壁画
狂の強烈なマシンガントークに呆れたか。さっさと何処か行け、と冷たく言われる。その言葉に狂は不思議そうに「逮捕するんじゃないの?」と話しかけると「こんなに煩くて頭が痛くなる奴の聴取などしたくない」と小馬鹿にされた。
「煩い? いやいや、オレはオレの作品の素晴らしさを言っただけ。それの何が悪いの」
作品をバカにされたわけではないが、自分が否定された気持ちに苛立つ。食って掛かるような言葉に剣崎はハァ……と深い溜め息をつくと何か言いたげに口を開くもグッと閉じる。そのまま何も答えなくなると真っ暗な空にサイレンと赤い光が点滅した。
「なに、あの人」
苛つきながらホテルに戻り、ベッドに倒れ込む。ブブッとスマホが鳴り目を向けると、何日か前出した何人もの人の血で描いたバラの絵が裏のオークションで落札していた。
それは【人を殺して使わない部位を臓器提供をしよう】と解体していたとき、人により血の色が微妙に違うことに気付き、腸や臓器まで絞り出した“血”に惚れて書き始めた一作。
絵が上手い、とは言えないが独自の発想と想像力で【大人の手と子供の手を花びらに見立て描いたダリア】。
赤くも茶色い乾いた色が味となり“絵の具”と疑われたがイーゼルと血を入れていた小瓶と共に写真を掲載したところ“鬱絵”。“精神な安定剤薬よりも効く”と薬代わりに表で売ることもある。
人の血を使ったことを
小遣い稼ぎで始めたオークション。
不気味・不快感と仲間に文句が言われ、自分の感性が人と合わないと悩んでいた頃、“殺し映え”という『殺しで映えを狙う』のが裏業界で流行っていると写真展で一人寂しく公開していたときに現在契約している雇い主が教えてくれた。
だが、会ったことはない。
もちろん話したこともない。
トイレで席を外していた時、SNSのアカウントが書かれた紙とピッタリな代金だけが写真を販売していたテーブルに置かれ『悪くはない』と堅苦しいキッチリとした男性らしい文字。
それからだ。
“本格的な”作品を作り始めたのは――。
単純に嬉しかった。孤独だと思った自分に共感してくれる人がいて。
基本絵や写真を出すが、時には死体で作ったものを“鑑賞期限付き“で作品を出すこともある。誰か落札しているかは知らないが狂いわく想像はつくらしい。
んー、んー、と拗ねながら布団を叩き枕で自分を殴るとハッと起き上がる。
――そうだ。余った血で何か描こう――
ルンルンと鼻歌歌いながら棚に足を運び、真っ赤に染まった瓶を手に取りフタを開けるが――固まりこびりつき全く開かない。最後に描いたのは数ヵ月前、硬化してしまったのか。振ってみるも液体の音はなく無心に床に叩きつけた。
バリンッお音を立て割れると仄かに感じる不快な臭い。それがまた好ましい臭いでスゥッと深呼吸し堪能するよう嗅ぐ。
――ハァ……いい匂い――
床に散らばったガラスのように固まった血。手に取ると黒く見えるが照明に当てると赤く、その見た目と光の屈折で変わる良さに狂は部屋をフラフラと歩き出す。
ハンマーをて手に細かく砕くと破片をかき集め、更に瓶を見つけては同じく割る。何処かで見かけた割ったタイルを壁に貼り付け作るアートを思い出し、自室の壁に容赦なく貼り付け始めた。
構想は決まってない。
好きなように自由に貼り付ける。
ピンセットで一つずつ丁寧に摘み、ボンドを付け楽しそうに貼り付けると出来上がったのは柄の無いシンプルな真っ赤な壁で――。
ん、と首を傾げるも狂の手には臓器を絞った気持ち悪く生暖かい感触や悲鳴上げながら殺した女性が浮かぶのだろう。手を見つめ握り締めながら満足げに笑った。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます