四話

 玄関の扉を開けると、外の冷たい空気と共に、新鮮で暖かな朝の光が降り注いできた。その中で歌う鳥の声を聞きながら、カインツは深呼吸をし、そして振り返る。


「それじゃあ、行ってくるよ」


「ええ……」


 見送るカタリナは笑顔を作ってはいるが、何とも弱々しいものだった。それにカインツは苦笑いを浮かべる。


「もっといい笑顔を見せてくれないか?」


「……やっぱり、気持ちが出てしまうのね」


 カタリナは自分に対して笑った。


「これが初めてじゃないんだ。そんな寂しい顔をしないでくれ」


「頭ではわかっているのだけど……」


 どうにか笑顔を作ろうとするが、それができずにカタリナは上目遣いにカインツを見つめた。愛しい眼差しを受け、カインツはその華奢な体を抱き寄せた。


「そんな顔をされては、余計心配になってしまう」


「そうよね、ごめんなさい」


 カタリナは謝るも、カインツから離れようとはせず、その胸板に自分の顔をうずめた。


「でも……半年はやっぱり、私には長いわ」


「わかっているさ。だから前のように、また手紙をたくさん送るよ」


「ええ……私も」


 体を離したカタリナはカインツを見上げる。その顔にはようやく自然な笑みが作られていた。


「その笑顔だ。……行ってくる」


 カタリナの冷たい頬に口付けを残すと、カインツは通りへと出ていく。が、何かを思い出したようにすぐに振り向いた。


「体調には気を付けてくれ。万が一悪くなったら自分だけで対処しようとはせずに、医者か実家のご両親の元へ行くんだぞ」


「わかっているわ。心配しないで行ってらっしゃい」


 笑顔で手を振る妻に自分も手を振り返し、カインツはようやく自宅を後にした。


 住宅街を抜け、町の中央へ向けて三十分ほど歩いたところに、カインツの勤務先である騎士の詰め所がある。古めかしい石造りの建物で、その見た目通りかなりの歴史があった。何百、何千という騎士を見てきた詰め所には、今日も変わらず多くの騎士が集まっていた。


「あ、隊長、おはようございます」


 入り口に立っていた部下がカインツに道を譲りながら挨拶する。


「おはよう。もう準備は終えたのか?」


「はい。昨日のうちに」


 よし、とうなずき、カインツは中へ入った。


「隊長、おはようございます」


「おはようございます。カインツ隊長」


 詰め所内では一番広い会議室に入ると、それぞれ席に座っていた部下達がカインツに気付いて、一斉に挨拶の言葉をかけた。


「おはよう。……もう全員いるのか?」


「はい。集めますか?」


「頼む」


 副官のヘルベルトが会議室から顔だけを出し、他の部屋にいる者達を呼び集める。駆け足でやってきた部下達が席に着くと、会議室は二十五人の騎士で満員になった。部屋の奥に立ったカインツは、その全員を見回してから口を開いた。


「これから聖地へ出発するが、皆、準備はできているな」


 部下達はもちろんとうなずく。しかしその並ぶ顔は、余裕や不安など様々だ。


「騎士になって間もない者もいるから、ここでもう一度任務を確認しておく。我々は聖地ガーベンミュッツへおもむき、そこで半年間、治安維持や巡礼者を守る任務を果たす。憧れの聖地だからと言って、特に新人はくれぐれも舞い上がらないように。我々は観光ではなく、警備をしに行くということを忘れるな」


「隊長、新人だからって、そういうことはないと思いますよ」


「自分は大丈夫っていう新人こそが、一番浮かれたりするんだ」


「そうそう。まさに昔のお前のことだよな」


「なっ……昔のことを出してくるな!」


 会議室に部下達の笑いが満ちて、カインツも表情を緩ませた。


 聖地での警備任務は、騎士となった瞬間から課せられる重要任務である。各騎士団の騎士が三年に一度、半年の期間、聖地の警備におもむくことが決められている。カインツがこの任務を果たすのは数回目だが、地区隊長になってからは初めてだった。ちなみに、正当な理由もなく聖地へ行くのを拒否することはできず、また任務途中で帰ることも許されない。だから子の誕生や家族の死に目に会えないなんてことはよくある話だった。もし任務を放棄すれば、その騎士は罪人となり、長く牢屋に入れられることになる。それだけ聖地警備が騎士にとって大事な役目だということだ。


