本当の彼2

「わぁ……きれい」


 掴もうと手を伸ばすも触れられず、無意識に彼に目を向ける。いつもなら「後衛がいい」と前衛を避ける彼が積極的に攻め込む姿は新鮮そのもの。

 加勢しようと双剣を引き抜くもリクが妨げるよう俺の前に刀を出す。


「悔しいんだってさ。ユナが一人ログインの時に努力して泣きながらも戦って、ケイや俺達に食らい付こうとしてるの」


「えっ……」


「ほら、ケイや俺やら不在の時オンライン確認してコッソリ戦いに行ってんだろ? そのバレバレバージョンだよ。アイツ、一時期上位争いに入るほど強いところに――」


 話の途中で透き通る美しい歌声が話を邪魔し、声が消されると歯を食い縛りそうな嫌な音に一斉に耳を塞ぐ。



【プレイヤー対象;氷・無(音)属性弱体】



【プレイヤー対象;物理防御弱体】



 ログに弱体効果が記されると、打ち消そうとリベスが【シャッフル】【コール】と俺達の弱体化を全て受け止め代わりに【属性強化】【物理魔法強化】【カード身代わり】と見慣れたものから特殊なバフ。


「あわわ、リベスさん付けすぎです」


 手を上げ、珍しく挑発の仕草をするも怒り状態を示す禍々しいエフェクトに動きを止め、なぜか此方に向かって走ってくる。


「ちょ、チビ。いきなり来るなバカ!! そんなにすぐ標的タゲ取れねーよ!!」


「うぉい、リベス。それは無し。俺クールダウン中」


「ま、待ってください!!私、心の準備が……」


 話し合い無しでそれはそれで怖かったが――不思議と楽しかった。


狂気化暴走。ぶっ壊してやんよ!!」


「花と散れ……桜花」


 俺を置いてけぼりにする前衛脳筋


「あ、あの……」


 モタモタしていると、リベスが氷に飛ばされ俺のところまで転がって来た。ボロボロで体力HPがないのか、息を切らし血を拭う姿にHPポーションを差し出す。


「……悪い」


 バリンと握り潰すと傷が癒え、ゆっくり立ち上がるも走り出そうとする彼の腕を掴む。


「わ、私……前に出ます!!だから、下がってください」


 ――怖かった。ボロボロの時の自分を見ているようで。痛々しくて苦しくて仕方なかった――


 私の言葉に目を丸くし何かを悟ったのか、悔しそうに唇を噛むと「援護する」。嫌そうにそう答えた。

 それから――拠点に戻るもふてくされているのかムッとしており、リベスとの距離が遠ざかる。そう感じることが日に日に多くなった。


「リベスさん」


 いつもの服装に戻った彼に話しかけるも無視で四人で討伐に行っても見てるだけで前よりもバフが少ない。リクもケイも異変に気づいているがあえて口にせず、リベスを除く三人で戦略を練る。


「リク」


 気になりケイが口を開くも「我慢」と言いたげに静かに俺達を見つめ沈黙。以前のパーティーグループにはなかったギクシャク感。慣れない空気に惑わされる俺とケイにリクは微笑みこう話す。


「嫌? 俺はだけど」


 初めは意味が理解できず言葉を詰まらせるだけだったが、その答えがすぐに分かったのはケイとリクがポジション確認で不在時の時――彼からの不自然なコメント。


【通知:リベスさんからメッセージです】

『赤い睡蓮の湖で待ってる』



         *



「リベスさん」


 約束の場所につくとクロススピアを手にした彼の姿。俺を見て嫌そうに目を逸らすも「オキナ」と静かに口を開く。


「えっ?」


「悔しくないか。倒せなかったこと」


 それは再戦の誘いだった。


「グラ戦やるんだろ。なら、一つ一つ嫌なものは切り捨てて切り替えた方がスッキリしないか」


「ずっと心残りだったんですか?」


「あぁ……。アンタが羨ましいよ。俺よりも克服して立ち上がるなんてさ」


 フッと鼻で笑い、背を向ける。


「俺は元々エリクシルでもっとも強いと言われていたパーティーグループにいた。バフ専門として雇われ、ずっとをサポートしてきた。

 だか、俺にはソイツらの戦術が合わなかった。強さを求めるあまりに楽しさなんて感じず、ミスれば怒られるの繰り返し。俺自身、食らい付こうとして戦法を変えたりもしたがアイツらの期待に応えられず強制的に外された。それからだ、戦い方も何も分からなくなったのは……。

 PK癖はそのトラウマ。人を殺したいわけじゃない、誰かと手を組と必ず起きる。攻撃の拒否反応だと思ってくれ」


「拒否反応……もしかして、リベスさんはずっとと誤射をしていたってことですか?リクさんはその事を知ってて……」


「その言い方苛つくな。まぁ、話せばそうなるか。これでも多少軌道はズラしてある。当たるか当たらないか運によるが……」


 槍を水面に刺し、フゥと溜め息。


「やるか? やるならアンタがリーダーになれ。俺はサポーター。アンタの指示に従おう」


「指示……」



【リベスがグループパーティーに入りました】



 ログが目の前に現れる。


 グループパーティーという『組織』としての束縛が体に染み付いているのか、時々口にする『指示』。


 その言葉が気になって仕方なかった。


 聞くたびに彼が『人形』のように見え、リクもそれに気づいていたのか。俺に「指示って言われたら反発しろよ」と数時間前にコメントが届いていた。


「指示なんてしません。私はリベスさんの本当の戦い方が見たいです。じゃないと許しません。!!その代わり手加減したら私がリベスさんをますから!!」


 必死にリクやオレの思いを伝えたい。その思いから強くなった口調。少し裏返った俺の声に驚いたか目を丸くするとフッと彼が笑う。


「じゃあ、試すか?辞めたいなんて言っても辞めないからな」


「望むところです!!」


パーティーグループメンバー確認。

 オキナ戦 開始します】


 フィールドが光り、敗北したあの場所に足がつく。一瞬、胸が締め付けられるように苦しくなるもリクやケイを思い出し落ち着かせる。


「怖いんだろ」


「こ、怖くないです。リベスさんこそ、この時点で強化矢セットしてるじゃないですか!!」


 俺の言葉にムッとしながら矢を放ち、【攻撃力大】【防御力大】といつも通りバフを付ける。だが――それは俺だけで彼は何も付けなかった。

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