酒が回ったか知らぬ間に剣崎が寝落ち。よほど疲れたんだろうな、と他人事のように狂は寝顔を見る。寝ているのに眉間にシワ。既に考え込んでる表情に笑いたくなるも我慢。寒そうだからと部屋を漁りバスタオルを被せる。

 すると、モゾッと動き「糞野郎」と酷い寝言に声を殺して笑う。あまり気にはしてなかったが、よく見ると剣崎の目の下にクマ。寝不足か。あえて寝てないか。理由は知らないが部屋を見る限り生活感がなく、あまり帰ってこないのだろう。


「小腹が空いた」


 スキップしながら冷蔵庫の前に立ち開けるも中は空。なんか食べるものないの、とキッチンを漁っていると引き出しから沢山の薬の瓶と錠剤。ん? と気になり手に取ると”安定剤”。依存の強いものから依存少なめのモノまで種類は様々、飲みかけもチラホラある。



 ○月○日 ✕✕✕✕✕ 不安時服用


 ○月○日 ✕✕✕ 夕食後服用


 ○月○日 ✕✕✕ 不安時服用

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「刑事さん、心療内科通ってんの?」


 気になり成分を見る。殺し屋で流行ってる一時的なドーピング作用はなく、単に精神的なモノを抑える作用が大半。あと、栄養不足もあるのか。サプリメントも多数。


「まぁ、オレも(安定剤)似たようなの飲んでるけど」


 なんか気になる、と冷蔵庫の横の隙間にある棚を引く。さらに、コンロのちょっとした収納スペース、食器棚、キッチンの上と下と隅々まで目を遠し振れる。


「やっぱりないや」


 包丁、フライパン等の調理器具や刃物類。食材も肉や野菜、魚は無い。あるのは、ほんの少しのレトルト食品。ほぼ買い弁か。または、署で食べてるか。そのどっかだろう。じゃなければ餓死レベル。


「あー見えてるんだろうなぁ。オレと同じでモノを見ると違うのに見える変な感覚。それとも、“それ”があるとお客さんを殺しちゃうとか。いやいや、まさか」


 それを精神病。または、妄想、想像、感性が豊かと言うべきか。


「分かる。分かるよ、刑事さん。それって気持ちいいよね。

 オレは他人の傷を見るのは好きだけど自分を自傷のは嫌いでさ。でも、どうしても我慢できないときは頭の中で自分を殺したり、刺したり、切り裂いたり。他人を殺して、刺して、臓器抉る――それがすごい快楽なんだよ。自分に刃を突きつけなくていい“薬”。だけど、物足りないと――」


 狂は指で銃を作り、自分の頭に突きつけては「バーン」と一人で遊ぶ。クスクス笑い、抑えきれず袖で口を押えては聞こえぬよう嗤った。

 煩い洗濯機の音が消え、部屋中を探し回りハンガーを見つけては赤みが薄まった服をリビングに干す。続けて、早く乾け、と無断でエアコンの風を当てる。



 暇だ――。



 爆睡する剣崎の下。カーペットの上に寝転び、ボーッと何もせず過ごす。足をバタバタ、たまにはゴロゴロ。本当の“悪”なら逃げてもいいが、何故か狂は逃げず見守るように剣崎に目を向ける。


「さっきより良い顔してる」


 眉間のシワがなくなり、リラックスするような落ち着いた表情。たまに魘されているが起きる様子はなく、深い眠りにつけたか気持ち良さそうな寝息。


「はぁ、なんで敵なのに逃げないんだろ。別に刑事さんのこと嫌いじゃないし、むしろ――」


 言葉では言わないがフッと鼻で笑い、そのまま剣崎が起きるのを待つも気付けば元日を共に過ごしていた。

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