餅
逮捕される。そう思ったが前と何かが違う。立ち話はなんだ、と長椅子に腰掛け、串に三つ刺さった団子を貰う。
不規則な生活と不規則な食事。まともな食生活を送ってない狂からしたら団子はそれなりに贅沢な存在に見え、ハムッと頬張るとモチモチとした餅の甘さ。みたらしのくどくない甘さがより餅を引き立て小さいのに空腹を段々と満たしていく。あまりの美味しさにペロリと平らげ、じっと剣崎の団子を見つめ一つだけ譲って貰い、リスのように頬が膨らむ。
「それ、食べたことないのか」
「
「まだ食べるか?」
「
刑事のくせに今日はやたらと優しく。飲みかけのお茶を譲って貰い、団子が来るまでソワソワしながら待つ。しかし、年越し蕎麦に因んで年越し餅か。人が多く買いにくいと代わりに買ってきたのは五平餅。
ありがとうも言わず、大口でガブッと豪快に食らいつくと濃い目の味噌がほんのり甘い。タレが気に入ったのか飴のように舐め、その後に餅を食べる独特な食し方に剣崎は苦笑。
「汚ない。少しは周りを気にしろ」
「無理。こんなウマイの食べたことない」
知らぬ間に平らげ、ンフフッと満足げな顔。物足りなさ沿うに串を咥え、上下に舌で器用に遊ぶ。見かねた剣崎は「いつもなに食べてんだ」と問いかけると狂は答えようと考え込むが浮かばず。
「カンパンみたいな保存食?」
強いて言うならオートミールやコーンフレーク。または、レトルト食品。
「早死にしそうだな、お前」
バカみたいな解答にフッと笑われた。
*
一服し、林の中を歩きながら人気のない木々や草に囲まれ、身を潜めるような所で立ち止まる。剣崎いわく狂と合流する前、属している“異常犯罪科”一同で初詣に来ており、まだ仲間がいるんじゃないかと落ち着かず、と早々本題を切り出す。
「
真面目な話のつもりだろうが、何十年の時を経て大きく立派に育った木を弄る狂。自然に触れたことがなく“素敵だ”と目を輝かせる。
“人を繋げたら美しい木になりそう”
“枝に何人も死体を吊ったら芸術?
あれだ、何かで見た死体吊しの木だ”
想像力が豊かで一度考え込むも止まらず、独り言を呟きハハッと楽しげに笑う。
人の話を聞かない奴、そう理解したのか。
剣崎は呆れながらもう一度言う。
「頭部を花心に見立て花びらに手と足。茎とガクをその他で表現し、ライトを当て真っ白な壁に映った花の影。残酷でありつつ美しさある独特な表現力に俺は惚れた。
少しばかり裏で動いていた時期があってな。その名残だろう。魅力的に見えたのは」
溜め息をつき“警察としては恥だ”と言いたげな不機嫌な声。その声と言葉に狂の興味を引いたか。珍しく剣崎と向き合う。
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