それが君の物語?
「私、あなたのことが大好きなの」
「はい、それは嬉しいんですが…」
「なんでか分かる?」
「いや、分からないんです…告白された時まで一度も話したことなかったですし、正直、僕のことなんて知られてないんだろうなって思ってたくらいで」
「そうよね…分からないわよね」
「ごめんなさ…あ、ごめんなさい」
「いいわ。あなたっていつからそんなに卑屈になったの?」
「多分、元からこんな性格なんで生まれつきかと」
「違うわよ…だって、あなたは私のヒーローなんだから」
「ヒーロー?どういうことですか?」
「はぁ、やっぱり覚えていないのね」
神宮寺カノンはそう言って、僕に思い出話を聞かせてくれた。僕は相槌も打たずに、その話を最後まで黙って聞き続けた。
私は地元で有名な地主の孫娘ってことは知っているわよね?そのせいもあって幼い頃から色々とがんじがらめだったわ。
もちろん、裕福な生活だったと思うわ。欲しい物は何でも買ってもらえたし、習い事もたくさん。でもね、私の周りには私を見てる人は一人もいなかったの。みんな、私の背後のおじい様を見ていたの。いや、それも違うわね。おじい様の権力や地位や財産を見ていたのよ。
残念なことに私の両親でさえも、私のことなんて見てはくれなかったわ。おじい様の言いなり。
そんな生活に嫌気がして、小学校低学年の頃に家出をしたことがあるの。八歳だったかしら?とにかく家出したの。
お金は少し持っていたから、一人でも何とかなると思ってたわ。二、三日家出をして両親を心配させてやろうと思ったのよ。今考えるとバカなことをしたわ。
八歳の子が夜に一人で歩いていたらどうなると思う?変な大人に攫われるか、警察官に補導されるか、よ。
ホテルに泊まるほどのお金は無かったから、なるべく人通りの少ない路地を歩いていたわ。
お腹が空いて、無性に寂しくなったの。馬鹿よね…両親を心配させたくて家出したはずなのに、あっという間にホームシックになっちゃう。結局、お嬢様、籠の中の鳥だったのね。暗くなる前にコンビニでおにぎりを買って、それを一人で公園のベンチで食べていたの。
その時だった。数人の男が近付いてきて、私は無理矢理担がれて車に連れ込まれたの。その後で、目と鼻にガムテープみたいなのをくっつけられて、両手は背中に回されて縛られたわ。殺される、そう思ったわ。
男達が車の中で誰かに電話してるのが分かったわ。多分、私のお家に電話していたのね。
「娘は預かった。返して欲しければお金を払え」ってよくある身代金のお話。
私怖くって、怖くって。声も出せなかった。
あんなに大嫌いだったパパとママが、たまらなく恋しくなった。「パパ助けて、ママ助けて、おじい様助けて」って心の中で叫んだわ。
しばらくして、男達の悲鳴が聞こえたの。
私は目隠しされていたから、何が起きたのかは分からない。でも、優しい声で「大丈夫だよ」って誰かが言ってくれたの。その声でとっても安心したの。安心したら気絶しちゃった。私、その頃から心臓が悪かったのよ。目が覚めた時は私は、警察官に保護されていたわ。
警察官の話だと、男達はみんな車の中で気絶していたの。そして誰かが通報してくれたらしいわ。「神宮寺家の子供が誘拐されて、公園の駐車場の車の中に監禁されてる」って。
私、その時に思ったのよ。
私を助け出してくれたヒーローがいるんだって。その人のことを思う度に、私は胸が熱くなった。これが恋なんだって気付くのに時間はいらなかったわ。私はそのヒーローが大好きなんだって。恋してるんだって。
「あの、ごめんなさい」
「なによ?」
「そこまで聞いてもよく分からないんですが」
「照れないでいいのよ。あなたなんでしょ?私のヒーロー」
「いや…」
何のことだろう?まったくさっぱり何のことか分からない。僕は高校の入学式で初めて彼女を知ったし、彼女を誘拐犯から助け出すような、そんな主人公みたいな活躍はした覚えがないのだけれど…
「あなたの声を聞いた時に、すぐ分かったわ」
「はぁ…」
「あの時私に『大丈夫だよ』って言ってくれたのは、あなたなんだって。あなたが私のヒーローなんだって」
ごめんなさい、それ僕じゃないです。
「だからね、私、あなたが大好きなの」
いや、冷静に考えて、お嬢様?
僕と君は同い年なんだよ?当時八歳の君を誘拐犯から救い出したのは八歳の僕ってことになるんですよ?
そんな、大それたことはした覚えがない。ありえない。絶対に断言出来る。僕ではない。人違いだ。
「あなたのことが大好きッ」
そう言って頬を赤らめる神宮寺カノンを見つめながら、僕は思った。
ま、いっか。
こんな役得あっても、いいよね?
どうせ生き返れないし転生も出来ないんだし。
どうせ神宮寺カノンも作り物なんだし。
って言うか…作者さん??
あんたの物語、なんか色々と破綻してませんかね?
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