99 最後の戦い 2
「『地獄剣・覇道』!」
魔王が剣を振り下ろし、そこから凄まじい闇の奔流が放たれる。
闇の斬撃が跳ね返されたのを見て、範囲攻撃に切り替えてきたか。
それでも終の太刀なら跳ね返せるが……今は使わない。
あの技はとてつもない集中力を必要とし、凄まじく神経を削る。
傷も体力もある程度はエルトライトさんの魔法で回復させてもらえたとはいえ、未だフェザード戦の疲労が色濃く残ってる体で連発はできない。
魔王城突入前に仲間達と共に考えた秘策としての使い方をするなら、一発が限度。
あれを使うのは、ここぞという時だけだ。
ならば、ここで選択する技は……
「三の太刀━━『斬払い』!」
魔法の綻びを斬り、そこから霧散させる必殺剣によって、闇の奔流の中心部分を霧散させて縦に引き裂く。
さすがは全盛期の魔王というべきか、こんな通常攻撃ですらフェザードの最後の一撃に匹敵する威力と速度だったが、
治療を受けた今の体なら、終の太刀に頼らなくてもどうにかなる。
とはいえ、余裕で対処できているわけでは断じてない。
終の太刀の発動ほどではないが、一撃を凌ぐだけで大きく消耗させられる。
俺がこの魔王と一対一で戦ったら、例え体調が万全でも、一方的に削り切られて負けるだろう。
傷の一つすら付けられるか怪しい。
こんな化け物とステラが戦ってたんだと思うと背筋が凍る。
こんな化け物に、前の世界のステラはたった一人で立ち向かったのかと思うと胸が引き裂けそうになる。
だが、もう一人で戦う必要はない。
俺も、ステラも。
前の世界では俺達二人とも、一人で戦ってこいつに殺された。
だから今度は、今度こそは生きて勝つ。
勝って、
「行くわよ!」
「ああ!」
「おう!」
「はい!」
「任せよ!」
ステラの掛け声に合わせて、勇者パーティーが動き出す。
俺が斬り裂いた闇の魔法の隙間からステラが突撃し、ブレイドがそれに続く。
俺もまた二振りの相棒を構えて二人に続き、リンとエル婆は後方からの魔法支援に徹する。
「外部組の指揮は私が取らせていただきます!
イミナ殿、ガルム殿は勇者様方に続いてください! 連携の邪魔になるので、隙を見つけたら一撃入れて後退する程度で結構!
私はママ、じゃなくて母上とリン殿を護衛しつつ、二人と同じく後方支援に徹します!
ドッグ殿は基本的に私達の傍で待機! 誰かが負傷したら走って回収してきてください!」
「わかったっす!」
「了解した!」
「くっ! その程度しか役に立てない我が身が憎いな!」
エルトライトさんがパーティーメンバー以外の三人を指揮して、連携の訓練をしていない即席チームを的確に動かしてくれた。
さすがは、ドラグバーン戦で九千人ものエルフを指揮した男。
頼りになる。
あの人なら、戦闘力的に魔王に通じないレベルのドッグさんも上手く使ってくれるだろう。
「やぁあああああ!!」
ステラが先陣を切って魔王に飛びかかり、全力で聖剣を叩きつける。
魔王を前にしたことで解放されたんだろう聖剣の真の力を纏ったステラの動きは凄まじい。
だが、やはり力量は魔王の方が上。
ステラの斬撃を同じく斬撃で迎撃し、ステラが押し負けて吹き飛ばされた。
そこへ魔王は追撃をかけようとして……
「『刹那斬り』!」
「チィ!」
高速で斬りかかったブレイドの攻撃を防ぐために足が止まった。
今度はブレイドの大剣が魔王の剣とぶつかって、つばぜり合いになる。
当然、力の差は歴然。
魔王は瞬時にブレイドの剣を弾き、フェザードを彷彿とさせる神速の切り返しで、がら空きとなったブレイドの胴を狙った。
そこを今度は俺が防ぐ。
「二の太刀━━『歪曲』!」
上段から振り下ろされる魔王の剣。
それが加速し始める前に、ブレイドと魔王の間に体を滑り込ませ、怨霊丸で魔王の剣の側面をほんの僅かに撫でて軌道を歪める。
結果、魔王の剣はブレイドから逸れて床に叩きつけられた。
「くっ……!」
だが、魔王の剣は次元の違う身体能力の分、フェザードよりも遥かに重い。
攻撃を歪めると同時に、受け流し切れなかった衝撃が俺にきた。
その衝撃で怨霊丸が弾かれる。
「一の太刀━━『流刃』!」
しかし、それすらも利用して、弾かれる勢いを利用して体を回転。
技を繋げ、最強殺しの剣の基本の技を魔王に叩き込む!
