第9話 王の幼馴染リリアナ

 私、リリアナ・イリバルネは『天翔る乙女の聖戦』と言う乙女系ゲームの主人公なの。このゲームは私の他にも、隣国の王女とか聖女とかいるんだけど、沈みかけたバレアレス王国を復活に導く手助けをしながら恋を育んでいくゲームになるの。


 攻略対象者は色々といるんだけど、やっぱりメインヒーローはこの国の国王であるアデルベルト陛下よね!元々軍人だった陛下は、流行病でお兄様たちを相次いで亡くして、失意の前国王から王座を引き継ぐ事になってしまうの。


 二十四歳という若さで玉座に就くことになってしまったアデルベルト王は、王位を完全なものにする為に、神の血を引くというカンタブリア聖国の姫君であるセレスティーナ姫を娶る事になるのよね。


 聖国がまともに機能していれば大きな後ろ盾となったのでしょうけど、ジェウズ侯国にあっけなく滅ぼされてしまうのよ。セレスティーナ姫は滅びた国の姫という事になってしまったんだけど、仕方なく、王は姫を娶る事になるのよね。


 セレスティーナ姫は生粋のお姫様っていう感じで、物凄く傲慢で我儘なものだから、下働きなんか人とも思えない人であり、いつも、侍女頭とか料理長とか、自分に関わる人間と諍いを起こしているのよ。


 選民思想が進んだお姫様気質のセレスティーナに辟易としちゃって、疲れ果てちゃっているのがこの時期のアデルベルト陛下なの。


「陛下!お疲れ様!」


 アデルベルト陛下は精神的に物凄く疲れると、夕方頃に庭園を散歩されるの!待ち構えていた私は陛下の腕に飛びついて、とびっきりの笑顔を浮かべたわ!


 傲慢不遜で高慢ちきなセレスティーナに疲れている陛下は、自然な笑顔を浮かべる私の明るさに癒しを感じるのよね。


 私の母は陛下の乳母として働いていたという事もあって、私は陛下の妹ポジションなのよ!家族枠として陛下に認められている私は、お飾り王妃の対応に疲れた陛下の癒しとなり、淡い恋心が熱い炎と化して、最終的には邪魔者を排除して二人で幸せになるの!


「セレスティーナ様が故郷からお連れになった恋人との関係にお悩みになっているのでしょう?あんな人の事なんて気にする必要なんてないわ!私は陛下がこの世で一番素敵な殿方だと思っているもの!陛下!元気出して!」


 この時期の王宮内では、セレスティーナが祖国からたった一人連れてきた護衛兼侍従の若者との恋が噂で語られるようになるのよね。


 自分の妻として娶っているのに、自国から恋人を連れてきたセレスティーナに対して深い失望と大きな怒りを感じているのよ。


「セレスティーナの恋人?」


 普段であれば、あからさまに怒りの表情を浮かべるはずなんだけど、今回の陛下はよくわからないって感じで首を横に傾げているわ。


「チュス・ドウランっていうカンタブリア人がいるじゃないですか!セレスティーナ様がたった一人、カンタブリア聖国から連れてきた方!」


「ドウランがセレスティーナの恋人なのか?」


「毎日掃除に入るメイドが噂していますもの!毎日、二人で愛し合った形跡がシーツにも残っていて、片付けるのが恥ずかしいし、陛下にも申し訳ないと思っているって!」


「何故、僕に申し訳ないと思うのだろうか?」

 今回の陛下は随分と惚けた事を言っているのね!


「だって!仮にもセレスティーナ様は陛下の伴侶となったわけでしょう?この国の王妃様となったのでしょう?だったら・・・」

「この国の王妃様ね・・・」


 随分と疲れ果てた様子で陛下は呟いているけれど、今回は特にダメージが大きいみたいね。


「セレスティーナ様って傾国の美女と言われるような方で、あの人の所為で聖国カンタブリアはジェウズ侯国に滅ぼされたのでしょう?」


 ジェウズ侯国の王子はセレスティーナを手に入れる為に聖国を滅ぼしたのに、バレアレス王国に奪い取られたと考えている所があって、この国ではお飾りの存在であるセレスティーナの所為で両国間に戦争が起こってしまうのよ。


「我が国にとっても疫病神になるんじゃないかって心配する人も多いのです!しかも!結婚した当日から異性を部屋に招き入れているような人でしょう?だから私は心配で!」


「チュス・ドウランが男だから心配なのか?」

「ええ!だって王妃の愛人という事になるのでしょう?」


 相当ショックだったのか、陛下は痛む頭を抱えるようにして私の事を見下ろした。


 いつもだったら、私と一緒に怒り始めるのに、なんで怒ってくれないのかしら?


 今回に限って言えば、怒りより疲労が先に出ているって事?


 今までのループでは、簡単にセレスティーナを処刑にまで持っていけた。

 ギロチン2回、絞首刑1回、今度はバレアレス王国の機密をジェウズ侯国に漏らした罪で絞首刑に持っていくつもりだから、これで隠れストーリーが解放される事になるわけよ。


「陛下、陛下、どうされたんですか?」


 なんだかすっごく頭が痛いみたい、頭を抱える陛下の背中を撫でながら、こっそり優しく抱きしめてしまう私はやっぱりヒロインよね。

 陛下にはヒロインの癒しが必要なのよ。


「陛下、大丈夫ですか?陛下?」

「ああ・・大丈夫だ・・・」


 どうやら症状が大分良くなったみたいで、顔を上げた陛下は怖いような笑みで私を見下ろしたの。


「リリアナ・イリバルネ、イリバルネ子爵の娘であり、母はアデルベルトの乳母をやってんだよな。簡単なルートっつったらリリアナルートで、セレスティーナを殺していくのはさぞや簡単だった事だろう」


「は?」

 意味がわかんない!


「陛下?自分で何を言っているのか理解できてます?」

「子爵令嬢のリリアナ、至高の聖女カンデラリア、ビスカヤの王女マリアネラって、これって全部ヒロインの名前って奴だな。っていうか俺が攻略対象者ってか?まじ意味わかんねえ」


「陛下?陛下?」


「ああー・・お前、もういいわ、うざいから話しかけんな」

 バグ?バグが起こったの?

 全然意味がわからないんだけど!


 アデルベルトが手を挙げると、あっという間に護衛の兵士たちが集まってきて、私を牢屋に入れるように命令したの。


 逃げ出そうとしても捕まって、あっという間に地下牢行き。

 その日のうちに家族まで牢屋に入れられちゃって、セレスティーナを陥れる為に集めた資料が明るみになっちゃって、私はジェウズ侯国のスパイという事で罰せられる事になっちゃったみたいなの!


 本当ならセレスティーナがスパイ容疑をかけられるはずだったのに、なんで!なんで!なんでこんな事になっちゃっているの!

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