ポジション3

 涙が溢れそうだった。戦闘中に誉められたのは、あの時以来全くない。


「どうした? 驚いた顔して。此方がいいか?」


 ポンッと彼の手が頭に乗る。暖かくて優しい手。だが、よく見るとその手は微かに震えていた。


「リベスさん?」


「……もう少し前に出てくれ。出来れば俺の射線に君が割り込むように」


「そしたら、邪魔になるんじゃ……」


「邪魔でいい」


 微笑みが消え苦笑すると矢をセットする。しかし、その矢は『回復の矢』で攻撃向けの矢ではない。


「ユナ!!」


 危険を知らせるケイの声。


「えっ……きゃ!!」


 突如、飛んできた斬撃に反応出来ずグッと目を瞑るとケイが俺の前に飛び込む。腕をクロスさせ、ガードしながら受け凌ぐと「大丈夫か!!」と逞しい背。


「あ、うん……」


 状況が把握できず思わず戸惑う。


「ったく、チビ!! お前なぁ!!」


「あーダメダメ。いい忘れたけど他者の行動に口出し禁止」


 ケイの一言に喧嘩になると思ったか、リクが戦いながらも器用に会話に割り込む。鞘に刀を戻し、素早く引き抜くと黒い斬撃がタナトスを刻み、バリンッ!!とガラスを砕いたような独特な音。鎌を宙を舞い、タナトス手を付き行動を一時中断させる。



【タナトス down】



「ケイ、言ったろ?あくまで確認。反省会は後でやるから今は自分が出来ることをする。これが終わったら文句でもなんでも聞いてやるからさ。それまではお預けな」



【タナトス 撃破。拠点に転送します】



「おつかれ~。さてと……」


 ニコニコしながらリクはケイの愚痴を聞く。時々、俺を見て何か言っているのか先輩にしろ怖かった。


「ユナ」


「あ……はい」


 リクに呼ばれ、恐る恐る駆け寄る。


「武器重くなかったか?」


「重くなかったです。リベスさんをどうにかして守らないと――って咄嗟に振ったので」


「なるほど。指示は間違ってなかってことか、了解」


 俺の言葉にリクが嬉しそうに笑う。


「リベス、何回空撃ちしてた? ほとんど強化矢しか撃ってなかったろ」


「ご存知だったんですね」


「今日が初めてじゃないからな」


「三回ぐらいかな。あとは強化矢でした。あの、リベスさん過去に何があったんですか?」


「減ったか。ん……それは本人に聞きなよ。後ろ」


 背後を指差され振り向くと嫌そうに目を逸らすリベスの姿。


「じゃ、俺とケイは先に落ちるから二人で話し合ってどちらか俺に報告したら解散な」


 トントンッと肩叩き、ケイに元へ掛けては外へ。残された俺と彼は目を合わせるも声は出せず、目を逸らすことしか出来なかった。


「なぁ」


 口を開いてくれたのは数分後。祈りをしていると後ろの席から気だるそうな声が耳に入る。


「動き、悪くなかった」


 話してくれたのはその一言だけ。俺が話しかけても何しても目は合わせてくれるが返してはくれなかった。


「リクさんには私から報告しておきますね」


 そう俺が口にした瞬間、彼は小さく頷く。何か言いたげに口を開くもグッと堪え、ヘッドセットを外した。

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