「ふん!」
魔王はこの世界では初見のはずの流刃を当たり前のように防いだ。
まあ、そうだろうな。
いくらフェザードとの戦いを経て、かつての全盛期以上に研ぎ澄まされた技とはいえ、そう簡単に当たるようなら一人で勝てないなんて断言はしない。
だが、仕事は果たした。
歪曲によって攻撃を防ぎ、逆に俺の攻撃を魔王に防がせたことで、その隙に狙われていたブレイドが魔王の懐から離脱できた。
ついでに、もう一手欲張らせてもらう。
俺は流刃で使い切れなかった回転力を足捌きで操り、魔王の膨大な力を俺の移動エネルギーに変換。
「一の太刀変型━━『激流加速・無尽』!」
大きすぎる推進力を得ることで、フェザード戦でも使った疑似勇者の速度を得る。
いや、利用した魔王の力がフェザード以上だったことで、フェザード戦の時よりもなお速い。
それでも聖剣の真の力を解放してる今のステラには届かないが、強力な武器には違いない。
「ちょっと見ない間に何があったのよ! 更に追いつくのが難しくなってるじゃない!」
「うるせぇ! 言ってる場合か! 文句あるならお前も強くなってみせろ!」
「言われなくてもやったるわよ!」
軽口を叩き合いながらも、ステラと連携して魔王を攻める。
ステラがメインで、俺がサポート。
ステラは反撃を恐れず攻撃に全力を注ぎ込み、俺が魔王の反撃を全て潰す。
お互いに能力が大きく向上してるとはいえ、昔から一緒に修行しまくって、動きの癖やら何やらを知り尽くした俺達なら、即座に相手に合わせられる。
二人で一人の連携攻撃。
そこにブレイドの的確なサポートと、頻度は高くない代わりに確実に有効な場面で攻撃してくれるイミナさんとガルムが加わることで、俺達は全盛期の魔王とまともにやり合っていた。
「魔導の理を司る精霊達よ。燃え盛る炎、渦巻く水流、鳴動する大地、吹き荒れる風、凍てつく冷気、鳴り響く雷鳴、破壊の闇、魔を打ち払う光の力よ。賢者の名のもとに合わさり、混ざり合い、強大な一つの力となって現出せよ。焼き払い、押し流し、押し潰し、荒れ狂い、凍てつかせ、轟き、壊し、輝け」
そして、後方から聞こえてきた詠唱を合図に、全員同時に飛び下がる。
「『
直後、極大の魔法が魔王を襲った。
エル婆ではなく、エルトライトさんの最強魔法が魔王に炸裂する。
だが、魔王は闇の剣を上段に振り上げ……
「『地獄剣・斬牙』!」
あっさりと最強魔法を真っ二つに両断してしまった。
それどころか、魔法を斬り裂いてなお止まらない飛翔する闇の斬撃がエル婆達を襲う。
「『神盾結界』!」
しかし、こっちも俺達が戦ってる間に詠唱を終えたリンの結界魔法がそれを防いだ。
かなり長めの詠唱で補強したのか、魔法とぶつかって威力が減衰した闇の斬撃じゃヒビ程度しか入らない。
そのヒビもリンが追加で詠唱し、すぐに修復する。
更に、
「━━炎を極めて爆炎となれ。水流を極めて大海となれ。大地を極めて地獄となれ。風を極めて嵐となれ」
エル婆もまた魔法の詠唱をしていた。
半端な魔法は魔王に通じないと見て、援護の代わりに本来の詠唱に追加する形で更なる詠唱を重ね、魔法の威力を上げていく。
「冷気を極めて凍土となれ。雷鳴を極めて雷光となれ。闇を極めて暗黒となれ。光を極めて極光となれ。
至高の力、集いに集いて敵を討て。━━『極・
そして、合計数分もの時間を詠唱のみに費やした、最強魔法の進化系が放たれる。
魔王城に突入するための大穴を空けた聖戦士達の合体魔法を個人で上回る威力。
大賢者の全力全開の一撃が魔王を飲み込んだ。
それに続くように、俺達はたたみかける。
「「ハァアアアア!!」」
魔法を食らった直後の魔王に向けて、俺とステラが正面から突撃。
魔王はすぐに俺達を迎撃しようとして、
「『天極剣』!」
「『轟雷鎚』!」
「『王獣撃』!」
左右と背後から強襲したブレイド、イミナさん、ガルムの三人に気を取られた。
無視はできないはずだ。
あの三人の攻撃じゃ大したダメージは入らないだろうが、だからってノーガードで受けたら大きく体勢が崩れる。
故に、魔王は三人への対処に一手を使うしかない。
「『暗黒界』!」
魔王を中心に、円のような形をした闇の魔法が広がる。
それが三人を吹っ飛ばしたが、ガードは間に合ってたし、すぐにリンの治癒魔法が飛ぶだろうから大丈夫だ。
ドッグさんが走るまでもない。
だから向こうのことは気にせず、三人が魔王の手を煩わせて作ってくれた一手の遅れを全力で叩く!
