44 死闘の結末
「オォオオオオオオ!!!」
雄叫びを上げ、ドラグバーンが俺への攻撃を開始する。
最初の攻撃は、ドラグバーンらしく真正面から突撃しての全力右ストレート。
俺はそれに対して、左手の怨霊丸を合わせた。
「『歪曲』」
怨霊丸の耐久力では、この蒼炎の膨大な熱量と一秒でも接触し続ければ溶け落ちる。
だが、今のドラグバーンの攻撃速度は、ルベルトさんの刹那斬りにも匹敵する超速。
接触時間は、まさに刹那の間だ。
だからこそ、怨霊丸による受けが成立する。
体格差によって斜め上から振り下ろされていたドラグバーンの拳の軌道は歪み、勢いのまま斜め下へと逸れる事によって不発に終わった。
「ハァアアアアアアア!!!」
しかし、一撃で決まる訳がないという事は、これまでの戦闘でドラグバーンも十二分に理解している。
右の拳を空振ったドラグバーンは、体を捻って下から掬い上げるような左拳を繰り出してきた。
右ストレートから左アッパーへ繋げるコンビネーション。
今度はそれを右手の黒天丸で受ける。
使う技は歪曲ではなく流刃。
左へ軽く跳び跳ねて拳の軌道から逸れながら攻撃を受け流し、その力を利用して空中で右回転。
勢いの乗った左足を、後ろ回し蹴りの要領でドラグバーンの土手っ腹に叩き込んだ。
「ぬぉ!?」
ドラグバーンにダメージはない。
当たり前だ。
黒天丸で眼球を斬りつけても軽傷なのに、蹴ったくらいでダメージを与えられる訳がない。
だが、俺の狙いはダメージを与える事ではなく、吹き飛ばしてステラから引き離す事だ。
その為に、斬撃ではなく蹴りを使った。
誤算だったのは、胴体への軽い接触だけで足に結構な火傷を負った事か。
「ッ!」
さすがはマジックアイテムと言うべきか、足鎧はあの程度の接触なら耐えてくれた。
しかし、それに守られてる筈の俺の肉体が脆すぎる。
正直、間合いを保っていても、ドラグバーンが発する熱気だけで、かなりキツイ。
恐らく、刀の間合いの内側にまで入られて、その状態が5秒も続けば、俺は溶けるか燃え尽きるだろう。
今の蹴りみたいな事も、極力やらない方がいい。
「『
「『
火傷を無視して突撃しようとしていた俺に、エル婆とエルトライトさんから二種類の治癒魔法が飛んできた。
瞬時に発動できる下級の治癒と、こちらも下級の失った体力を回復させる魔法だ。
あえて下級の魔法を選んだのは、治癒魔法も他の魔法と同じで対象に命中させる必要があるから、発動速度を取ったんだろう。
激しく動き回る相手には当てづらく、下手をすれば敵に当ててしまう可能性もある。
それを考えて即座に下級魔法を選ぶとは、さすが歴戦の魔法使い。
ナイスアシストだ。
新米聖女にも見習ってほしい。
なんにせよ、これで大分楽になった。
俺は軽くなった体でドラグバーンに突撃を敢行する。
「『
そんな俺に対し、ドラグバーンは何度も見せた単純な攻撃での迎撃を選択。
カウンター大いに結構と言わんばかりだ。
反撃を食らっても大したダメージにはならないとわかってるからこそ、徹底的に力でゴリ押すつもりらしい。
実際、下手な小細工されるより、よっぽど厄介なのは確か。
やはり、こいつは自分の強みをちゃんと理解してやがる。
「『歪曲』!」
それでも、見慣れた攻撃ならば対処できるのも道理。
怨霊丸による歪曲で、再びドラグバーンの拳を受け流す。
「『
ドラグバーンが嵐のような連続パンチを繰り出した。
さっきも使ってきた技を、さっきとは比べ物にならない蒼炎竜状態で繰り出す。
その様は、もはや嵐のようなという例えが陳腐に感じる程だった。
これは嵐のような攻撃どころの話ではない。
今のドラグバーンこそが、蒼い炎の嵐その物なのだ。
まさに意思持つ天災の如し。
だが、それがどうしたというのか。