「何か聞きたいこと、言っておきたいことはあるか」


 すると、ここでは中堅の部下が口を開いた。


「隊長は半年間、家を空けることは不安じゃないですか?」


「そうであろうと、任務は果たさなければいけないのだ。考えても意味がない」


「隊長はお強いですね……。俺は、彼女の心が離れないか、心配でたまらないんです」


「その彼女を信用していれば、心配などないだろう」


「でも、寂しい思いをさせると、やっぱり心はどうしたって……」


「隊長のように、毎日手紙を書けばいいんだよ」


 横からヘルベルトが言った。


「そうやってお互いの愛を確かめていたんですよね? 隊長」


 笑いを隠した視線がカインツを見やる。


「……まあ、手紙は一つの方法だが、私は毎日は書いていないぞ」


「隊長は遠距離でも、奥さんのことを考えているんですね」


「俺だったら家族のことなんか忘れて、一夜の楽しみを探すなあ」


「お前は最低だな。ちょっとは隊長を見習えよ」


「さすが隊長です。僕も愛に溢れた家族を築きたいです」


 なぜか自分の話で盛り上がる部下達を、カインツは呆然と眺めていた。


「隊長、褒められているんですから、喜んだらどうです?」


 横を見ると、ヘルベルトが真面目を装った表情で見ていた。


「……お前は、好きな女の子をいじめる子供だっただろう」


「いじめる? 誤解ですよ。僕はただ隊長の困惑した顔が好きなだけです」


「私にすれば、それはいじめの範ちゅうだ。……羨ましいなら、お前もいい相手を見つけることだな」


「え……?」


 首をかしげたヘルベルトは無視し、カインツはざわめく部下達に目を向けた。


「おしゃべりはここまでにして、出発するぞ。動け」


 隊長の指示に部下達は一斉に席を立ち、それぞれの荷物を持って詰め所を出ていく。カインツも馬の背に自分の荷物をくくり付けてまたがると、通りに並んだ部下の先頭に立ち、振り返る。皆、準備万端でカインツの号令を待っていた。


「……では、聖地ガーベンミュッツへ向け、出発する!」


 部下達は気合いを入れるように、オーと声を上げて歩き出す。その先頭で手綱を振ったカインツは、一路聖地へ向け、まずは町の外を目指して進み始めた。


 聖地とは国のほぼ中央にある、ガーベンミュッツ山とその周囲の地域のことを指す。言い伝えでは、この世界が創造される時、まずガーベンミュッツ山が創られ、そこに神が降り立ってから世界は創られたと言われている。カインツ達の住むバロッサの町から聖地までは、歩いて一週間ほどかかる距離がある。特に危険だったり険しい道のりではないので、休憩や宿に泊まりながら進めば、まず問題なく到着できた。


 出発から三日目、聖地へ続く街道沿いの宿にカインツの一行は泊まっていた。夕食を済ませ、部下達が酒盛りを始めたのを見て、カインツはそっと輪から外れた。疲れがあったせいでもあるが、何より酔った部下にまたからかわれるのを予想して、早めに姿を消しておこうとの行動だった。


「あの、隊長」


 その時、不意に声をかけられて、カインツは一瞬見つかったかと思ったが、振り向いてみると、そこには騎士になったばかりの新人クルトが立っていた。


「……ん、どうした」


 クルトは五ヶ月前にバロッサ南西地区の騎士としてカインツの部下となっていた。まだ十代ながら立派な騎士になろうと志を持つ努力家な青年だ。何事にも前向きで、普段から笑顔を絶やさないクルトだったが、今は表情に緊張が見える。