「ハッ!」
円のような闇魔法を斬払いで裂き、こじ開けた道の中を俺とステラの二人で走る。
俺が前で、ステラが後ろ。
俺が盾で、ステラが剣だ。
「『地獄剣━━」
そんな俺達を迎え撃つ魔王。
一手の遅れのせいで、大技を放つ暇はない。
だからこそ、魔王は剣を上段に構え、小細工抜きの一閃を放った。
飛翔する斬撃でもなく、魔法でもなく、剣士としての真っ向勝負を選んだ。
「『羅刹』!!」
共に修行でもしたのか、まるでフェザードのように綺麗な魔王の太刀筋。
フェザードの面影がチラチラと見え隠れする魔王の剣。
つまり、魔王とフェザード、二人分の想いの宿った剣。
それは、とてつもなく重い。
だからだろうか。
ここまでの打ち合いで酷使した腕が、
フェザードに斬り飛ばされた後、完治はしていない右腕が、
このタイミングで悲鳴を上げた。
「ガァアアアアア!!」
それでも、負けはしない!
刃に想いを乗せているのはお前らだけじゃない!
歪曲で、磨き続けた弱者が強者に抗うための必殺剣で、魔王の剣を逸らす。
さっきブレイドを助けた時と同じく、受け流し切れない衝撃が体にきたが、
それも何とか激流加速の応用で逃して、衝撃を移動エネルギーに変えて横に飛ぶことで体が壊れるのを避ける。
流刃に繋げる余裕もなく、激流加速で理想の動きをすることもできなかったが、盾の役割は果たした。
なら、次は……
「行けぇ! ステラ!」
「『
ステラの光を纏う斬撃が魔王に炸裂した。
魔王は即座に受け流された剣を引き戻して受け止めようとしたが、そんな不完全な体勢では防ぎ切れず……
━━ステラの聖剣が魔王の剣を両断し、魔王の体に一筋の傷が刻まれた。
さっき俺が魔王の斬撃を跳ね返して与えたダメージとはわけが違う。
聖剣による回復阻害の傷だ。
前の世界の魔王が数十年をかけても治せなかった傷だ。
しかも、今与えた傷も、それなり以上に深い!
いける。
届く。
勝てる。
俺達全員合わせれば、魔王とも対等以上に戦える!
そんな希望を抱いた瞬間……
「おおおおおおおお!!」
魔王が動いた。
傷付いた体に頓着することなく、まるでこうなることが狙い通りとばかりに、一切の迷いなく動いた。
魔王が繰り出したのは、拳だ。
折れた剣を手放し、流れるように全力の殴打をステラの横っ面に叩き込もうとしてやがる。
このタイミングじゃ、俺の防御は間に合わない!