天災に挑む覚悟がなくて、魔王軍となんか戦えるか。
例えどんなに強い敵が立ち塞がろうと、俺はいつもちっぽけな刀一本握り締めて、その全てを斬り払ってきたんだ。
そんなこれまでの戦いに比べたら、こんな状況屁でもない。
昔と違って、今の俺には仲間がいる。
俺の後ろには、誰よりも頼りになる幼馴染がいる。
もう、俺は一人で勝たなくていいのだ。
それがどんなに嬉しくて、どれだけ頼もしい事か。
一人で戦いを楽しむお前には、きっと死ぬまで理解できないんだろうな。
天災と化したドラグバーンに、俺は二本の刀を構えて立ち向かう。
刀一本増えただけで、俺の戦い方は大きく変わる。
この二刀の型は、一人で戦う為の型ではないのだ。
だって、そうだろう。
筋力に恵まれた英雄や剣聖ならともかく、無才の俺が刀の片手持ちなんかしたら、その刀に乗せられる力も、それを支える為の力も半減どころじゃなくなる。
流刃を使おうにも、斬りつける時に力を乗せられないから、ロクなダメージを与えられない。
黒月の威力はゴミになり、禍津返しを支えきれず、反天を繰り出す最低限の力も出ない。
十全に扱えるのは、歪曲と斬払いのみ。
出来立ての型だからこそ、俺の未熟さのせいで弱くなってる部分もあるだろう。
それを差し引いても、普通に一人で戦う分には、刀一本を両手で扱ってた方がよっぽど強い。
だが、十全に使える二つの技、歪曲と斬払いだけに限るのならば、この型の方が上手く使える。
特に歪曲に関しては、刀が一本増えるだけで、対応限界が倍どころではなく跳ね上がるのだ。
片方の手が使えない状況でも、もう片方の手で対応できる。
二ヶ所で同時に、あるいは交互に連続で歪曲を使える。
それは、こと防御面において、とてつもないメリットなのだ。
二刀の型は、攻撃の為の型じゃない。
逆に攻撃や反撃を捨てる事によって、防御のみに特化した型だ。
攻撃の全てを仲間に任せる事により、究極進化した絶対防御。
そして、
「二の太刀変型━━」
この技こそが、最強殺しの絶対防御の要。
まだ未完成の二刀の型を、それでも使用した最たる理由。
「『歪曲千手』!」
倍の手数を得た歪曲が、ドラグバーンの攻撃全ての軌道を歪めて受け流す。
二つの歪曲による相乗効果。
それは足し算ではなく、掛け算の領域の効果をもたらす。
一切の反撃ができない代わりに、命を捨てたドラグバーンの全力を封殺してしまう程に。
「なんだと!?」
これはさすがに予想外だったのか、ドラグバーンは驚愕の声を上げた。
その様子に、僅かに焦燥が浮かぶ。
しかし、すぐにそれを振り払って、次の攻撃を繰り出してきた。
「ならば、これでどうだ!」
ドラグバーンは拳の連打を続けたまま、口の中に炎を生み出して、ブレスの発射体勢に入った。
だが、そんな事をすれば集中力が分散し、拳の軌道がより単純になる。
俺は単純になった攻撃の軌道全てを読み切り、怨霊丸で受け流しながら僅かに距離を詰め、黒天丸をドラグバーンの口の中目掛けて振るった。
「三の太刀変型━━『斬払い・
出鼻を挫き、発射される前の魔法を霧散させる、斬払いの変型。
これによって、ブレスの炎は消失した。
撃ちたいのなら、また最初からだ。
そして、こんな攻防を繰り返している間にも、ステラの詠唱はどんどん進んでいく。
ステラに対して背中を向けている俺でも眩しくなる程、後方から凄まじい光が溢れている。
順調に超強力な光魔法の発動準備が進んでいるんだろう。
このまま時間を稼げば、俺の勝ちだ。
「ぬぅ! あれはマズイな……! 不本意だが、致し方あるまい!」
そんなセリフを呟いて、ドラグバーンが動きを変えようとする。
足に力が入り、重心が後ろへと移動した。
後方へ跳躍する気か。
もしや、俺を振り払って、ステラを直接狙う算段か?