「少し、お聞きしたいことがあって……お時間、いいですか?」


「ああ、構わない」


 カインツは壁際に寄ると、腕を組んでクルトの言葉に耳を傾けた。


「あの、聖地での任務って、かなり危ないんでしょうか」


 緊張した表情から、カインツはもっと深刻な話をされると思ったが、まったく違う話に拍子抜けしつつ聞いた。


「危ないこともあるだろうが、かなりというほどではない。……向こうのやつらに何か言われたか」


「以前、騎士が盗賊に殺されたと……。あと、屋台で買った食べ物に毒が入っていたとも……それは、本当なんでしょうか」


 クルトは真剣に聞いてきた。これにカインツは息を吐きながら答えた。


「真に受けすぎだ。聖地で騎士が殺されたなんて聞いたことがない」


「じ、じゃあ、違うんですね?」


「新人のお前を怖がらせるために、あいつらが大げさに言ったんだろう。聞き流していい」


 顔の緊張を安堵に変えたクルトは続けて聞いた。


「それじゃあ、本当の聖地はどんなところなんでしょうか」


 カインツは顎に手を当てて、以前見た聖地の様子を思い出す。


「そうだな……印象としては、雑多でせわしい感じだった」


「え? 神聖な場所なのに、ですか?」


「山の神殿へ行けばもっと雰囲気は違うのだろうが、私は地方の騎士だからな。警備任務を行うのは街道や宿場町だ。そこに限ってはそういう印象だったということだ」


 ガーベンミュッツ山の頂上には同じ名の神殿が建てられている。そこは双神騎士修道会の本拠であり、騎士団を統べる修道会総長もいる。そんな重要な場所や人物を警護できるのは、各騎士団でも上級騎士だけで、地方にいる騎士が任されるのはそれ以外の場所と決まっていた。それが街道や宿場町だ。


 聖地へは一年を通じて巡礼者が絶えない。そんな彼らが通る街道を騎士は警備する。大昔には追い剥ぎなどが現れていたが、騎士が見回るようになってからはその数も減っていた。そんな悪党は今、宿場町に現れるようになっていた。


 街道に沿って栄える宿場町は、もともと存在しない町だったが、巡礼者を目当てに商売をする者が増え始めると、次第に人が集まり、店も作られ、そこに住む者も現れ……というふうに、町として発展していき、今では騎士にも巡礼者にも欠かせない場所になっていた。しかし、大勢の人でにぎわい、栄える一方、治安の問題もあった。毎日様々な人が行き交う場で、もめごとは当然のようにあり、スリやぼったくりなどの犯罪も頻繁に起こっていた。もしかしたら神殿警備よりも、こちらを警備するほうが大変なのかもしれないが、治安を守る騎士としては、いい経験になることは間違いないだろう。


「まあとにかく、任務につけば観光気分は吹っ飛ぶ。楽しいだの怖いだの考える暇がないくらい目まぐるしいところだ。バロッサの静けさが恋しくなるかもな」


「隊長の場合は、静けさではなく奥さんではないんですか?」


 え、とカインツが見つめると、クルトは慌てて言った。


「あ、間違ったこと、言いましたか……?」


「……いや、間違いでは……あー、うん……そうだな」


 戸惑う様子に気付いているのかいないのか、クルトは笑顔を見せた。


「半年は長いと思いましたけど、そんなに忙しそうならあっという間に過ぎるかもしれませんね。……お話、ありがとうございました!」


 礼を言うと、クルトは酒盛りで騒ぐ席へ戻っていった。


「……新人にまで私のからかい方を教えたのは誰だ」


 呆れた溜息を吐き、カインツは自室へ下がるのだった。


 バロッサの町を出発してから一週間後、カインツ一行は無事に聖地ガーベンミュッツに到着した。ここは川や緑もなく、荒涼とした景色が広がるだけで、本来は殺風景で物寂しい場所なのだが、それも昔の話で、今は山の裾野で商売をしながら暮らす人々や、そこを訪れる客達の喧騒が辺りに途切れない活気を振りまいていた。


