57 行く手を阻む者達

「「ブレイド(様)!」」

「お前ら……」

「ああ、もう来たんですか。さすがに早いですね」


 乱入した俺達を見て驚く事もなく、レストはパチンと指を鳴らした。

 ブレイドとの戦闘中とは思えない余裕のある動作。

 それを合図に、この兵舎にいた操られた兵士達が俺達の前に立ち塞がる。


「今は兄上と話してるんです。家族水入らずで。邪魔しないでくださいよ」

「ッ!」


 何が家族水入らずだ!

 こんなもん、兄弟喧嘩ですらないぞ!

 ブレイドの負っている傷、致命傷とまではいかないが、それなり以上に深い。

 このまま戦闘を続けたら、最悪死ぬかもしれないってくらいには深いダメージ。

 これは正真正銘の殺し合いだ。

 レストは、ブレイドを本気で殺しにいっている。


 何やってんだと問い詰めたい。

 いや、魔族に操られてそうなってるんだとは思うが、それにしては他の奴らと違って、自意識っぽいものが残ってるのが解せない。

 ……まあ、それも今はどうでもいいか。

 とりあえず今やるべき事は、この木刀で全員ぶっ叩いて正気に戻してやる事だけだ。


「「どけ!」」

「「「ガァアアアアア!」」」


 その意気込みと共に、俺はドッグさんと共に操られた兵士達の集団へと突っ込む。

 敵兵は数が多い。

 そりゃそうだ。

 最前線近くの街を守る戦力が、さっき道中で倒してきた程度の数で枯渇する訳がない。


 この場に残ってる兵士の数は、約数百人。

 見る限り、その殆どがさっきの奴らと同じく、最下の魔族並みの力を持たされてるようだ。

 普通に考えれば絶望的な戦力。

 加護持ちの英雄であっても、この数の暴力の前には飲み込まれて果てるだろう。


 だが、やられるつもりは毛頭ない。


「「「ガァアアアアア!」」」

「フッ!」


 前から横から後ろから、俺達を押し潰すように殺到する兵士達を、俺は歩方で翻弄する。

 フェイントを混ぜ、位置取りを調整し、敵の攻撃方法やタイミングをある程度誘導。

 そうして放たれた大量の攻撃を二本の木刀で受け流し、手の回らない攻撃は避ける。

 すると……


「「「ガッ!?」」」


 俺に攻撃は当たらず、逆に攻撃した筈の兵士達の方が苦悶の声を上げた。

 前から振るわれた剣は、受け流されて横の奴の肩にめり込み。

 後ろから突き出された槍は、避けられて前の奴の腹を貫く。

 

 これもまた俺の剣の本質。

 相手の力を利用した戦い方の一つだ。

 攻撃を狙いの位置とタイミングで放たれるように誘導し、攻撃の軌道をねじ曲げ、敵の力を別の敵へと向ける。

 勇者の出立式で、英雄達を相手取った時にも使った戦法。

 複数の敵と同時に戦う事を想定した、最強殺しの剣の型の一つ。

 

 元々、迷宮攻略だの、魔族の支配領域に突貫だのして、大量の敵を一度に相手にしていた俺にとって、多対一は得意分野だ。

 場合によっては、むしろ一対一よりもやり易い。

 一対一なら、利用できる力は目の前の相手のものだけ。

 だが、多対一ならば、自分に向かってくる数多の攻撃全てを利用できる。

 連携が甘ければ、突き崩す隙も見つけやすい。

 つまり、


「数の暴力如きで、俺を止められると思うな!」


 群がる兵士達の波を抉じ開けて前に出る。

 ドッグさんもまた、俺の空けた穴を広げるような形で立ち回り、一人ずつ確実に兵士達を戦闘不能にしていく。

 そのまま、俺達は一直線にレストの元へと突貫した。


「知ってますよ。雑兵じゃあなたは止められないって事くらい」

「ッ!?」


 レストがそう言った瞬間、群がる兵士の隙間を縫って、凄まじい速度で水の弾丸が飛来してきた。

 本能が危険を察知し、直前に回避行動を取ったおかげで当たりはしなかったが、今の攻撃は他とは比べ物にならない脅威だ。

 何せ、今のは『剣聖』シズカの成れの果てこと剣聖スケルトンや、加護持ちの英雄の中でも上位の力を持っていた『拳の英雄』フィストの攻撃と同等の速度だった。

 間違っても最下の魔族程度の力で放てる攻撃じゃない。

 なら、この攻撃を放った相手は、自ずと限られてくる。


 攻撃の飛んできた方向を見れば、そこには短杖を構えた魔法使い風の中年男の姿が。


「うぅ……あぁ……」


 その人は、獣のような叫びを上げる他の兵士達とは違い、苦悶に満ちた呻き声を上げていた。

 だが、そんな状態でも、その気配から感じる実力はドッグさん以上。

 間違いなくドッグさんと同じ、この街を守っていた三人の加護持ちの英雄の一人だろう。

 水の魔法を使ってきたって事は、恐らく『水の加護』を持った魔法使い。

 それも短杖装備のところを見るに、無詠唱魔法による早撃ちが得意なタイプと見た。


「オォオオオオオオオオ!」


 更に、中年魔法使いに続いてもう一人、他とは比べ物にならない戦力が襲来する。

 そいつは引き締まった筋肉を持ち、巨大な両刃の斧を構えた三十代くらいの女だった。

 恐らく『斧の加護』を持った女戦士。

 そんな斧使いの女が大ジャンプして空中から現れ、落下の勢いと共に手に持った斧を、俺目掛けて思いっきり振り下ろす。

 その攻撃自体は歪曲で軽く受け流せたが、そのまま地面に叩きつけられた斧は大地を割り、凄まじい粉塵と衝撃波を周囲に撒き散らした。


「ちっ!」

「ぬおっ!?」


 周りにいた兵士達ごと、俺やドッグさんも衝撃波で吹き飛ばされ、後退させられる。

 俺は衝撃波に合わせて受け身を取り、ドッグさんは加護持ちとしての頑丈さで耐えたからダメージはない。

 むしろ、今の一撃で群がっていた兵士達の方が大ダメージを受け、向こうの戦力が削れた。

 最下の魔族並みの力と再生能力を持たされていたのが逆に幸いしたのか、見る限りでは死んだ奴が一人もいないっていうのも、こっちにとって都合がいい。


 ただし、その程度の優位は、この二人が出てきてしまったという事実の前では霞む。

 連携が取れるだけの知性が残ってるかはわからないが、それでも相手は魔族の力によって強化された加護持ちの英雄二人。

 まだまだ残ってる他の兵士達も、この二人と一緒に攻めて来られたら中々に面倒だ。

 少なくとも、足止めは確実にされる。

 この状況で、そんな隙を晒せば……


「これで邪魔は入りません。さあ、続きをしましょう、兄上」

「くっ!?」


 くそっ!

 レストがブレイドへの攻撃を再開した。

 聖戦士すら上回る身体能力によって、負傷したブレイドを一方的に追い詰めていく。

 剣聖の意地か兄としての意地か、ブレイドもすぐにやられるような事はなさそうだが、このままではその内確実に負けて殺されるだろう。

 レストの動きが身体能力の向上によって冴え渡ってるのに対し、逆にブレイドの方はやけに動きが鈍い。

 負傷を差し引いても、集中できてない感じだ。


 助けに行きたいが、その為には目の前の敵を突破しなければならない。

 さすがに、こいつらを倒しきるまでブレイドを助ける余裕はないだろうな。

 なら即行で終わらせるのみ。

 それまで死ぬなよ、ブレイド!

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