飼い主

 大晦日前に起きた一家殺人鬼事件。

 狂はテレビで大きく取り上げられるだろうと期待をするも報道されたのは『何者かによる殺人事件』と作品がおおやせになることはなく、簡単に“殺し”と簡単な説明。

 納得しない内容に腹を立てSNSの鍵垢に無修正で写真を投稿。それで少しはスッキリするも孤独さは消えない。むしろ、過激な写真に表で公開するのは良くないと誰かが・・・ブロックをかけ『裏のSNSで』とダイレクトメール。



 “誰か”



 フォローはしてくれないが唯一作品を観てくれる隠れフォロワー。フォロー無しでダイレクトメールを送れるよう設定しており、たまに褒めたり、助言を吹っ掛けてくる。


 顔も声も聞いたことない。

 殺し仲間でもない・・・・・・・・・

 ハッキングや証拠隠滅が得意なのは知ってる。


 “一般人”にも関わらず似た者同士な共通点の嬉しさと優しさから特定・追放覚悟での投稿だった。


 実は“狂”という名前も――。


 その人が“狂”と呼んでくるから名乗っているだけで本名じゃない。

 この妙な距離感覚が写真展で出会い、現在契約いている雇い主の冷たさに似ており、心の奥底では――喉を痛めるまで話していたかった。それが通じたのか二度目のダイレクトメール。



『アカウント:so-do@****

 裏のアカウントだ。フォローしてやるから来い』


 

 何ヵ月も話してなかったが、何かを切っ掛けに相手の気持ちが変わったのだろう。

 裏のSNSに久しぶりにログインすると鍵垢になのにフォローが一人。


 それは先程のアカウントの人。

 よく考えたら雇い主・・・で。


『初詣に会うか。○○神宮に団子屋がある五時に来てくれ』と、嬉しい話に感情が爆発したのだろう。勢い余ってスマホを投げ、壁にぶつけた。



         *



 ハッピーニューイヤー、と人々が歓喜に浸るとき、狂は雇い主と会うため“お洒落しないと”とクローゼットを漁る。基本的似たような服しかなく変化はないがシミや汚れが酷かったため新品に着替え、一人浴室の鏡で見せびらかす。ンフフッと歳にしては子供のような笑顔で。

 待ち合わせに間に合うよう四時頃ホテルを出る。BMXを乗り、言ったこともない○○神宮へ。スマホで場所を確認しながら標識をしっかり見て一時間弱かけてたどり着くと朝早くにも関わらず参拝客が沢山。自転車を駐輪場に停め、手を清め、礼儀として参拝。


 その後、境内にある神秘的な林の参道。

 そこに足を進めると団子屋。甘酒やみたらし団子と忙しく、大変そうだな、と和傘の下にある長椅子に目を向けると茶を飲む黒いスーツの男。あれ、見覚えが――と見つめると目が合い、男は席を立つや片手をスラックスのポケットに突っ込み、気まずそうに近づく。


、だな」


 話してもないのに呼ばれる名前。


「やだなぁ、オレ夢見てる? ごめん、殴って」


 此処、と頬を突っつくと容赦ない平手打ち。派手な乾いた音に周囲が凍りつくも狂はヘラヘラと笑い苦笑。


「お気に召さないか? 誰のお陰で捕まらずにいると思ってる」


 堂々たる態度と冷たい視線。針刺すような視線に狂は“参った”と手を上げる。


「いや、だってさ……こんなのズルいって」


 待ち合わせの相手は悪を罰する“剣崎”だった。

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