「あぐっ!?」
「ステラッ!?」
ここまで魔王と一対一で戦い続けた疲労もあったんだろう。
ステラは魔王の拳を避けられずに直撃を食らい、弾丸のような勢いで吹き飛ばされた。
吹っ飛んだステラの軌道上にドッグさんが回り込み、「うごっ!?」と悲鳴を上げながらも受け止めて、すぐにリンのところに連れて行って回復してくれたが……怪我は決して軽くない。
立ち上がったステラは明らかにふらついている。
「この程度……なんともないわ!」
それでも勇者が抜けては魔王と戦えないと理解しているからか、ステラは無理にでも即座に戦線に復帰した。
しかし、その動きは明らかに精彩を欠いている。
「くそっ!」
忸怩たる思いだ。
好きな女にあれだけの怪我を負わせて、あれだけの無茶を強いるなんて、男として情けない。
だが、己を恥じてる暇があるなら、弱ったステラをどう支えるかを考えろ。
男とか女とか以前に、俺達は相棒だ。
ステラは俺が一方的に守らなきゃならないお姫様じゃない。
頼れる強い奴だ。
そんな奴が弱りながらもまだ立ってるなら、まだ戦えてるなら、信じて全力で支える!
「ごほっ……!」
一方、魔王は血を吐きながらも闇の剣を生成し、弱ったステラへと肉薄して追撃をかけようとしていた。
袈裟懸けの一撃を食らい、決して軽くはない傷を負っているが、より重いダメージを受けたのは回復込みでもステラの方だろう。
「こいつ……!」
やられた。
魔王の狙いは相討ち覚悟のカウンターだったんだ。
肉を斬らせて骨を断つ。
その肉が治らないとわかっていながら、魔王は躊躇なくそれを実行した。
俺達に勝つために。
ああ、くそっ。
やっぱり、こいつ強い。
対等以上に戦える?
そんなもん、ただの幻想だった。
相手は歴代最悪の魔王だぞ。
全力の全力、渾身の渾身、真の意味で全身全霊を尽くさなければ勝てないに決まってるだろ。
もっと集中しろ。
既に澄み渡っている視界を、静かすぎる世界を、全盛期の感覚を、更に研ぎ澄ませ!
「ああああああ!!」
俺は吹っ飛ばされた体を激流加速によってより精密に制御し、軌道を修正して、ステラに向かって走る魔王目掛けて突撃した。
ステラも走って魔王との距離を凄い勢いで縮めてるが、このままなら俺の方が僅かに早く魔王と接触する。
「『
そして、超高速で動いてるはずの俺達に、後方のリンが治癒魔法をぶつけてくれた。
それによって俺の右腕は応急措置が成され、ステラのダメージも気休め程度には軽くなる。
ありがたい!
「ラァアアアア!!」
「ウリャアアア!!」
「ぬぉおおおお!!」
更に、他の三人もまた駆けつけてくれた。
俺とステラと合わせて五方向から、ちょうど魔王を囲むようにして突撃する。
「『地獄剣━━」
そんな俺達に対して、
「『輪廻』!」
魔王は、片足を軸にクルリと回転しながら、輪のような闇の斬撃を放つことで迎撃。
俺は闇の輪に怨霊丸を突き刺し、
「『斬払い』!」
斬払いでその部分を霧散させて、霧散した部分を突き破りながら魔王に接近した。
だが、俺より後方にいたステラはともかく、俺とほぼ同時のタイミングで突撃していた他の三人は、闇の輪を迎撃するために攻撃を叩き込み、一部が霧散して脆くなっていたおかげで闇の輪の破壊には成功したものの、衝撃でたたらを踏んで一歩出遅れた。
「四の太刀━━『黒月』!」
それでも止まるわけにはいかない。
激流加速によって未だに維持したままの速度に乗せて黒天丸を突き出す。
狙いは魔王の胸。
ステラの袈裟懸けの斬撃が刻まれた場所。
ドラグバーンの時みたいに、回復不能の傷を更に抉って広げる!
「ふっ!」
魔王は俺の刺突を剣の腹であっさりと防ぐ。
まだだ。
防がれると同時に腰を落とし、刀を滑らせて刺突から脇腹への斬撃へと動きを変更。
一の太刀変型『流流』!
更に!
「やぁああああ!!」
このタイミングでステラも追いつき、横から魔王の首を狙って剣を振るった。
腹と首への同時攻撃。
これで!
