番外 新妻勇者の不満

 ━━ステラ視点




 魔王軍との戦いを終えて故郷に帰ったら、なんか家ができてた。

 私とアランの二人で暮らす用の家なんだって。

 お父さん達は私達が絶対にくっついて帰ってくるって確信してたみたいで、

 アランが修行の旅で手に入れたはいいけど、戦いの役には立たないし、売りさばくのも持ち運ぶのも面倒で、適当に処理しておいてって手紙と一緒に故郷に送りつけてたマジックアイテムの山の一部を換金して、家を建てたらしい。


「ステラちゃん! 音漏れとか気にせずに、存分にイチャイチャしてね!」


 っていうおばさんの言葉が今でも耳に残ってて、思い出す度に顔が熱くなる。

 これってつまりそういうことよね?

 親のいない家。

 新婚の若い男女が二人っきりで一つ屋根の下。

 しかもご丁寧なことに、ベッドは寝室に大きめなのが一つしか用意されてない。


 ここまでくれば、誰だっておばさん達の意図を理解できる。

 そして、私達にそれを拒否する理由なんてない!

 アランも口では「余計なことを……!」とか言ってたけど、顔が私以上に真っ赤っ赤だし、チラッチラと私のこと見てくるし、別に嫌がってるわけじゃなさそう。

 というか、滅茶苦茶期待してるんじゃないこれ?


 故郷への帰り道は他の人もいる乗合馬車の旅だったし、街で宿に泊まった時も隣の部屋に聞こえちゃわないか気になって、結局できなかったからね。

 でも、今はそんな心配は微塵もない。

 エルネスタ先生!

 私は今日、大人になります!


 そして、遂に迎えた故郷に帰って初めての夜。


「あー、その……寝るか」

「そ、そうね!」


 お互いにぎこちなく同じベッドに入る。

 告白してくれた時にヘタレを卒業したらしいアランは、ベッドの中で私の体をギュッと抱きしめた。


「!」


 アランの滅茶苦茶早い心臓の鼓動が聞こえてきて、ただでさえ早鐘を打ってた私の心臓の鼓動も加速していく。

 細マッチョっていうか、無駄のない筋肉に包まれたアランの体は逞しくて。

 身体能力なら私の方が遥かに上のはずだけど、そんなことは関係なくて、こうしてギュッとされてると、ドキドキすると同時に凄い安心する。

 これからアランに食べられちゃうんだってわかってても、安心する。


 アランなら絶対優しくしてくれるって確信できた。

 でも、激しく求められたいような気もして……ああ、頭がどんどんピンク色になってくわ。

 上手くできるかな?

 アランは器用だけどこういう経験はないって言ってたし、ここは口での説明だけだけどエルネスタ先生に色々教えてもらった私がフォローして……


「あれ?」


 そんなことを思ってるうちに、いつの間にかアランの心臓の鼓動がやたらと落ち着いてることに気づいた。

 気になって顔を見てみると……そこには死ぬほど安らかな顔をして寝息を立てるアランの姿が。


「こ、こいつ……!」


 この状況で寝やがったわ!

 信じられない!

 私はお腹の奥が熱くて切ないままなのに!

 決戦前に告白した時は、「妊娠して戦線離脱したいのか!」とか言ってきたくせに!


 どう落とし前つけてやろうかと思ったけど……。


「……子供みたいな寝顔ね」


 アランの寝顔を見てるうちに、なんかそういう気分でもなくなってきた。

 こんな風に、ちっちゃな子供みたいに安心し切った寝顔のアランを見たのはいつぶりかしら?

