人体骨格
狂は狂ったように動かぬ女性を何度も痛め付ける。頭から腕、胸、腰、足、と無惨な肉と肉が盛り、千切れるようなブチッグチュグチュと不快な音が鳴らす。
何十分、数時間と異常な行動は止まらず。何かを取り出したいのか皮膚や肉を剥がすようにガリガリ削る音が響く。
「何してるんだ」
と、外傷のない綺麗な死体を見つめ何もしない剣崎。あまりにも酷い音に狂に問いかける。すると、夢中になっているのか反応がなく、渋々近寄り背後から覗くと言葉を失う。
それは人の形すらなかった。
「見ないで。まだ途中だから」
切り裂き開いた腹部から素手で臓器を掴み、雑に床に投げ捨て文句言わずに何度もそれを繰り返す。周りを真っ赤に染め、腸が伸びでも千切れても迷いのない手はガンガン臓器を掴みまくる。まるで捕まえた鶏を捌くような手慣れた手付き。“見てられない”と剣崎はわざとらしく咳払い。不機嫌な声に手を止め、狂は不思議そうな顔をしながら振り向く。
「ん?」
「何処でそんなの教わった」
剣崎の美学に反するのだろう。
見苦しいと訴える。
「
「は?」
「交通事故が教えてくれたんだ。人間は生きるよりも死んだ方が美しいって。オレ以外皆死んでさ。親父の千切れた手が唯一形があった。あとは肉の塊で――宝石のように綺麗だったよ」
ニンマリ、と狂は笑う。
「事故がお前を変えたのか」
話の途中にも関わらず、また腹部へ手を突っ込む。肉を掻き分け、肝臓、腎臓とそれはそれは丁寧に切り取っては投げ捨てる。飾りたいのか、邪魔なのかよく分からないが多分邪魔なのだろう。下へ手を伸ばし、何かを掴んでは剣崎に差し出す。
「子宮触る? あ、胸がいい?」
刺され痛々しいはずの右手に子宮。
左手には胸。
デリカシーのない言動と行動に剣崎は溜め息。
「興味ない」
「えー興味あると思ってた。興奮しない? ほら」
「俺は傷もない死体が好ましい。お前とは逆だ」
ツンとした言葉に狂は少しムッとするとナイフを握る手に力が入り、さらに解体していく。骨に添うようナイフの切っ先を当て、ゴリッガリガリッとこびりついた肉をはぎ落とす。
狂が“やりたい”と言っていたのは解体ではなく、新鮮な死体から“骨”を取り出すことだった。火葬で焼かれる砕かれたものではなく、死後間もない新鮮な人から骨を取り出す。それもある意味“芸術”だと前々から思っていたらしい。
「ウハッさいこー。こんなに綺麗なんだ。骨壺に納める骨より好みかも」
剣崎刑事、と後ろで女性の服を脱がせ何を着せようか、何をしようかと吟味している彼を呼ぶ。邪魔するな、と言いたげな「あ?」の声に「見てみて」と子供のように返す。
皮膚、肉、臓器を全て引き剥がした“それ”――。
少し白くも赤い
狂の足元には散らかった臓器と
どうやら骨も好みの一つらしい。
「刑事さん、褒めて褒めて」
「悪くはないが洗ったらもっと良くなるんじゃないか?」
感化されたか。俺としたことが、と口に手を当てる剣崎。その助言にニコーッと歯を見せ笑うと骨格を持ったまま狂は外へ出る。
小屋の前にあったホースを手に持ち、水で骨一本一本丁寧に指で洗う。血が落ち、肉が剥がれた骨は真っ白で美しく。うわーっと声をあげると嬉しそうに抱き締めた。
「今日からこの子と寝よ」
家族が居ない狂にとって“死体”がぬいぐるみや遊び道具でもあった。
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