「「ッ!?」」
しかし、魔王はヌルリと滑るように横に動いて、俺達の斬撃を回避した。
そのまま横から剣を振るい、まずは俺を両断しようとしてくる。
俺はどうにかそれに怨霊丸を合わせた。
六の太刀━━
「『反天』!」
「ぬ……!」
敵の攻撃と自分の攻撃がぶつかった時の衝撃を、敵の最も脆い部分に浸透させて破壊する技。
それによって魔王の剣がヒビ割れ、浸透した衝撃によって弾かれた。
だが、あの剣は魔王の魔法による産物であり、瞬時に修復されてしまう。
それでも剣を弾いてできた隙目掛けて、ステラが斬撃を叩き込んだ。
魔王はそれに対し、剣から左手を放して、その手に闇のオーラを纏い……
「え!?」
なんと、掌で聖剣の一撃を止めてしまった。
もちろん無傷じゃない。
切断にこそ至っていないが、掌はバッサリと斬れ、この先、剣を握る力に支障が出るだろう。
だが、代わりに魔王は聖剣を掴んで動きを封じた。
血の滴る左手に頓着せず、残った右手で闇の剣を振るい、ステラを両断しようとする。
「おおお!!」
それを見て、俺は体に残った推進力を激流加速の足捌きでステラの方向に向け、ステラに向かって体当たりした。
ステラは咄嗟に聖剣を手放し、俺の体当たりを受け入れて一緒に吹っ飛ぶ。
結果、魔王の一撃を避けることに成功した。
代償としてステラは聖剣を手放したことで、一時的にその力を失っている。
アースガルドに奪われた時と同じく、即座に手元に呼び戻そうとしてるが、このままじゃ魔王の次の攻撃には間に合わない。
一方の俺も、後先考えず、とにかくステラを生かすために体当たりを敢行したせいで体勢が崩れ、とても魔王の攻撃が来るまでの一瞬では立て直せない。
この状態で迎撃なんてもってのほかだ。
「『破壊剣』!!」
だが、俺達が魔王の手を煩わせていた僅かな時間でブレイドが追いつき、魔王に背後から大剣の一撃を叩き込んでくれた。
ブレイドの攻撃力じゃ魔王にダメージは入らないだろうが、だからといって無視して直撃を食らえば体勢が崩れる。
そして、体勢が崩れれば、俺達が立て直すまでの時間が稼げる。
「フッ!」
魔王もそれをわかっているからか、俺達への追撃を中断して、ブレイドへの対処を優先した。
後ろを向いたまま闇の剣でブレイドの一撃を受け流し、そのまま流れるようなカウンターを繰り出す。
完璧なタイミングだ。
あれは避けられない。
ブレイド一人だったら、これで確実に死ぬ。
「『轟鎚』!」
「『
しかし、そこにイミナさんとガルムが飛びかかり、魔王は二人の攻撃に対処するために動きを変えた。
それによってブレイドの命は繋がる。
「『地獄剣━━」
だが、その後の魔王の動きはマズい!
魔王はバックステップで三人から距離を取り、飛び下がりながら剣を上段に構えたのだ。
あの位置からなら、三人を一度に狙い撃ててしまう!
「お前ら! 逃げ……」
「『覇道』!」
俺の言葉は間に合わず、間に合ったとしてもどうしようもなく、魔王の剣から闇の奔流が放たれる。
吹っ飛ばされて軌道修正中の俺達じゃ、三人の救援は間に合わない。
このままだと、三人纏めて……!?
「『
しかし、闇の奔流が放たれる直前、剣を握る魔王の手に光の魔法が直撃した。
ダメージこそ皆無だが、それによって魔王の剣が弾かれて攻撃が横に逸れる。
「『
更に、三人を魔王の攻撃が逸れた方とは逆の方向に吹き飛ばす衝撃波の魔法が放たれ、攻撃範囲から逃した。
「『
追加で俺とステラに治癒魔法が飛んでくる。
他の仲間達が魔王を引きつけてくれた分、無詠唱でも数瞬の溜めがいる高位の治癒魔法を使う余裕があったのか、
俺の方は今の攻防で更に酷使した右腕が応急措置とは言えないレベルで回復した。
ステラの方も、気休めよりはマシな状態になっただろう。
見れば、エル婆、エルトライトさん、リンの三人がこっちに杖を向けている。
さっきまでエル婆は有効打を放つために詠唱に時間を割いてたが、ステラが弱ってそんな余裕はないと判断してサポートに切り替えたんだろう。
ありがたいが、これで魔王への有効打が本格的にステラだけになってしまった。
よりステラに負担をかけてしまう……!
