これは恋の物語?
僕は地縛霊になったのだろうか?この物語の作者からは相変わらず何の説明も与えられていないので、いまいち断言は出来ないが、いくつかの設定と展開は与えて貰うことが出来た。
まず第一に、僕は死んだこと。死んでなお僕の記憶があり、こうして思考することが出来ること。転生はさせてもらえなかったこと。
次に、僕は僕の死んだ事故現場から半径二十メートルにしか居られないこと。そこを越えようとすると元の場所に戻ってしまうこと。
最後に、僕の声が神宮寺カノンに聞こえるということ。彼女は僕の姿を見つけることは出来ないが、僕の声を聞くことは出来るらしい。
「ねぇあなた、そこにいるのかしら?」
「あ、はい。今日もいますよ」
日曜日から一週間、神宮寺カノンは毎日、僕に会いに来てくれた。そして、僕に話しかけてくれて僕の話を聞いてくれていた。
「あなた、これからどうなるのかしら?」
「それが僕にも分からないんです…」
「本当に死んだ…のよね?」
「それは間違いないかと。でも僕のよく読むラノベだとこんな展開見た事なくて…」
「ラノベ?何かしらそれは」
「ラノベですよ、ラノベ。ライトノベル知りませんか?」
「聞いたことないわね…」
神宮寺カノンはお嬢様だった。お嬢様はライトノベルとは縁がなかった。それが少し悲しかった。やはり住む世界が違うのかもしれない。
「いわゆる小説です、イラストのついた」
「あら、小説のことなの?私もよく小説は読んでいるわよ」
そう言って彼女はいくつかの作品名をあげた。
そのほとんどが外国文学のようで、僕には聞き馴染みのない作品名ばかりだった。
僕が唯一知っていたのは、『ハリ…』、いや、魔法使いの少年のお話くらいだ。これはどこかの施設のアトラクションになっていたのを覚えている。行ったことはないけれど。
危うく他の作品名を出してしまうところだった。作者はその辺のことを気をつけて欲しいものだ。著作権に引っかかってしまっては元も子もない。僕はモブ扱いだが、作品の登場人物としての誇りは持っている。
「そろそろ帰らなくちゃ…」
「そうですよね、送りますよ」
「二十メートルしか歩けないくせに」
「そうです…よね。ごめんなさい」
「どうせ見えないもの。あなたの姿」
「そうですよね、ごめんなさい」
「いちいち謝らないで下さる?」
「ごめんなさい…あ、ごめんなさい」
「あなたは私の恋人なのよ、死んじゃったけど。少しは自分に自信を持ちなさいよ。私が選んだ恋人なんだから」
僕はこの先どうなるのだろうか?
こんなに幸せな気持ちにさせられて、また地獄に突き落とされるのだろうか?この物語の作者は僕をどうしたいんだろう?モブ扱いしたはずなのに、こうしてまた、神宮寺カノンとのやり取りを作ってくれている。
そうか、そうだよな、神宮寺カノンだってこの作者の物語の登場人物に過ぎないもんな…好き勝手に動かしやがって。
どうせならもっと彼女とイチャイチャする展開の一つや二つ作ってくれないか? 頬っぺにファーストキッスは経験させて貰ったけれど、口と口でチューしたい欲求は日に日に増してきている。
おーい、聞いてるのか?作者?
作者さん??作者様~????
はぁ、虚しくなる、やめよう。
少なくとも、僕はこの物語の主人公じゃないんだ。
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