナ様は牢へ入れられてしまったので、ほぼほぼ知らない人って事になるので面会とかしなくていいです。


「それと、そろそろ私も部屋から出て、今までのようにセレドニオ様のお手伝いが出来たらなと思っているのですが」

「本当ですか!」

 セレドニオ様の喜色満面ぶりが凄すぎる!

「セレスティーナ様にお手伝い頂ければこれほど嬉しい事はございません!なにしろ陛下が隣国ジェウズを占領下に置いてしまったので、忙しくて、忙しくて、目が回りそうな有様なのです!」


「えーっと、ジェウズ侯国を占領下ですか?」


 山岳に住むクピ族という物凄く危ない部族が山から降りてきて、侯国に襲撃をかけて首都を制圧したっていう話は聞いていたんですよね。


 それで陛下が兵を率いて侯国入りしたと聞いたので、ジェウズ侯国を助けに行ったのかなー〜と考えていましたけど、助けに行ったんじゃなくて、侯国の弱目に付け込んで自国の領土拡大のために動いたって事になるのかしら?


「とすると、侯国の領土はバレアレス王国が併合するという形になるのでしょうか?」

「いえいえ、違います、侯国は聖国カンタブリアに併合される事になるのですよ」


「はい?我が国はすでに滅びているのですが?」


「帝国は飢饉に陥り、山脈は若木の立ち枯れが広がり、人々は聖国を滅ぼしたことによる神の怒りだと怯え、聖国を滅ぼした侯国に対して怒りの矛先を向けているような状態だったのです」


 帝国が飢饉?森の立ち枯れ?ひきこもりだったから全然知らないし、過去の生でもそんな事象は起きなかったと思うんだけど。


「聖女を至高のものとする聖女教会は破竹の勢いで勢力を拡大して行きましたが、聖国を滅ぼしたのは明らかにやり過ぎでした。そもそも、聖女教会幹部の腐敗が問題とされていましたし、聖女の癒しの力に疑問を持つ声も増えているような状態だったのです」


「聖女の癒しの力って本物じゃないですか?」


 一回目の生では聖女カンデラリアが千人の負傷兵を一気に回復させたっていう事がニュースになって世界を駆け巡っていたはずだもの。


「至高の聖女と呼ばれる人物は、確かに欠損した人の腕を再生させる事に成功したそうです。ですが、彼女が癒しの力を使ったというのはそれ一度だけ、以降はどれだけ金を積もうが癒しの力を使う事がなかったそうです」


「お金ですか」


「帝国の七席とも呼ばれる貴族の一人が、病で死ぬ寸前となった娘の為に大金を積んで聖地入りし、至高の聖女の面会を求めたのですが、聖女は一瞥だけで治療を拒否し、多額の費用はお布施として教会が懐に入れただけ。結局、娘はその場で死んでしまったというのです」


「えええ!至高の聖女様って慈愛の人じゃなかったんですか?」


「至高の聖女は儀式を取り仕切るのみで、治療なんかは行わないって言うんですね。希望を抱かせて、金をむしり取るだけ。まともな治療などやらないのが今の聖女教会のやり方らしいですね」


「ええええーっと・・・」


 そういえば、私ったら最近のループでは冤罪で処刑されてばっかりいるものだから、陛下の恋人たちがどんな様子だったかだなんて、まともに調べてもいなかったわね。


「確かに我が国にも聖女を信奉する人間が増えておりましたし、よくよく調べてみれば、宰相も、デメトリオ前王弟も、聖女教の信者だったというではありませんか。熱狂的な信者が敵の間諜になると言うのは良くある話で、我が国も、知らぬ間に聖女教会に蝕まれていたという事になるのでしょう」


 ええー〜、そんな事、今まで聞いた事なかったんですけどー〜!


 テラスに用意したセレドニオ様を招いたお茶会の席で、私は大きなため息を吐き出した。

 私を散々嵌めて殺してきた輩が全員、聖女教会絡みです。私は聖国カンタブリアの姫巫女であり、宗教国家の象徴的な存在。そんな私が何回も、何回も、処刑台に登ることになったのは、聖女教会が裏にいたからだなんて!


 ええー〜?それじゃあなに?今までループし続けていたのって、聖女教会なんていう胡散臭い宗教団体に負けるなよっていう光の神による差配だったって言うわけ?


 陛下と恋人の真実の愛を応援して、二人の幸せハッピーエンドを迎えれば終わりじゃなくて、聖国を滅ぼした聖女教会を倒さない限りは、光の神がお許しにならないとか?


「市民も集まりやすい中央広場にて処刑台を用意し、聖女教会の手先であった宰相やその仲間たちを糾弾し、聖国と同じように我がバレアレスも滅ぼされるところであったと民に喧伝する予定でいるのです」


はわわわわわっとなっている私の様子には一切気付かない様子で、セレドニオ様は人差し指でメガネを押し上げ、話を進めていく。


「我が国の国教では光の神を信奉しており、国民の大多数が聖国を滅ぼした聖女教会に対して不信感を抱いています。この刑場で聖女教会がインチキであったと明るみにし、聖女教会に洗脳された信者の目を覚ましてやろうと考えているわけです。ですから、セレスティーナ様には是非とも、刑を執行する場に立ち会って頂ければと思いまして」


 セレドニオ様は働かず、部屋に引きこもる怠惰な王妃を叱咤するために来た訳じゃなく、宰相とその仲間たち(リリアナ嬢含む)の処刑に立ち会えと言うためにやってきたんですね!


 アデルベルト国王が隣国まで軍を率いて出かけているという事もあり、心から自由を満喫してベッドの上でひたすらゴロゴロし続けていたというのに、そんな私に処刑の立ち会いをしろですって?


「姫さま・・・姫様!」

「あああ!セレスティーナ様!しっかり!」


 その場で目を回した私は、泡を吹いて失神したのだった。


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