犬猿の仲
うっすらとした日がレースカーテンのを照らす頃。寝付けず目だけ閉じていた狂は乾いた服を手に取る。借りていた服を脱ぎ捨て、静かにその場を立ち去ろうと玄関に行くも今だ起きない剣崎が気になり、靴を履くが出ていかない。
――なんかなぁ。
作品にしたい、殺したい、と言う気持ちはあるもその過程に行くまでの魅力を感じず。欠けたような複雑な感情に胸がモヤモヤしていた。
刑事なのに善意とかではなく、殺す剣崎は嫌いじゃない。刑事としての善意溢れる彼も嫌いではないが“何か”が足りない。
――もっとこう。悪を裁くような威圧感。
悪は消えるべきだ、みたいな感じ――
そんなのが欲しいのかと自問自答。けれど、答えは見つからず逆に苛つく。
アニメで怪盗が熱血刑事に追われるような。家族が殺され、怒りの復讐任せで犯人を捉えるのか。さては、報復で同じことをして裁きを下すのか。思い当たる節を考えるも、どれも剣崎との関係が当てはまらず。まるで解けないクイズのよう。
「逃げないのか」
俯き考え込んでると静かな声。顔を上げると寝癖を弄る寝ぼけた顔の剣崎。スマホ片手に画面を見ては「もうこんな時間か」と溜め息。仕事の準備しないとな、と小言を漏らすも彼も彼で動かない。
「刑事さん、子供いないの?」
「なんだ、いきなり」
何か話さないと、と場に合わない言葉。犯罪者の問いなど答えるはずがない、と思っていたがサラッと剣崎は言う。
「嫁が不妊症でな。俺もセックスとかには一切興味がないもんで性交なんざしたことない。あれか、子供がいたら取っ捕まえて泣かせてやろうとでも思ったか? それは残念だったな」
これまでの経験からか。行動を先読みされ、ハッと小馬鹿に笑われる。
「別に聞いただけだし」
「強がりめ」
「煩い!! 嫁殺し!!」
「はぁ!? 人の爪盗む奇人が!!」
突然始まる小言文句。
「刑事さん、丸腰なんだもん。オレ、犯罪者アリアリのアリ子さんなのに普通寝る? バカじゃないの」
さっさと出ていけばいいのに出られない。
「なんだ、寝起き早々喧嘩文句とは殴るぞ。年下の分際で偉そうに。一日でも匿ったことには感謝して欲しいもんだ」
「はぃー!? 匿ってくれなんて言ってないんですけどぉ!! 勝手に手錠掛けて連れてきたのは刑事さんでしょ。誘拐してる、とか爆弾発言しといて一緒に作品作っておいてさぁ。刑事さんのバーカ、バーカ。退職処分されろー(舌をベーッと出す)」
ありもしない親父と息子のようなバカ気だ会話に白け、二人は顔を合わせると一斉に笑う。
「用が住んだら帰れ。お前の居場所は裏なんだろ」
「はいはい、そーですね。帰りますよ」
フンッとそっぽを向き、ドアノブを捻ると後ろから足音が近付く。ナニ、と振り向くと「忘れ物だ」と額を思いっきり叩かれる。視界が見えづらく手を伸ばすとメモ用紙を貼り付けられ、ペリッと外すと汚ない文字。
住所:✕✕✕ ✕✕町○○-○○
メールアドレス:
✕✕✕-✕✕✕✕@――
電話番号:
***-***-***
○○署所属 異常犯罪科
剣崎
良心か。それとも犯罪仲間としてか。
何故、と思いつつも狂は嬉しそうに折り、ズボンのポケットに突っ込んだ。
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