後日談
美和子です。
私が渚ちゃんから町案内されてから半年の歳月が経ちました。
私はこの町で心機一転する為に、子供の頃の夢だったケーキ屋さんで働くことに決め、今は【ケーキの園田】さんで店員として働かせてもらってるの。
前の職がデスクワークで、今度はケーキ屋さんなものだから、最初は戸惑いも不安もあったけど、今では園田さんのケーキ作りに口を出せるところまで成長することが出来た。
「本当に美和子ちゃんが来てくれて良かったわ♪美和子ちゃんの指摘のされた通り、今までの糖分過多のケーキ作りをやめて、糖質を抑えたケーキに作り変えたら、客が一気に増えちゃったもんね♪味も良くなったって大評判よ♪」
恰幅のいい【ケーキの園田】の店主こと園田 慶子(そのだ けいこ)さんが、ガッハハと大きな声で笑ってる。豪快で尚且つ優しい慶子さんの下で働けることは、前職で企業戦士として若干社畜に成りかけてた私にとって、この上ない幸せだった。
"カンカラカーン"
夕方に近い時間に、店の入り口のベルが鳴る。
「いらっしゃいませ〜♪」
私が元気良く挨拶をすると、入り口が半分ほど開いて、ひょっこりと【魚屋の木村】さんの跡取り息子である鰯君が顔を出した。
「ど、どうも。」
いつも通り頭を掻きながら恥ずかしそうにしている。私はこの半年で彼とは打ち解けれたようで、中々速いペースで仲良くなれた。これも商店街を通る度に【魚屋の木村】の前で、彼に欠かさず挨拶をした賜物である。おかげで美味しい魚を買うことが出来る様になった。
「鰯君、今日も来てくれたんだ。」
「は、はい、美和子さんのケーキ美味しいから。」
「プッ、私はまだケーキ作ってないのよ。作ってるのは慶子さんなんだから。」
「そ、そうですね…あはは。」
話してみると鰯君も中々面白い。意外と笑うし、話していて疲れない。
鰯君はいつもの様にチーズケーキを一つ買って帰った。帰り際に私が「明日、魚屋に寄るね」と言うと鰯君はぎこちなく笑ってた。
「美和子ちゃん、イッ君に大分気に入られたみたいね。」
厨房の慶子さんがそう話しかけてきた。イッ君か、私も今度からそう呼ぼうかな?
「はい、イッ君とは良い友達です♪」
「…友達か…こりゃイッ君の恋も前途多難だね。」
「えっ?何か言いました?」
「いや、何でも無い。独り言だよ。」
ん?慶子さんが独り言なんて珍しいな?
それから暫くして、再び入り口のベルが鳴った。
"カンカラカーン"
「いらっしゃいませ♪」
「はい、いらっしゃいました♪」
この妙な言い回しで入ってきたのは、私の歳の離れた友人である渚ちゃんであった。
学校帰りというのもあるだろうが、いつもの制服姿である。
「渚ちゃん、今日もケーキ買ってくの?」
「はい、勉強するには甘い物が定番ですから♪」
いつものようにニカッと笑う渚ちゃん。彼女の笑顔が今日も町の誰かを救っているのかもしれないと、私は勝手に思い込んでいる。
〜おしまい〜
女子高生の町案内 タヌキング @kibamusi
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