死体の匂いを隠す場所
部下の足取りを辿る、と剣崎は外出許可を取る。その間、狂は“殺させて”と言ったが許可が降りず。そう言えば――と追い出されたホテルの部屋に一旦戻り、喜んで貰えそうな物を段ボールに詰めることに。
・子供の腸の瓶詰め(赤子から幼稚園まで)
〃 (小学生から二十まで)
・大人の腸の缶詰め(二十から)
・大小様々な眼球
・舌の瓶詰め
・各部位に分け、凍らせた肉。
・女性限定 子宮
・男性限定 タマ
・干からびかけた血管
・大小様々な爪
・指の詰め合わせ
・唇
・耳
・鼻
・各部位の骨
・各臓器のビン
・血液
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小さな段ボールに詰めるはずが収まりきれずり捨てるなら、と死体を運ぶ用のキャリーバッグに詰め込む。
中身が見えるよう汚れつつも乾いたタオルで拭き取り、漏れないよう袋に入れ、劣化しないよう保冷剤を突っ込む。正直な話、中には数ヵ月前の物もあり、ダメなら人間を“標本”にする知り合いがいるためダメ元での持ち込み。どうせ捨てられるなら使ってくれる人に譲りたい。
作品思いの優しさから生まれた良心。
キャリーバッグに乗りながら蓋を閉め、瓶の重さとその他の重さに文句を言いたくなるも我慢。退去すると話が泊まっている皆に回ったのだろう。なんで居るんだ、不思議な目で見られるも無視。外で待つ剣崎の車に乗り込む。
「お客さん、どこ行きますか」
タクシーのフリか。剣崎はルームミラー見ながら漂う不快な臭いに嫌悪の顔。何入れたんだ、と文句言いたげな顔に狂は大きく深呼吸し「人間の臓器の詰め合わせ」と笑顔。それに袖で鼻を押さえ「酷い臭いだな。腐ったような汚物のような」と噎せる。
殺したての死体を扱う剣崎には嗅ぎなれない臭い。耐え兼ね、窓を少し開けるとエンジンをかけ走り出す。
「ごめんね。いつもなら新鮮の渡すんだけど、急に呼び掛けちゃったし。刑事さんには止められちゃうし……ほぼ腐ってるかも」
「そんなのあげていいのか。お得意さんなんだろ」
「あーうん。刑事さんよりもダンディーな素敵なおじ様だし。多分、大丈夫」
曖昧な返事に、絶対大丈夫じゃないだろ、と心の声。
「場所は」
「んーえっと……死体の臭いを消す場所」
「は?」
謎なぞか。素直に言えば良いものを言わない。ほんの暇潰し、少し意地悪をしてみる。
「火葬場」
「違う」
「葬儀屋か。葬儀と言えば一時期職に就きたいと思ったな。遺体なのになんであんなに綺麗なんだと心奪われたことがある」
「へぇー意外。でも違うなぁ」
共感するかと思ったが褒められ顔が一瞬優しくなるも“違う”の言葉にまた不機嫌。
「じゃあ、なんだ」
「薔薇の花って死体の臭いを消すって言わない?」
「……そっちか。コロンか、何かだと思ったが。花か、悪いが縁がないな」
事件以外興味ないのか、とおちょぼ口で狂はヒントを口にする。
「一目離れた場所にある花に溢れる所」
その言葉に剣崎は無言で車を飛ばした。
正午少し過ぎた頃。
車を駐車場に停め、悪臭放つキャリーバッグを引っ張りながらたどり着いたのは――季節の花が客を迎え、奥にあるガラス張りの建物を囲むようにバラや蔓系の植物が芸術作品のように壁に絡む。住宅街や騒がしい街から離れた場所にある――花の美術館。
『本日中定休日』と看板があり、剣崎が「此処か」とノックすると「刑事さん、そっちじゃない」と狂は服を引っ張る。
「この裏にバラに囲まれた店があるんだよ。そこ」
子供のように服を引っ張り、建物の裏に向かうと無料で見学できるバラ園。その中にポツンと立つ白ベースの木製の一軒家。花は枯れているため変わりにグリーンに囲まれ、入り口のアーチの絡むバラの蔓。
『レストラン ロウズ』
そう、小さく看板があった。
コンコンッと叩くとドアが開く。
「お待ちしておりました。青年くん。えっと、その方は……」
剣崎とは違う大人びた落ち着いた声。
灰色のスリーピーススーツに白いワイシャツ、赤いネクタイ、帽子を被った中年の男性。見た目では紳士的で上品に見えるが彼が“カニバル”。
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