本当の彼3

「俺がどうなろうとHPポーションは絶対使うな。使うなら自分のために使え」


 俺に気を遣っているそう思ったが――ログに彼の固定スキルが流れる。



【リベス対象:防御力大幅低下】



【リベス対象:消音・ヘイト低下】



【リベス対象:耐久0、回避強化】



 初めてだった。彼が自身のスキルを使っているのを見るのは……。


 ピリピリとした空気。

 いつもの優しさなんて感じない。


「行きます!!」


 双剣を引き抜き、水中から飛び出した赤いエイオキナが水面に着地したと同時に俺は彼よりも早く斬り込む。すると、俺の視界に割り込もうと穂が見え、切り捨てながらバックステップを踏むと銃声と共にヒレ、胴体――と結合崩壊部位破壊を起こす。



結合崩壊部位破壊発生 左ヒレ】



 続けて……。



結合崩壊部位破壊 右ヒレ】



結合崩壊部位破壊 頭】



結合崩壊部位破壊 胴体】



結合崩壊部位破壊 背】



 フィールドが赤くなり、二戦目に行く――と身構えたとき、怪しくも美しい声が響くも「悪いが、今回は黙っててもらおうか」と真っ黒な矢が赤いエイオキナに深々と刺さり唸る。


 雷が落ちたような地響きと激しい音。


 思わず耳を塞ぐと……。



結合崩壊部位破壊 魔の声】



【人型への移行強制停止】



【フェイズ進行を中止します】



 と、一定ダメージと部位破壊で進化を止めた。


「えっ……」


 手が止まる。そんな俺を見て彼はニヤッと笑う。


「これで怖くないだろ。好きなだけボコれる」


『ボコれる』

 その言葉にゾッとした。


 いつも後衛の彼が楽しそうに笑ってる。『自分よりも相手が下だから』と見下しているように見え怖かった。


 殺気放つ目と貶すような口調。


 譲らんと俺の視界に入り込み、わざと攻撃をさせないように。または、当ててやろうとする気持ちで来る圧。


「どうした、終わりか?」


「ッ……」


 俺が踏み出せば彼も踏み出す。穂が頬を掠り、触れるか触れないかのかギリギリの距離。相手がオキナなのに彼の放つ穂は俺に向かっており、フェイズ移行を封じてから様子がおかしい。


「わざとですか?」


 踏み出しつつ、素早く後ろに下がると俺の行動を読んでいるのか一気に詰め寄られる。


「手加減したら殺してくれるんだろ?」


「だからって……!!」


「コイツは初心者向けのモンスター。ある一定ダメージを与えればフェイズ無効できる。

 だが、上のランクとなれば強制的にフェイズ移行され、一気にモチベーションやリズムを崩されやすい。防ぎたいなら弱体化なり、なんなり俺に言ってくれさえすれば死んだってなんだってやってやる。

 アンタとゴリラケイにはそれが足りない。自分だけを見るんじゃなくて周りを見ろ」


 俺に何かを伝えたいのか、オキナに穂を突き刺すと銃声が響く。慌てて斬り込むと彼は何もせず、双刃刀そうじんとうに切り替え花びらと共にオキナを斬り刻んだ。

 美しくも汚い声が「痛い」と言わんばかりに俺たちに弱体効果をもたらす。



【プレイヤー対象:攻撃力低下】



【プレイヤー対象:防御力低下】



【プレイヤー対象:強化スキル打ち消し】



【プレイヤー対象:弱体効果+】



 フェイズ移行のログは流れないが【オキナ】の見た目が変わった。

 見たことある赤や金と花魁衣装。しかし、フェイズ移行のしてないせいかBGMは変わらず変な声もしない。鍵づめような長い爪、大人でもなく幼女。手を差し出し水が魚の形となっては襲ってくるだけだった。



【弱体化オキナ】

 フェイズを無効したときに現れる。



「ほら、いきな」


 矢を切り替え、付与された弱体化を打ち消そうと彼が矢を俺に打ち込むも『強制固定』か。



【弱体化スキル打ち消し不可能】



【弱体化スキル打ち消し不可能】



 ――とログ。


「運営めッ弱体化オキナを強化したのか」


 苦笑し、彼のリズムが崩れたのか軽く舌打ち。俺に近づき脅されるかとグッと目を瞑ると「先に突っ込む。アンタはコイツの動きを見てくれ」とポンッ頭に手が乗り、優しく撫でられた。

 突然の彼の行動に驚き、恥ずかしくなり頬を赤く染める。


「えっ……わ、私が先行しますよ!!」


 遠ざかる彼の背を追い掛けると俺を待ってくれてあるのか一瞬足を止めた。先に行けと言わんばかりに俺が彼を追い越すと――。


「背中は任せな」


 空耳かと思い振り向くと背を向け、クロスボウを構える彼の姿。いつもリクやケイの様子を見ながら、指示を受けながら行動を起こしていたが……きっと彼は同じ思いさせたくないと俺に「一歩踏み出せ」と言いたかったのだろう。


 リクが言っていた「嫌いじゃない」。

 その意味が少し分かった気がした。


「はい!! 前衛は任せてください!!」


 双剣が風を斬る。

 矢が空気を震わせる。


 緊迫していた威圧感はなく、彼との戦闘はとても楽しかった。それよりも一つ気になったのは――。



【戦闘不能:リベス】

    :

    :

【戦闘不能:リベス】

    :

    :



 と、強いはずの彼が心を開いてくれたのか弱みを見せてくれたこと。それが『勝利』することよりも声に出来ないほど嬉しかった。

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