「うわあ、こんなに店があるのか」


「何だあれ、見たことない食い物だな」


「何か、人に酔いそうだ……」


 初めて聖地に来た若い部下達は、宿場町の人でごった返す中を歩きながら物珍しげに周囲を眺めていた。


「あんまりよそ見してるとつまずくぞ。ちゃんと付いてこいよ」


 ヘルベルトが後方の若手に注意する。


 馬から降り、手綱を引いて歩くカインツは、もう何度も見ている景色には目もくれず、真っすぐに目的地へ向かう。そこは宿場町を抜け、神殿へ向かう道の脇にある広い空き地だった。


「おお、カインツ隊長、やっとご到着だな」


 姿を見て、一人の男が笑顔を浮かべて呼んできた。


「……ホイス隊長、ご苦労様です」


 手綱をヘルベルトに預け、カインツはホイスに歩み寄った。ホイスはバロッサの町の北東地区隊長で、カインツとも顔見知りだ。今日ここでの半年の任務を終え、カインツと入れ替わりに帰還することになっていた。


「予定通りに着いてくれて助かる。さすがはカインツ殿だな」


「何かあったのですか?」


「いやなに、この歳になると半年の天幕暮らしは少々体にきてな。早く寝慣れたベッドで休みたかったのだ」


 五十代半ばのホイスは、おどけた顔で自分の腰や肩をさすった。


「では、早く引き継ぎをしてしまいましょう」


「そうだな。部下を待たせていることだし……」


 ホイスは持っていた書類を渡しながら、カインツに任務の予定や警備範囲、寝泊まりする天幕などを説明する。


「ここからあそこまでの、十三の天幕が我々の家だ。掃除は済ませてあるから安心してくれ」


「お気遣い、ありがとうございます」


 二人は向き合い、額に手をかざして敬礼する。


「バロッサ北東地区隊、聖地警備任務の引き継ぎを終了。これにて帰還する」


「バロッサ南西地区隊、引き継ぎを了解。これより聖地警備任務につきます」


 敬礼の姿勢を解くと、二人はすぐに表情を緩めた。


「じゃあ、我々は帰らせてもらうよ」


「お任せください。道中、お気を付けて」


 軽く手を振り、ホイスは部下の待つ宿場町のほうへ去っていった。


「……それでは、今から任務に移る。天幕は二人一組で使え。荷物を置き、準備を整えたら、再びここに集まるように」


 隊長の声に部下達が一斉に動き始める。空き地にはカインツ達が使う天幕だけでなく、他の地区の騎士が使う天幕も無数に並んでいる。その白い家並みは遠くまで続いており、しっかり場所を憶えないと迷子になりそうな景観だった。


「隊長はいいですね。大きな天幕で一人暮らしで」


 ヘルベルトは馬留に手綱を結びながら言った。


「隊長の特権だな」


「奥さんへの手紙も邪魔されずに書けますね」


「どうだかな……。私はお前に邪魔されそうな気がしているが」


 じろりと見られたヘルベルトは、とぼけた笑みを浮かべた。


「それは隊長の思い過ごしですよ。……あっと、僕も準備してこないと」


 そう言ってヘルベルトはそそくさと離れていった。その姿をカインツは笑って見送った。


 隊長用の天幕は他より確かに大きくはあるが、所詮地区隊長用のものなので、中は若干広い程度だ。置かれているのはベッドと机と椅子のみで、頭上にはランプが吊るされている。最低限のものだけが置かれている感じだ。カインツは持ってきた荷物をとりあえず置くと、すぐに天幕の外へ出た。


 すでに数人の部下が集まっていたが、まだ大半の姿は見えない。それをカインツが待っていた時だった。


「君達は、まだ来たばかりか」


 道のほうから声をかけられてカインツは振り向く。と、そこには、鎧をまとい、マントをなびかせる、体格のいい男が立っていた。その紫の瞳の眼光は、強さをたたえながらも優しくカインツ達を見ていた。


