善と悪
剣崎の隠れ性癖というべきか。捜査でとある殺し屋に属し日常的に殺めたふり、もしくは殺す寸前ギリギリまで責めたとか。その話を聞いた狂は親近感が湧き、ワーッと子供のように話を吹っ掛ける。
「なにそれ、カッコいい!! オレ、みたいな輩を騙して捕まえてたの? じゃあ、刑事さんは相当強いんだ。やだな、戦闘は専門外だから勝てっこないな」
なんて――褒めつつ嫌みを漏らす酷いマシンガントーク。おいおい、と剣崎は頭を抱え、さりげなく一言。
「言っておくが俺の中には二人いる。良い俺と悪い俺。侵入捜査したときや死体を見たときに、お前同様の考えが浮かぶ、悪い俺。それとは逆に“殺した奴を許さない”と叫ぶ良い俺。
それがぶつかり合うのが酷く辛くてな。お前がことを起こす度に満たされてた」
「へぇー。いがぁーい」
「だろ。侵入捜査した際、相棒がいてな。怪しまれ、しまいには相棒が見破られてな。俺が仲良かったから“殺れ”って命じられて殺るしかなかった。それが一番の原因だろうな」
自信のないボソボソとした声で今所属している人達には言ってないのだろう。初めてカミングアウトする、と言いたげな顔に狂はブブッと吹き出す。
「なるほど、自分の身を守るために仲間を殺した。そーいう経緯でなったわけか。いいじゃん、ゾクゾクする。オレなんて事故で親がグジャグジャになったのに“綺麗”だって惚れたから」
ニコニコと目を見て笑い、あっもしかして経緯はオレの方が可愛い? と嫌みたっぷりな顔。
「かもな」
フッと鼻で笑われ、立ち去ろうとする剣崎に狂は寂しそうな表情。しかし、声は子供のように明るい声で言う。
「また、悪い刑事さんに会える? それとも、良い刑事さんを陥れたら仲間になってくれたりするの? オレが表のSNSに写真あげると普通なら通報レベルなのにならないし。ハッキングや隠蔽工作、証拠隠滅。写真展でアカウント教えてくれたの刑事さんなんでしょ」
行かないで、と訴えるような早口言葉に剣崎は立ち止まり振り向くとニヤリと警察らしからぬ邪悪な笑み。
「会いたいなら“それなりの事”をしろ。満足したら作品になってやらんこともない。だが、良い俺がそう簡単に従うとは思えないな。糞真面目で正義感強くて聞いて呆れる」
自分に悪態をつき、フッとまた鼻で笑っては「そろそろ限界だ」と背を向ける。噎せ、咳き込み、周囲を見渡し改めて振り向き狂を見ると手元に手錠がチラリ。
良い刑事さんだ、と察した狂。
「あっ今日は誰も殺してないです。あの、初団子食いにきました。アハハッ」
と、虫を払うように手を振る。後退り続けて、ちょっと見かけただけでホントに何もしてないから、と回れ右して走り出す。
んなの、信じられるか!! 今度こそ署にきて貰うぞ、と朝から眠気が吹っ飛ぶ力ある声と全力疾走。狂はヒィィと心で叫びながら、初追いかけっこを楽しんだ。
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