疑い

「あら~剣崎刑事。息子さん居たんですね」


 剣崎を呼んでもらうと親子に見立ててるのか。やけに頭を撫でられる。子供に見られ、自動販売機でオレンジジュースを買って貰い、壁に凭れチビチビ飲む。


「あぁ、数年前に養子・・を一人。嫁の訃報に心ヤられたか顔一つ出さなくてな。やっと戻って来たんだ」


 養子――。


 何も打ち合わせ無しのアドリブ劇に職員と目が合い、狂はニコッと笑顔で誤魔化す。


「可愛いですねぇ。今は大学生とかですか?」


「あぁ、大学院。犯罪心理を知りたいと勉強中でな。たまに過去の事件をベースに問題を出したりしてる」


 その言葉に狂は思った。

 小、中、高、赤点祭りだったな、と。


 そんなことを知らず黄色い悲鳴を上げる女性。


「さすが剣崎刑事の息子さん。しっかり者ですね」


 そう言われ、見たこともない剣崎の嬉しそうな顔に狂は目を丸くする。氷のように冷たく、冷酷な人が――心から笑うんだ、と。その目は殺しの目とは違い、原石を磨いたように美しく無性にその目を抉りたくなった。


「いいや、ああ見えて子供だ」


 ――ごもっとも。


「いつか共に職場で組めたら光栄だが……」


 剣崎は言葉を言いつつ意味深な目で狂を見る。

 狂もまた意味深な言葉に彼を見つめた。



 話が一段落し、二人は署の裏へ。

 狂はレンガに腰掛け、剣崎は用件を言う。


「新年早々嫌な事件。まさか、お前が殺ったんじゃないよな」


 さっきの優しい態度とは違い仕事モード。

 狂は、はぁ……と深く溜め息を漏らす。


「早朝、とある畑で野菜のようにバラバラ死体が植えられていた。手が葉のように生え、胴体は芋のように地に埋まってる。臓器は見当たらなかったが鑑識によると土の成分に混じっているとのこと。臓器をすり鉢で擦ったか?」


 剣崎に睨まれながら狂は、違うね、と肩を竦める。


「もう一件。大晦日から人が何人も行方不明になっている。知らないか?」


 それに対して口で言う。


「それも知らない。まぁ、変わってる奴らはごまんと居るし探ってみれば新たな発見があるかもよ」


 意味深な言葉に眉間にシワ。剣崎はヤンキー座りし狂にガン飛ばすと手錠をちらつかせる。


「何か知ってるな?」


 正義のスイッチが入った剣崎に歯向かう様、狂はニカッと笑う。


「知っててもオシエナーイ」


 甘い声の語尾に漂うハートマーク。ふざける狂に剣崎は怒りマークを浮かばせながら言う。


「その中にオレの部下が一人関係してる。元日に行方不明になり音信不通。家には不在。何か知ってるなら話せ。さもなくば――」



 ――逮捕するぞ。



 その言葉に嫌な顔で返しては観念したのか口を開く。


「畑は分からないけど、行方不明の方なら分かるかも。高級店とかビル街とかそんなところに隠れた店がある。“人間で料理を作る美食家”の【カニバリズム】がいて『人を取っ捕まえて捌いて調理してるんですよ』ってよくオレの残飯買ってくれる人」


 少し自棄糞に言うと剣崎は周囲を見渡し小声で訪ねる。


「ヤツの名前と店は?」


「名前はカニバル。店は知らない」


 使えない答えに静寂が二人を支配。風が髪を靡かせ、気まずい空気が立ち込める。狂は少し考えスマホを弄り出すと早口で話を切り出す。


「なんなら連れて行こうか」


 直談判したか。スマホ画面を剣崎の顔面にぶつける勢いで見せる。画面にはこう記されていた。



【裏SNSにて】


 kyou@art

『カニバル、会える?』

  |

 CANIVAL@

『いいですよ。昼食ご一緒に如何でしょうか。新鮮な肉が手に入ったので是非お見せしたい』



 衝撃的な文章に固まる剣崎。


「但し、条件が一つ。、一人殺させて。手土産無しじゃ取り扱ってくれない人だから」


 狂の言葉に剣崎は頭を抱える。

 また、誰かを殺すのか――と。

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