「「ハァアアアア!!」」
それでも泣き言なんて言ってる暇はない。
軌道修正を終え、ステラと共に再び魔王に斬りかかる。
ブレイド達もすぐに体勢を立て直し、エル婆達の援護も飛んでくる。
攻撃を途切れさせるな。
攻め続けろ。
守りに入れば、一瞬で押し込まれる。
ステラの負担を少しでも軽くするためにも、攻めて、攻めて、攻め続けろ!
「『
「『黒月』!」
「『刹那連斬』!」
「『雷光鎚』!」
「『
「「『
そうして、俺達は攻めた。
攻めて、攻めて、攻め続けた。
それでも魔王は倒れない。
揺らがない。
ダメージはある。
負傷は蓄積している。
なのに、全く動きが鈍らない。
傷も痛みもないかのように、魔王は強大な敵として君臨し続ける。
ドラグバーンのように死闘を楽しんでるわけじゃない。
アースガルドのように何も感じてないわけじゃない。
魔王は、フェザードと同じように、大切な者のために苦痛に耐え、茨の道を全力で駆けているのだ。
そういう奴が一番強くて、一番怖い。
「ハァ!」
「あばっ!?」
そして、遂に均衡が崩れ始めた。
魔王の剣の一撃を食らい、イミナさんが吹っ飛ばされる。
戦鎚でガードはしてたが、衝撃を受け流すことができない体勢で受けてしまったのだ。
そのままイミナさんは魔王城の壁に叩きつけられ、立ち上がれなくなった。
ドッグさんがすぐに回収したし死んではいなさそうだが、ステラを遥かに越える重傷だ。
戦線復帰は絶望的だろう。
「ぐはっ!?」
そして、一人倒れれば戦力が減り、連鎖的に被害が拡大してしまう。
次に狙われたのはガルムだった。
剣を避けるために無理な体勢になり、そこを蹴り飛ばされた。
ガードに使った両腕は完全に砕け、こっちも命こそ無事だが戦闘不能。
「くっ……!?」
「エルトライト!?」
その次に倒されたのはエルトライトさんだ。
魔法の撃ち合いで押し負けた。
前衛が減って、魔王にそこそこ強力な魔法を撃つ余裕を与えてしまったせいだ。
それが未だに維持されていたリンの結界を突き破って、彼に致命傷を与えたのだ。
咄嗟に自分に治癒魔法を使って命を繋いでいたが、それが限界で意識は絶たれた。
「つ、強すぎるっす……!」
倒れたイミナさんが、治らぬ傷を負いながらも暴れ続ける魔王を見て、絶望の表情でそう呟いた。
ああ、確かにそうだなと納得しかできない。
強い。
果てしなく強い。
さすがは魔王。
さすがは最強最後の敵。
あまりにも強くて笑っちまいそうになる。
だが、こいつを倒せないと、ハッピーエンドには至れないんだ。
だから戦う。
だから足掻く。
勝ち目がないとは思わない。
向こうだって相当辛いはずだ。
積み重なったダメージは致命傷の域に達している。
とてつもない気力で無理矢理動いてるだけだ。
奴は決して不死身じゃない。
それは前の世界で奴を殺した俺が証明してる。
なら、チャンスは必ず来る。
きっと奴はどんなダメージを受けても、完全に死ぬまで動き続けるだろうが、倒せないわけじゃない。
付け入る隙は必ずある。
「はうっ!?」
しかし、チャンスが訪れる前に、ドッグさんまで攻撃の余波を食らってダウンしてしまった。
これで外部組は全滅。
死んでないだけ奇跡だが、残る俺達勇者パーティーがやられば、どのみち彼らも全員死ぬ。
そして……
「頃合いか」
魔王がポツリとそう呟いた。
「終わりにしよう」
魔王は俺達から距離を取り、口を動かし始めた。
会話じゃない。
雄叫びでも咆哮でもない。
それは、━━魔法の詠唱。
戦う相手が少なくなって、詠唱の余裕ができた魔王は、一気に勝負を決めにきたのだ。
最後の戦い。
その終わりの引き金となる悪夢の権化が、今、放たれようとしていた。
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