 若い部下が誰だろうと首をかしげる中、カインツはそれに瞬時に気付き、そして敬礼した。


「はっ……エレミアス団長!」


 団長という言葉に、周りにいた部下は目を丸くし、急に慌て始めた。その様子をエレミアスは小さく笑う。


「硬くなるな。そのままでいい。ただ通りすがりに部下達の顔を見に来ただけだ」


 微笑むエレミアスだが、茶の髪を撫で付けたその精悍な顔立ちの印象は、笑顔になっても崩れることはなかった。


 ヘルマン・ルター・エレミアス――彼はカインツが所属するマイツェルト騎士団の団長で、四十四歳と、四人いる団長の中では一番若かった。しかし、剣の腕や人徳は一番優れているとされ、彼を慕い、手本にする騎士は大勢いた。実は、カインツもその一人である。以前、騎士団本部へおもむいた時、遠目からではあったが、エレミアスが模擬試合をしている場を目撃し、その剣さばきと礼儀を重んじた態度に、ひどく感銘を受けたのだった。それ以来、カインツの理想はエレミアスとなり、彼に少しでも近付くため、日々任務に実直に励むことを心がけていた。


 敬礼を解いたカインツは恐る恐る聞いた。


「あの、団長はなぜ聖地にいらっしゃるのですか?」


「今年は聖地警備の任務なのでな。君達と同じだ」


「そ、そうだったのですか……」


 カインツはエレミアスと同じ時期に任務があることを今初めて知り、瞠目した。


 団長であっても聖地警備任務は変わらず、他の騎士と同様、三年ごとにここで任務を果たさなければならないのだが、カインツはこれまで聖地でエレミアスを見たことは一度もなかった。まして天幕にまで来るなど思いも寄らないことだった。エレミアスの言う通り、カインツ達はマイツェルト騎士団員であり、一応彼の部下ではあるのだが、都会と田舎の騎士にはいろいろな意味で距離があり、大きな戦争でも起こらない限り、カインツ達地方の騎士は団長と関わることはまずなかった。


 それが今、目の前まで来ている――この状況にカインツは驚くばかりだった。


「こんなむさくるしい場所に、わざわざお越しいただかなくても……」


「迷惑だったか」


「い、いえ、そういう意味ではなく……」


 恐縮するカインツをエレミアスは微笑んで見つめた。


「普段、直接指示することはないが、君達は私の部下には違いないのだ。それがどんな者達か、一度見ておきたかっただけだ。……邪魔をしたようですまなかったな」


 これにカインツは慌てて首を横に振った。


「邪魔など……お目にかかれて大変光栄です。私共、騎士の端くれを忘れずにいてくれたことはとてもありがたく思います」


「そうへりくだるな。君達は立派な騎士なのだ。……では、任務に励め」


 そう言うとエレミアスは踵を返し、神殿のほうへ去っていった。その背中を見つめながら、カインツと近くにいた部下達は、背筋を伸ばした敬礼で見送った。


「……隊長? 誰か来ていたんですか?」


 準備を終えて戻ってきたヘルベルトが背後から話しかけてきた。それにカインツは敬礼の腕を下ろし、振り向く。


「エレミアス団長だよ」


「え? 本当ですか? どうして団長が……何かやらかしたんですか?」


「通りすがりの部下の視察だそうだ」


「へえ……団長自らがそんなことをするなんて、初めて聞きますね」


「私もだ」


 すでに見えなくなったエレミアスの姿を追うように、カインツの視線は神殿のある山のほうへ向けられた。どういう気持ちからなのかはわからないが、末端の自分達のことをわずかでも気にかけてくれたことがとても嬉しく、やはり人徳に溢れる団長なのだと、カインツは改めてエレミアスに尊敬の念を抱き、そしてこれから始まる任務に気合いを入れるのだった。

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