門松
クリスマスが終わり、チラリと正月の雰囲気が漂う街。
傑作だ、と喜んでいた狂だが短期間の内に人を殺しすぎだ、と殺し仲間からの注意喚起のメール。
剣崎の件に続き、狂は拗ね。
数日、布団の上で暴れる。
行動を制限され、ストレスと欲求不満で自傷行為をしたくなり、折り畳みナイフを手首に当てた。
しかし、自分の血は“作品”よりも美しくないと独特な美学・思考なのか。うっすら切れ、血が出るかでないかの皮膚一枚で離す。血が出ずともピリピリとする手首を見つめ、ふっと制作欲が湧き我慢できずに外へ。
近くの駅に向かうとすぐ入り口に花屋。
フワリと香る苦手な花の香り。
そこには、小さな門松や千両、松が置かれ、この時期にしか出てこない見慣れないモノに狂は興味ありげに見つめる。これ縁起いいのか。俺の運気も上がるかな、と何分も居座り目に焼き付けると、店員の視線に気付き笑顔で立ち去り、他に何かないかと駅中を探索。
すると、目の前を横切る家族。子供(幼稚園児)、母親、父と身長差が絶妙で無意識に目が向く。あれがこうで、こうがあれで、とブツブツと独り言を呟く。これだ、と太陽のような明るい表情で指を鳴らすと静かに後を追った。
*
丸い月が夜を照らす。
うっすらと雲に隠れる頃。
狂は静寂に支配された住宅街に足を運び、駅で見かけた
新築か。洋風で真っ白な大きな一軒家。汚しがいがあるなと心弾みながらインターフォンを押す。
「はーい」と明るい女性の声に「すみません」とここ最近引っ越してきたふりをして呼び出すとニコッと笑いながら愛想よくレザーグローブをした手を差し出すや口を塞ぎナイフで力強く腹を刺した。
抵抗されるだろうと思ったが――。
意外とあっという間だった。
ワックス仕立てのツヤツヤなリビングのフローリングに倒れるは腹を複数回刺され生き耐えた父親・母親・子供の三人。
キッチンで肉切り包丁を借り、首から上を使いたいと言わんばかりに父親の鎖骨に向け振り下ろす。骨が砕けるまで何度も何度も行い、血が飛び散り、肉が細かく千切れ飛ぶもお構い無し。バキッと割れた音が聞え、思わず笑みを溢すともう片方も同じく砕く。頭を引っ張るとまだ首が繋がっており、喉の下辺りで叩き割るとドクドク流れる血が照明で輝く宝石に見え、見とれながらも頭を首の肉は邪魔だとナイフで捌き、頚椎を剥き出しに。
「綺麗だなぁ。(血に触れたくなるもグッとこらえ)えっと、次は」
母親に目を向け、肩より少し下。肘辺りで父親同様力ずくで骨を割る。骨の数が多くやりづらいと全体重をかけ切断。引き剥がしたとき連なる臓器が邪魔に見え、素手で突っ込んでは骨を残して全て掻き出す。生温かく粘り、滑る感覚がクセになり使い物にならなくなるまで弄ぶ。
最後に子供。まだ幼く幼稚園の年中ぐらいだろうか。高さを考えると切る必要はなく、そのまま。
何処に飾ろうかと部屋中を周る。
目についたのは庭の花のない花壇。
その後ろに隣の家から見えない様生け垣。
これはいい、と目が笑う。
子供を担ぎ、生垣に室内で見つけたクリスマスのイルミネーションを紐代わりにくくりつけ、母親を抱きながら子供の少し左前へ。父親は子供の少し右斜めよりに置き、竹の段差を表現。父親と母親の横に切断した足、手は手前に草のように生やし千両や松の代わり。
店にある“門松”より彼好み。
渾身の出来に音無しの拍手。
室内から漏れる明かりで作ったため少々バランスが悪いが、彼は満足げに笑みを浮かべスマホでパシャリ。そのままニヤケながら企みある顔で家の電話を取っては“110”を押し、スマホで録音した殺す前の子供の声を流す。
『ママとパパが知らない人に――』
この時はまだ生きていた。
そう、見せかけようとしたのだ。
泣きじゃくり慌てた声は警察の質問には答えず、痛みで叫ぶ赤い悲鳴と共に消えた。
通報を聞き付け、剣崎がやってきたのは数十分後――。
変わりない玄関を開け、静かすぎる室内に銃を引き抜き、音を殺しながらリビングへ。床は絵の具をぶちまけたように真っ赤だが死体はなく、持ち帰ったか、と警戒を解き、窓に手を伸ばしたとき――視界に入った”門松“に言葉を失う。同行していた部下は衝撃のあまり耐え兼ね吐き。ビシャリ、と不快な音と臭い、苦しげな声に剣崎はガラスに映る部下に目を向け「大丈夫か?」と静かに言う。
「す、すみません……まさか、こんなものがあるなんて思ってもなくて」
「だな。……悪いが応援を寄越してくれ」
そう部下に言い、部屋から遠ざけるとガラスに映る
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