裏事情
「え、えぇ!?」
「現行犯で逮捕だ。悪事もこれまで観念しろ」
左手に掛けられた手錠。重く緩くも締め付けるような嫌な感覚に狂の口が歪む。酷いなぁ、刑事さん――と半嗤いで言うも本気の剣崎の目に煩い口が閉じる。
「仲良くなろうとでも思ったか。お前のせいで何人の命が消され、遺族親族何人の人が悲しんだと思ってる。此方も此方で犯罪やらなんやらは日常茶飯事。やれ、と宿題みたいにやること増やすな。このクズ」
目を棒にして剣崎の話を聞くが良く考えると不満や愚痴が続く。
「ったく、動機を聞けば下らない。殺したかった、ムカついた、○月○日の電車内無差別殺人事件を参考にしただぁ? 幼稚すぎるんだよ」
文句言いながら右手に手錠を掛けようとする剣崎だが「あの、刑事さん。話し聞こうか」と狂は犯罪者とは違う優しげな声で話し掛ける。剣崎はふぅ……と深く溜め息を付き、苛立ちを抑えられず舌打ち。
酒飲めるか。強いか、弱いか、としつこく聞かれ。まぁまぁ、と答えると手錠を犬のリードのように引っ張られながら小屋を出た。
「服貸してやるからシャワー浴びろ。話しはそれからだ」
あっさりと手錠は外れ、家に入るや浴室へ。狂は綺麗な床と壁を汚すよう容赦なく服を脱ぎ捨て、浴室でシャワーを浴びる。滑った血が乾燥しカサカサとカサつく感覚も嫌ではない。だが、血を浴びて重くなった身体を洗い流す“この感覚”も好み。
殺した、作った――と。
実感し肌を温める湯さえ血に見え、浴びているような“錯覚”が作品とは違う快感。
あーっとほんのり色気ある声にやや興奮するが性的なモノより殺しの方が好きなため自分を
「おい、自分でプレイしてるのか」
突然の剣崎の声に固まり、ガラッと顔だけ出すと上半身裸の剣崎の腹筋に目が行く。
「うわぁーお。すごい腹筋。触ってもいい?」
濡れた手を伸ばすと叩かれ、早くしろ、と急かされ渋々フワフワの上質なタオルを貰い拭う。
ワンサイズ大きいワイン色のYシャツとスラックスを仕方なく身に纏い、ベルトや腕捲りで誤魔化す。
「デカイんだけど……いや、オレがチビなの」
リビングの窓を鏡変わりに立っていると、白いYシャツにカジュアルパンツの威圧感が抜けた剣崎に目を丸くする。
「あっ普通におっさん」
「殴るぞ」
ガタゴトと浴室からか洗濯機の回る音が聞こえ、乾くまでは外に出たくない、と狂はソファーに寝そべりダラダラ。それを邪魔するかのようにテーブルにビール缶が二つ置かれ、邪魔だ、と言われ退くと剣崎が隣に腰かける。
プシュッと蓋を開け、グビグビ勢い良く飲むやア゛ァ゛と少しドスの効いた声。真似するように狂も缶ビールに手を伸ばすが、手が滑りプルタブをカチカチ鳴らす。
「んだよ」
片手でプシュッとカッコ良く開ける剣崎をガン見する狂。「剣崎刑事、絶対モテるでしょ」と礼ではなく言わん言葉を添え飲む。「は?」と返すと批判はせず黙る。
「ほら~イケおじ」
酔っぱらってはないがフリで弄ると「逆だ」と静かな声。
「異常犯罪や未解決ばかりやってるから誰も話し掛けては来ない。部下を除いてな」
「ふーん。少し
その言葉にギロッと睨み返すと「なんもなんも。ナーニも言ってないよ」と狂は誤魔化す。
しばらく静寂に包まれ、壁掛け時計の秒針がカチッカチッと時を刻む。
「で、話したいのってなに」
話を切り出したのか少し顔を赤くした狂。
「別に大したことはないが」と剣崎。
「殺しに覚醒したのとは別に、本当は侵入捜査失敗して組織のボスだけ逃してたりして」
アハハッと笑いながら狂は言うが針刺す視線に顔を逸らす。
「なんで分かった」
コンッとテーブルに空になった缶を置く。
「居るよ、そういう人。自分も犯罪者になれば殺した奴を殺せる。報復できる、居場所が分かるって染まって堕ちて――ゴミのように転がってる奴」
続けて。
「報復だ、復讐だってバレて玩具にされてる奴もいるし、作品を作るのはいいけど辞めた方がいいよ。刑事さん一人じゃじゃ勝てっこない」
「さぁ、どうだが」
「表に糞イラつくメディアがいるように、裏にもメディアがいる。
殺し専門の元記者で写真家の”訃報“を書くのが大好きで人。裏SNSログアウトしてるときにしか見ないけど、その人は裏の関係者のデータ管理や異常なほどハッキング技術。楯突いた奴殺されてるらしいよ」
こんなに裏のこと話していいのか、と自分に問いかけながら狂はチビチビと酒を飲む。
「ほぅ……なるほどな。裏にもタチ悪い記者が居るのか」
「会ったことはないけどね」
ハッと無意識に笑う狂。何となくだが”剣崎“が”父親“みたいな存在に見えるのか。また犯罪者らしからぬことを言う。
「気を付けなよ、刑事さん。悪って以外と頭が良いから」
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