正面突破に拘らずに最善手を打とうとするのは正しい判断だが、俺がそれをさせると思うなよ。
ドラグバーンの足が地面を蹴り、重心が完全に後ろに移動して足が地面を離れた瞬間を狙い撃って、黒天丸で左足首を刈るように振るう。
同時に怨霊丸による刺突を左胸に放ち、全力で押した。
「ぬぉ!?」
ドラグバーンは左足を掬われた上に、後ろへ移動しようとした瞬間に前から押され、思いっきり体勢を崩す。
尾で支える事によって何とか転倒は避けたようだが、後ろへの跳躍は失敗に終わった。
「言った筈だぞ。ここから先へは一歩も進ませないとな」
俺を無視して行けると思うな。
お前が先に進む方法は、ただ一つなんだよ。
「ステラの元へ行きたいのなら、俺を倒してから行け」
声を荒げる事なく、静かに研ぎ澄ました闘志を叩きつけながら、俺はドラグバーンに宣言した。
それを聞いたドラグバーンは、一瞬目を見開いた後に笑った。
「ハーッハッハッハッハ! そうか! そうだったな!」
まるで憑き物が落ちたように、ドラグバーンはことさら快活に笑う。
「どうやら俺が間違っていたようだ! 障害を避けて進むなど俺らしくもない! 立ちはだかるものは粉砕して進む! それが俺のやり方だ!」
そして、ドラグバーンは迷いのない目で俺を、俺だけを見据えて構えを取った。
「行くぞ、好敵手! お前を粉砕して勇者を潰す!」
「やれるもんならやってみろ」
「オォオオオオオオ!!!」
雄叫びを上げ、ドラグバーンが突進する。
今度は拳ではなく、肩から突っ込むショルダータックル。
攻撃と進撃を同時にこなす動き。
それに対し、俺はドラグバーンが加速しようとした瞬間を狙って飛び上がり、上から押さえつけるように両手の刀で歪曲を繰り出した。
バランスを崩し、ドラグバーンが地面に沈む。
しかし、次の瞬間には顔をこちらに向けて、溜めなしのブレスを放ってきた。
それを怨霊丸による斬払いで霧散させる。
今度はブレスを目眩ましに使い、炎の後ろから迫る全力パンチ。
黒天丸による歪曲で受け流す。
そこから、ドラグバーンの怒涛のラッシュが始まった。
「ぬぉおおおおおおおおお!!!」
右ストレート、左フック、右アッパー、左ボディブロー、回転しながら尾での薙ぎ払い、ブレス、炎の牙による噛みつき。
咆哮を上げながら、ドラグバーンは止まる事なく攻撃を繰り返す。
俺はその全てを、二本の刀で防ぎきった。
右ストレートを怨霊丸で逸らして。
左フックを黒天丸で逸らして。
右アッパーは、僅かに後ろへ下がりながら拳の下に刀の切っ先をあてがい、軌道が最もブレて上方向への力が強くなったタイミングで、峰を使って跳ね上げる。
左ボディブローは、後ろに下がった時の勢いで体を左に逸らして、俺にとっての右側、ドラグバーンの拳の外側から最適のタイミングで力を込めて、体の左側へ向けて受け流す。
回転して尾での薙ぎ払い。先読みしてジャンプする事で回避。
ブレス。怨霊丸による斬払いで相殺。
炎の牙による噛みつき。空中にいる隙を狙われたが、黒天丸を鼻先に突きつけて、迫ってくる顔の勢いを流刃で利用し、回転しながら身を屈めて牙を回避。二本の刀をドラグバーンの胴に叩きつけ、その反動を利用して着地。
これが、僅か一呼吸の間に起こった出来事。
同じような密度の攻防を何回も何十回も重ねて、ようやく数秒という時間を稼ぐ。
鼻血が出そうになる程集中した。
目が限界を訴えて血涙が出る程ドラグバーンを『観て』、徹底的に動きを先読みする。
一度でもミスればアウトだ。
一秒があまりにも長く感じる極限の死闘の中で、俺の剣が磨かれていく。
だが同時に、体力気力精神力がとんでもない勢いで削られ、限界という名の死がどんどん近づいてきている事を、他でもない俺自身が自覚していた。
しかし、そんな限界ギリギリのせめぎ合いに……俺は勝った。
「アラン! 出来たわ!」
後ろからステラのそんな声が聞こえた。
