シュヴァルツ&ヴァイス 承
俺とヴァイスは、日本のとある地方都市を訪れていた。
現在俺たちは、駅をすぐ出たところにある緑が溢れる公園にいる。
本来なら、ここで現地協力者と合流する予定だった。
しかし、約束の時間を過ぎても、現地協力者は一向に現れなかったのである。
なので、今は公園内を歩き回り、現地協力者を探している最中だ。
「まったく、
ヴァイスは悪態をつく。
だが、それも仕方がない。
なんせここまでの移動だけで丸一日潰れたのだからな。
「ヴァイス、そう怒るな。日本人は時間に厳格な民族だ。きっと遅れているにも理由があるんだろう」
「……まあ、いいさ。遅れた理由はあとで聞けばわかることだしな。さて、早くこの任務を終わらせるためにも、さっさと現地協力者を見つけるとするか」
ヴァイスは再び歩みを進めた。
すると、すぐそばで男たちが明るめなアッシュグレーの髪色をした長髪の少女を囲んでいるのを発見する。
「いい加減しつこいですよ! 私にはこれから大事な用があるんです!」
「そんなこと言わないでさぁー。ちょっとお茶するだけだってぇー。ほら、そこのお店とかどう?」
「嫌です! 行きません!」
男の一人が少女の肩に触れようとするが、その手は勢いよく振り払われた。
「おい、てめぇら何してやがる。この嬢ちゃんは嫌がってるじゃねえか」
いつの間にかヴァイスが、男たちと少女の間に割って入っている。
ヴァイスのやつ、また厄介事に首を突っ込みやがって……。
「ああ? なんだお前は? ってよく見りゃ女じゃねえか」
「おい、不細工な男女。そこをどけよ。お前に構ってる暇はねぇんだ」
「……てめぇら、どうやら死にたいらしいな」
ヴァイスの奴、相当キレてるな。
早く仲裁に入らないとまずい。
「待て、ヴァイス。落ち――」
「あばよ」
仲裁に入る前に、ヴァイスは能力を行使し、男たちは黒い炎に包まれる。
一瞬最悪な結末を予想したが、それはすぐに杞憂に終わった。
なんと燃えたのは男たちの衣服だけだったのだ。
男たちは皆パンツ一丁になっていた。
「……は?」
「な、なんだ今のは……。というか、さみぃ!」
「おいおい、そんな格好で公衆の面前を出歩いていいのかよ? そういや、近くに交番があったよな?」
「くそっ、ふざけんなよ! 覚えてろ!」
俺は安堵のため息をつく。
ちょっと前まで、チンピラを丸焦げにしていたのが懐かしいな。
「お前の女好きには脱帽するよ」
「別に下心はねえよ。それより嬢ちゃん、大丈夫か?」
「このたびはありがとうございます。あなた方が、シュヴァルツとヴァイスですね?」
「な、なんで俺たちの名を……? まさか――」
「はい、私は
無事現地協力者と合流したあと、俺たちはとある旅館の一室へと案内された。
どうやら、ここが今回の拠点のようだ。
「――以上が今回の任務の内容となります。……って、あなた方は何をしているのですか!? ハレンチですよ!?」
「ん? 何って治療だが?」
グリの説明を受けながら、俺はヴァイスにできた火傷の治療をしていた。
今回の火傷は背中にできている。
治療の邪魔になるので、上半身に服は着ていない。
もちろん、下着はつけている。
「俺たちのことをボスに聞いてないのか?」
「……いえ、だいたいのことは把握しています。ですが、目の前にしてみるとちょっと……」
「説明ありがとな、嬢ちゃん。わかりやすかったぜ。でもよ、本当にアタシらはここで待機してるだけでいいのか?」
「はい、今はここで待機していてください。何かあれば、こちらから連絡します。もちろん、そのときはすぐに行動できるようにしておいてくださいね。護衛対象の資料は後ほど送らせていただきます」
「了解した。これからよろしく頼む」
俺はグリに握手を求める。
グリは顔色一つ変えずに握手を返した。
そして、俺は布団の上で寝転がっているヴァイスの目を見る。
ヴァイスは目が合った途端に飛び起き、俺と同じようにグリに手を差し出した。
「よろしくな、嬢ちゃん。いや、グリ」
「お二方、改めてよろしくお願いします。それでは、私はこれで失礼します。今日は任務がないので、ごゆっくり過ごしてください。もし、何か用があれば先ほど渡した携帯電話から連絡してくださいね」
「わかった」
「ああ、そういえば、この旅館は泉質の良い天然温泉で有名らしいので、長旅の疲れを癒すのにちょうどいいと思いますよ」
グリは少しだけ口角を上げ、浅いお辞儀をした後に、部屋から出ていった。
さて、とりあえず温泉にでも入るとするか。
夕食まで、まだ時間があるからな。
「なあ、シュヴァルツ。この旅館にサウナはあるのか?」
「おそらく、ないだろう。この旅館自体結構古めで、伝統を守ってる雰囲気があるからな」
「そりゃ残念だな。またお前とサウナ我慢勝負ができると思ったのに……」
ヴァイスは少し肩を落としながら、渋々浴衣に着替え始めた。
部屋に置いてあった旅館の案内を改めて確認したが、やはりサウナはないようだ。
というか、なくてよかった。
また我慢勝負をして、死にかけるのはごめんだからな。
俺は浴衣に着替えたあと、温泉に向かうことした。
「はぁ……ちょっと熱いがこれはこれで気持ちいいな」
俺は身体を軽く流したあと、露天風呂に入る。
幸運なことに、温泉には俺一人だけしかいなかった。
まるで貸し切り風呂のような状況に、俺はつい気分を良くして長湯をしてしまう。
しかし、それが仇となり、熱さにあてられてだんだん意識が遠くなっていく。
これはまずい……な……。
はや……く……でない……と……。
そう思った瞬間、俺の意識は途切れてしまった。
「……きみ……大丈夫……か!?」
「――はっ!?」
誰かの声が聞こえてくる。
そのおかげで、なんとか意識を取り戻す。
俺は脱衣所にある長椅子に横になっていた。
目の前にはグレーヘアの大柄で体格のいい中老の男性が、心配そうな顔をして立っている。
彫りの深い顔に、高い鼻、角ばった顔つき、そして緑色の瞳。
どうやら日本人ではなく、外国人のようだった。
「よかった。意識が戻らなかったら救急車を呼ぶところだったよ。さあ、この水をゆっくりと飲みなさい」
「……ありがとうございます」
男性から渡された水で体内を満たし、身体が徐々に楽になっていく。
「助けていただきありがとうございます。この恩は必ず返し――」
「そんなに畏まらなくても大丈夫。なあに、困ったときはお互い様だよ」
「そうですか……」
「それより体調はどうかね? 自分の部屋まで一人で戻れるかな? もしよければ、私が一緒に――」
「お気遣いありがとうございます。俺は大丈夫です」
「……わかった。それでは、私はこれで失礼するよ。また会えたらいいね」
「はい、ありがとうございました」
「遅かったな。もう少しで男湯に捜索隊を派遣するところだったぜ」
「心配かけてすまんな」
部屋に戻り、ヴァイスと軽口を交わしたあと、携帯電話を確認する。
すると、グリから任務の詳細な資料が送られてきていた。
俺はその資料を読んで思わず息を呑む。
なぜなら身辺警護の対象者が、先ほど俺を介抱してくれた男性であったからだ。
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