静かな殺しと騒がしい殺し

 その言葉に再び車を走らせると着いたのは、洋風な柵と明るい茶色や灰色の煉瓦が積まれ、ゴールドクレストや木々が囲むの少し高級チックな洋風な家。白とベージュをメインにした明るめの外観。それを引き立たせる緑や茶色。予想とは真逆の自宅に狂の口が開く。駐車場に車を停め、引きずり出されては首根っこ掴まれたまま家へ。


「おじゃまーします」


「言わなくていい」


 土足可能な室内。大理石の床かと思っていたが、白の木目のフローリング。見た目は4LDKぐらいかで外観とは違い、中は普通の家同様な作りだった。家具は必要最低限。嫁を殺したのもあってか家族関係のモノは一切見当たらない。リビングに連れられ、手を離されるや周りをキョロキョロ見渡す。


「例のヤツは?」


 ジャケットを脱ぎ、Yシャツの祖を捲る剣崎を急かすように言うと「庭に嫁が趣味で使いたいと作った小屋がある。そこにいる」と鍵を投げ渡され、リビングから外に出るも剣崎からはイメージ出来ない季節の花の寄せ鉢やバラの蔓が絡んだアーチ。足元には丁寧に設備され道を導くように植えられた花達。外国を思い出す美しい庭に不思議と心が奪われるも“不快”。


「汚いな……」


 華やかな庭にハハッと苦笑すると、狂は考え方を変える。


 花を“手”や“足”“頭部”。

 アーチに絡むは“臓器”。

 小さな噴水から流れるは“血”と“悲鳴”。


 それが何倍も心地いい。


「はぁ~血の香り・・・・がする。いいね」


 スゥと大きく深呼吸すれば――。

 土の香りと血の香り。


 その言葉に剣崎は「な」と返す。どうやら彼も同じことをしているのか、二人の目には死体の花園として見えており、あまりの美しさにうっとりしていた。

 庭を歩き、背丈の長い緑の植物で密かに隠された小屋。手で掻き分け、下は踏まないよう飛び越え、手作り満載の木製のドアの鍵を開ける。中は1Kぐらいの狭い室内。



 血に汚れ、やや不快な匂い。



 今は剣崎がアトリエと使っていたのだろう。ノコギリやナイフ、手錠に鎖とイカツイ物が目につく。


「あれ、居なくない?」


「此方だ」


 部屋中心にある作業台を退かし、しゃがむと床にナイフを突き立てる。取っ手が現れ、上に引っ張ると地下への入り口。ジッポライター片手に先行する剣崎を追うと湿った地下室の前に鉄のドア。鎖が何十にも巻かれ、鍵を外しほどくと――薄暗い中にはガムテープで口を塞がれ、四肢を結束バンドで絞められた女性が寝ていた。

 剣崎が女性を見たまま踵でドアを蹴り飛ばし閉める。鈍く響く音に驚くと思いきや反応はなく、声は聞こえない。女性に触れると冷たく「早朝処理した」と剣崎の小さな声に笑う。


「だよねー。分かる、煩かったんでしょ。オレも煩いと殺しちゃうなぁ。まぁ、いいよ。外傷ないし綺麗だから――仲間や家族がいるなら花束にして送ろえかな。オレ、サプライズ結構好きなんだよね」


 んフフ、とパーカーのポケットに手を突っ込み笑みを浮かべると背後から殺気。力強くも焦った足音に狂の声色が変わる。


「(ワントーン低い声)意地悪。一人じゃないじゃん」


 振り向き様、視界に入ったナイフを避けず右手のひらで包み込むよう刺さりながらも受け止め、涙で目を赤くした隠れていた女性の子宮目掛けナイフを深々と刺す。ガムテープで口が塞がれているため声はないが、頭の中で想像すると鳥肌が立つ。


 痛みに歪む、裏返った声。

 いや、痛みで声にならない声か。


 右手に刺さったナイフを引き抜きながら、さぞかし痛いだろうな、とグリグリ捩じ込み上に裂こうと力を加える。声なき叫び苦しむ女性を愉しそうに見つめる狂。剣崎は眼中になく、早朝殺した女性に触れ愛しそうに微笑む。制作欲が湧いたかさりげなく剣崎が口を開く。


「何か作るなら場所を貸してやる」


「あ、マジ!! やるやるー。新鮮な材料でやりたいことあったんだよねぇ」


 泣き唸る女性からナイフを素早く引き抜いては血が床を汚す。ベッタリとついた血に興奮したのか。ナイフについた血をペロッと舐める。へぇ、上手いじゃん、と笑いながら蹴り倒し、馬乗りになるや大きく腕を振るう。


「(狂気に満ちた笑顔で)ごめん、痛かったよね。でも、大丈夫。これで楽になれる」


 容赦なく頭に向けナイフを下ろす。自分自身が真っ赤になるまで、肉を切り裂き、真っ白な骨が見えるまで何度も何度も刺し続けた。

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