 勇者になる前、子供の頃は一緒に寝たこともあるけど、あの前の世界の夢とやらを見てからのアランは、こんなに安らいだ寝顔は見せなかった気がする。


 思えば、その頃からこいつはずっと気を張ってたのね。

 当時の私は夢の話に関しては半信半疑だったから、そこまで本格的な危機感は抱けなかった。

 だけど、アランは当時から前の世界の記憶のことを、夢は夢でも最悪の予知夢くらいには考えてて、その通りにさせないように必死だった。

 私と煽り合って笑ってたりはしたけど、その裏でずっと張り詰めてた。

 私なんかより、ずっとずっと頑張ってた。

 一緒に故郷に帰ってこれたことで、アランの張り詰めた糸がようやく緩んだ結果が、この快眠なのかもしれない。


 それに気づいちゃえば、もうアランを責める気になんてなれるはずもなく。


「お疲れ様、アラン」


 私はアランの背中に手を回して、子供をあやすみたいに撫で続けた。

 アランの寝顔はますます緩んでいって、それを見て可愛いなんて思ってるうちに私も眠りに落ちてた。


 そうして、私達の初夜はそういう雰囲気になることなく終わった。


 不満は無いわ。

 最初はちょっとモヤッとしたけど、最終的にはアランがやっと安心して眠れるようになったんだってわかって嬉しくなったくらい。

 寝顔も可愛かったし。


 そう、不満は無かったのよ。

 最初のうちは。

 だけど!

 だけどね!


「さすがに一ヶ月も同じ状況が続くっていうのはおかしくないですか!?」


 私は今、お酒を片手に愚痴っていた。

 穏やかな寝顔のアランが愛おしく思えるのは今も変わらない。

 でも、さすがに一ヶ月も毎日同じベッドで寝てて、一回もそういう空気にならないっていうのはおかしいわ!

 

「私、色気ないんですかね!?」

「そんなわけないじゃない! アランがヘタレ過ぎるのが悪いのよ!」


 愚痴を聞いてくれてたおばさんが憤慨した様子で私の言葉を否定してくれた。

 おばさんも酔ってるからか、実の息子をヘタレ呼ばわりすることに躊躇がない。


「信じられないわ! あの子ったら、ステラちゃんみたいな可愛い子を一ヶ月も襲ってなかったなんて!

 そんな子に育てた覚えはありません!」


 おばさんは気炎を吐いてお酒を一気飲みした後、アランそっくりの強い信念の宿った目で私を見て言った。


「ステラちゃん! 今から街に行ってお買い物するわよ!

 私が旦那を落としてアランが生まれるキッカケになった最強装備を伝授するわ!」

「最強装備!?」


 そうして、酔ったテンションのまま私達は街に繰り出した。

 前後不覚になるほど飲んではいないけど、気が大きくなってたのは間違いないわね。

 結果、私はおばさんの勢いに押される形で、素面だったら絶対に躊躇してた最強装備を普通に購入した。

 で、夜になってもお酒が残ってたから、躊躇なく装備してアランを待ち構えた。

 そして……


「お、お前っ!? な、なんて格好してんだ!?」


 夜の寝室で、過去最高に真っ赤っ赤な顔を必死に手で隠すアランが見られた。

 そんなアランを見てると、なんかゾクゾクしてくる。

 私は完全に平常心を失ってるアランとの間合いを詰めてベッドに押し倒しながら、膂力の差に任せて顔を覆ってる手を掴んでどけた。


「ッ!?」


 アランは必死に目を閉じようとしたけど、理性を本能が上回っちゃったのか、視線が最強装備で飾り立てられた私の胸に釘付けになってる。

 ああ、良かった。

 おばさんの言う通り、私に色気がないわけじゃなかったみたい。


「ねぇ、アラン」

「な、なんだ……!?」

「今のアラン、すっごく可愛いわ」


 そして、すっごく美味しそう。

 耳元で囁くようにそう言ったら、アランが限界を越えたみたいに顔から蒸気を噴き出した。

 ますます美味しそう。

 もう我慢できないし、我慢なんてしなくていいわよね?


「それじゃあ、いただきます」

「や、やめろぉ!」


 思う存分蹂躪してやった。

 とっても美味しかったです。

 満足!

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