ポジション2

「で、良かったら死神タナトス戦行かない? 前衛が俺とケイ、後衛はリベス。ユナは見学な」


 リクの言葉に「えっ!?」と驚きの声をあげるとニコッと笑み。俺の反応に喜んでいるのか、その逆か。読み取ろうとしても読み取れない心理。


「いいぜ。腕試しか」


 疑うこと無くケイはリクの案に乗る。リベスは口を開かず、じっと俺達の様子を伺う。そんな彼を見ていると時々、光がない目で遠くを見つめ自分の意思ではなく『見えない何かに動かされている』ように見える。言葉では上手く説明できない妙な感覚。


「ユナ。おーい、何かに考え事してんだよ」


「あ、ごめんなさい」


「ん、リベスのこと気になるのか? なら、戦闘時にピッタリくっついてれば知りたいこと分かると思う。冷たそうに見えて何かと優しいからな」


 俺の心を読み取る鋭い洞察力。


「――と言うわけで。20時に【world of Death死の世界】に集合!!ポジションは解散したら俺が考えてプチエリで送るから各自確認するように。はい、解散!!」


 突然の解散に戸惑いながらエリクシルを終了。ヘッドセットを外すと「おかえり」と圭が俺の顔を覗き込む。


「俺、アルバイトだから行くわ。また、20時にエリクシルで会おうな」


 ニカッと子供のように笑うとバタバタと慌てた足音が遠退く。眠りから覚めた鈍った体に鞭を打つよう体を起こすとブブッとスマホが鳴った。


『通知【プチエリ】

 リク様からメッセージです。』


 開くとそこには、細かい戦闘の立ち回りと内容。タナトスの攻撃、行動、弱点等。改行無しの敷き詰められた読みづらい文章が送られてきた。



         *



world of Death死の世界


 腐敗臭・瘴気漂う薄暗いフィールド。鹿や人骨と石のように転がり、一人看板代わりに建てられた墓石の前で立つ。

 トントンと肩を叩かれ、振り向くと暴食グラを思い出させる紫の炎を帯びた黒フードの異常状態に特化したタナトス装備。

「あ……」と声を出すと「俺だ」とフードを取るとリベスの姿。


「悪いな。そういうだからな」


「い、いえ……すみません。暴食グラに似てたので……」


 返す言葉が見つからず口ごもると気まずい空気。だが、それを待っていたかのように「ばんちゃ」とリクが現れ、その後ろにケイの姿。


「あれ、ケイ。装備変えた?」


 朝とは違う微かな変化。コートの色やグローブの色。リクやリベスも同じだった。俺だけ変わらず、取り残されている気もするが仕方がない。俺に送られてきたリクのコメントには、こう記されていた。



【ユナへ】

 今回はリベスの監視役。アイツからPK行為のことは聞いてるだろうから、下手に事を起こさないよう見張っててほしい。

 遠距離攻撃が来たときのみ、双剣の使用を許可。討伐対象ではなく攻撃の打ち消し。まずは、そこから徐々に慣らしていこうな。

『注意書き』

 指示についてはメンバーに言わないこと。戦闘中にメンバーが気付いて行動を起こすか、気付かなくても戦闘終了時に報告。

 あくまで自分ポジションとメンバーの動きの確認と認識。【誰がどうして何をする】ではなく、自分が戦って楽しいと感じられるならそれでいい、と――。



「リベスさん。また、ご迷惑お掛けしますがよろしくお願いします」


 ペコッと彼に一言声をかけ、丁寧にお辞儀。すると、彼も会釈。


「此方こそ」


 前とは違い緊張しているのか堅苦しく感じた。


「よし、じゃあやるぞ!!」


『討伐クエスト確認……

 対タナトス 開始します……』



【battle start】



 戦闘曲のない静寂の中。俺達の目の前に現れたのか人の手のような大鎌を持った死神タナトス。ボロボロのフードからギロッと光る紫色の瞳。纏っているローブが風が吹いてないのに靡き揺れる。


「リク、先に行かせてもらう!!」


「あいよ、お好きに!!」


 一番最初に仕掛けたのはケイだった。しかも――「おらよ!!」と軽く叩くのではなく強攻撃。一騎に標的タゲが彼につくと「おーい、タナトス。ケイじゃなくてオレを狙ってほしいなぁー」とリクが手を叩き釣る。


 全く戦法が違った。

 俺がケイと一緒に居た時と。


「リベス!!」


 フィールドに響く力強い声。リクの声に返すよう俺とケイ、リクのパラメーター一気に上昇。



【攻撃力UP】

【防御力UP】

【異常状態無効】

【物理属性付与】

【毎秒後とHP回復(微弱)】

【ガード強化、時短延長】

【カウンター発生率UP、範囲拡大】

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 数えきれないほどのバフ。俺の隣でヘビークロスボウを構え、空に向かって撃ち込む。それを何十回と繰り返す。オキナ戦よりも多く、その分行動が止まる。


「……リベスさん!!」


 前衛の二人をすり抜け、物凄い早さでやって来た炎を纏った髑髏鬼火。俺の声に気づいた彼はヘビークロスボウから槍に切り替え、穂を突き出し引き金トリガーを引くも銃声が


「危ない!!」


 咄嗟に彼の前に飛び出し、無我夢中で背負っていた双剣を引き抜く。ズハッと両断し、燃え尽き灰となって消えると「ナイス」と低くボソッとした声。そして、誉めるようトンッと背中を叩かれた。

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