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 ティアの女給仕事が終わってから、二人で一緒に家に帰った。

 アリアが帰ってからも、ティアの計らいでずっと店に居させてもらえた。婆店主も恐ろしい売り上げを叩き上げているティアの言うことを聞かざるを得なかったのかもしれない。

 ちなみに、エルディの手には持ち帰り用のシュークリームが七個程入った袋がぶら下がっている。シュークリームは美味かったが、さすがに一人で何個も食べることはできなので、残りはティアへのご褒美として持ち帰り用に包んでもらったのだ。

 ティアもこんなにひとりで食べれないと言っていたが、そこは気にしない。もともとアリアの財布に損害を与えることが目的だ。というより、お土産を買うつもりでカフェに寄ったわけだし、夕食後の甘味にでも取っておけば良いだろう。

 店主の婆はティアのことを大変気に入っており、できれば週に何回かは出勤して欲しいと言っていた。彼女が看板娘になったらそれだけで毎日が売り上げ記録更新になるのだから、それも当然だろう。

 だが、ティアは「エルディ様とのお仕事が第一なので」と一旦断りを入れ、結局ギルドの依頼がない時や、エルディに剣術指南の依頼が入った時のみとなった。

 もちろん、エルディにも女給の仕事を続けてもいいのかと相談があったが、あれだけ楽しそうに働いているティアを見ていて反対するわけにもいかない。おそらく彼女は、元来人と接することが好きなのだ。天使の〝観察師〟としての仕事が上手くいかなかったというのもわかる気がした。


「これで、エルディ様が剣術指南のお仕事に行く時は私も途中までご一緒できますねっ」


 ティアはそう嬉しそうに語ったものだった。どうやら、エルディと一緒に町へ行ったりこうして帰ったりしたかったらしい。

 家で一人残しておくのも色々不安であるし、ちょうど良いのかもしれない。ブラウニーには寂しい思いをさせてしまうが、丸一日家を空けるわけではない。帰ってから存分に遊んでやれば良いだろう。


「でも、家でも色々してくれているのに、大変じゃないか? 休める時くらい休んでくれてもいいんだけど」

「それが……そうでもないんです」 


 曰く、毎日気合を入れて掃除やら何やらをしていたら、やる事があまりなくなってしまったようだ。この前もやることが終わってしまって縁側で涼んでいたところを居眠りしてしまったのだと言う。時間を余すくらいなら、何か別のことができないかと考えていたところに、ちょうどアリアから女給バイトの話が舞い込んできた。


「てっきりアリアさんの口車に乗せられただけなのかと思っていたよ」

「もちろん、困ってらっしゃったので助けたいという気持ちはありますが」


 それだけでもないんですよ、とティアは困った様に笑って頬を掻いた。

 ただ、ティアの容姿が目立つのも事実で、あまり人目に触れさせたくないという思いもある。万が一何かしらの問題が起きて、そこで黒翼をさせてしまえば、元も子もない。できれば、エルディがフォローできる位置にいたかった。


(まあ……大丈夫だと思うんだけどさ。でも、魔法を使えば羽根が出てしまうっての、割と問題だよな)


 エルディは隣を歩く天使の如き銀髪娘を見て、小さく息を吐く。

 彼女は仕事疲れなど感じさせない様子でルンルンとしていた。エルディと一緒に家に帰れるのが嬉しいようだ。


「そういえば、給料はどれくらい貰ってるんだ?」

「えっと……こんなにも頂いてしまいました」


 ティアが手に持った麻袋をエルディに手渡した。

 その重みと中身を見て、エルディは思わず息を飲んだ。

 どうせちんけなカフェだから大したことはないだろうという予想は裏切られたのである。E級パーティー依頼クラスの報酬を一日で稼いでいた。というか、これだと変に手間が掛かる依頼を受けるよりも収入が大きい。

 最初に提示された額はカフェの女給に相応な価格だったそうなのだが、当初の予定よりかなり色付けがされたらしい。

 ただ、それもそうか、と思う。ティアが看板娘になれば、それだけで客が入ってきて売り上げが上がる。それでいて真面目でよく働くのだから、ティアに給料を多めに渡してできるだけ多く働いてもらった方が婆店主にとっても旨味が大きいのだ。あの婆、何気に人の雇用というものをよくわかっている。


「よし。じゃあ、今日の夕食は何か豪勢なものにするか。ティアの初仕事祝いだ。って言っても、作るのは結局お前なんだけど」

「ふふっ、嬉しいです。それなら、帰りに市場に寄りましょう。エルディ様にうんと美味しいものを食べて頂かないと。ブラウニーさんにも、寂しい思いをさせてしまったので何か作らないとですね。あ……でも、今日はご飯の後にシュークリームも食べなければならないので、あまり作り過ぎないようにしないといけませんね?」


 ティアはくすくす笑ってそう言うと、軽い足取りで市場の方へと向かっていった。


「いやいや……それだと俺へのご褒美になっちまうだろ」


 エルディは小さく息を吐いてから、ティアの背を追った。

 堕天使の彼女に贅沢をさせるのは、どうにも難しそうだ。


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