本当の彼1

 事が大きくなったのはあれから数日後。毎日ログインしていたリベスの姿が見えない。


「リクさん……」


「大丈夫。いつものことだから」


「でも、四日目ですよ」


「ユナ、落ち着け。お前は何も悪くないんだ。考えすぎるな」


 拠点でリクやケイに不安をぶつけるも俺のせいじゃないかと胸がざわつく。call呼びを掛けても、コメントを送っても無視。そうする理由が知りたくて仕方なかった。


「今日も三人で行くか。雑魚だけどコカトリスの討伐かな。ユナも動き良くなってきたし見学疲れたろ? 俺が下がるから前に出てくれ」


「良いんですか?」


「あぁ。今日の見学は俺。二人の動きバッチリ見させてもらうから」


 グッと親指を立ていつものように笑顔を絶やさない。



【ヴェルデ高原】

 緑生い茂る自然豊かなフィールド。花や草がカサカサと揺れ、香り漂う冷たい風。

 草から鳥が顔を出す。雛のようで鶏のような姿。蛇のように長く不気味な尻尾が可愛さを半減させる。



「ケイ、見つけたよ!!」


 小走りで駆け寄り、双剣を素早く引き抜く。すると、ケイが挑発。俺に敵視を向けぬよう気を引いた。


「おら、来いよ!!」


 荒々しさにヒヤヒヤするが、ケイは手を叩き楽しそうに笑う。その隙に「はぁぁぁ!!」と俺が踏み込み、コカトリスを斬り刻む。


「いいぞ、ユナ!!」


「えへへ」


 妙な重さや違和感は戦闘中にメンバーの近くにいることで解消。だが、ポッカリと何かが空いたような感覚が嫌で仕方なかった。


「おつかれ、ユナ」


「お疲れ様です」


 目標を達成し喜ぶも……物足りない。


「どうした?」


「えっ?」


「背中がアレだよな。気になるというか何と言うか……落ち着かない」


 同じだった。先輩と。


「チビが居なくなってから背中がゾワゾワすんだよ。守ってくれる奴がいないつーか」


「分かります。バフとかで安心感があったから余計に気になるんですよね」


 先輩と目が合い、クスッと笑った。


「なーに、ニヤニヤしてんだよっ」


 会話を聞いていたリクが背後から飛び付き、嬉しそうに笑う。俺達の髪の毛をワシャワシャと手でグシャグシャにすると――【緊急事態発生 特殊エンカウントによりフィールドに転送します】と突然足元が光始めた。



         *



 目を開けるとひんやり冷たい感覚。手を浮き立ち上がると氷の床だった。


「ユナ、早く起きろ!!」


「えっ? きゃあ!!」


 突然ケイが俺の手を掴み、引き寄せる。担がれ、状況がわからぬまま走り出す。背後から氷のエフェクトを示す涼やかな音が聞こえ、振り返ると氷が棘のように突き出ていた。


「せ、先輩これ……」


「氷の神スカジ」


 ダンッと強く踏み込み、大きく跳躍。刀を構え、カウンター体勢に入っていたリクを飛び越え、俺達の代わりに受けると「黒鉄くろがね」と黒い光が氷を砕く。


「悪い」


「ん、いや。の緊急要請に急に参戦したらしくてさ。ホントごめんな」


 剣先で何かを指差すと氷のように透き通った美しい女体に立ち向かう人の姿。黒いYシャツに黄色のベストと白のスラックス。手にはビリヤードの棒キューと姿容を見る限り見知らぬプレイヤーに見えたが必死に避ける姿に見覚えがあった。


「もしかして、リベスさん?」


「はぁ!? んなわけ……ん?マジか」


 愛銃愛槍はそこにはなく、代わりにあるのは赤、青、緑、黄色と四枚のカードと四つの色。


callコール


 そう手を前に突き出すと【耐性効果継続】とログが流れる。


 続いて、黄色が五枚。

 10、J、Q、K、Aフラッシュロイヤル



【クリティカル確率 大】



 バフがついた瞬間、バックステップし手を前に出すと彼を守るように舞うトランプがスカジを切り裂く。攻撃力は低いがクリティカルを示す金色の光が氷のフィールドに反射。あまりの眩しさに目を閉じるもキラキラと光る『それ』はカジノでいう『チップ』のようだった。

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