耳がその言葉を受け取った瞬間、俺は脊髄反射で敵の攻撃を反撃ではなく移動の為の推進力として使う技、激流加速を使ってドラグバーンの攻撃を受け流し、ステラの射線を通す為に即座に奴から離れる。
勢いに乗って離れる瞬間、ステラの方に目を向ければ、まるで太陽の放つ光全てを一本の剣に圧縮したかのような、純白の極光を放つ聖剣を構えた女勇者の姿が。
今の聖剣からは、その力を向けられていない俺でも思わずゾッとするような、それこそ蒼炎竜となったドラグバーンすら圧倒する絶大な力を感じた。
あれが決まれば勝てる。
そう確信する程の。
だが、その感覚を誰よりも強く感じているのは、標的にされたドラグバーンだろう。
奴は、俺が離脱したと見るや、獣の生存本能をフルに発揮し、全力の回避行動を取った。
しかし、そんなドラグバーンの足が止まる。
足下から絡み付いてきた、無数の光の鎖に全身をからめとられる事によって。
「「「『
「な、なんだと!?」
それは、エル婆とエルトライトさんを中核に、多くのエルフ達の放った捕縛の魔法だった。
見れば、全滅したんじゃないかと心配していたエルフ達が、溶解した城壁の向こうから杖を構えている。
傷ついてこそいるが、その数はあまり減っていないように見えた。
彼らの近くには、疲労困憊の様子のリンの姿。
どうやら、俺がドラグバーンを食い止めている間にリンによって治療され、この瞬間の為に魔法の発動を進めていたようだ。
時間をかけて編み込まれた聖なる鎖は、ドラグバーンの動きを一瞬確かに止めてみせた。
その一瞬こそが、致命的なドラグバーンの隙だ。
そんなドラグバーンに向け、満を持して勇者の最強技が放たれる。
「『
溜めに溜め込んだ力の全てを三日月状の刃に圧縮した、一撃必殺の斬撃。
それが回避を封じられたドラグバーンに迫る。
ドラグバーンは力任せに聖なる鎖を引きちぎり、体の前で両腕を交差して、ステラ渾身の一撃を耐えようとした。
「ぬぅううううぉおおおおお!!!」
だが、三日月の刃は止まらない。
ドラグバーンの腕を斬り裂きながら、前へ前へと進んでいく。
その体の全てを切断すべく、断罪の刃は前進を続ける。
それでも、ドラグバーンは破滅に抗った。
ドラグバーンの体が後ろに逸れる。
受け止めるのは無理と判断し、上に向けて受け流すつもりだ。
しかし、そう簡単にいく訳がない。
今放たれているのは、勇者が長い時間をかけて放った、全力全開の一撃だ。
ドラグバーンの両腕がちぎれ飛ぶ。
だが、奴は牙で三日月の刃を噛んで文字通り食い止め、頑強な鱗と蒼い炎の鎧で無理矢理に耐える。
耐えて、耐えて、耐えて。
そうしてドラグバーンは遂に……耐えきってしまった。
「ふんぬぅううううう!!!」
三日月の刃が軌道をねじ曲げられ、上空に向かって飛んでいく。
ドラグバーンは両腕を失い、全ての牙が砕けかけ、体にも大きな大きな裂傷が刻まれているが、まだ致命傷には届かない。
ステラの、いや俺達全員の渾身の一撃を、この化け物は弾き飛ばしたのだ。
「俺の、勝ちだぁあああああ!!!」
ドラグバーンが絶叫に近い雄叫びを上げ、口の中にブレスの炎を生み出す。
今の攻撃が不発に終われば、もう俺達に決定打足り得る攻撃はない。
俺も限界が近く、これ以上ドラグバーンを抑えてはいられないだろう。
エルフ達も疲労困憊。
ステラも多分、殆どの魔力を使い果たしてる。
そして、ドラグバーンはあの傷付いた体で、己の命が燃え尽きるまでの間に、俺達を倒しきれると確信しているのだ。
このまま戦い続ければ、ドラグバーンを討ち取るまでの間に、俺達の敗北と言えるだけの被害が出てしまう。
だがそれは、今の攻撃が不発に終わればの話だ。
「いいえ、ドラグバーン。━━
「!?」
ステラがそんな言葉を発し、ドラグバーンは驚愕しながら上を見る。
そこにあるのは、受け流された三日月の刃。
そして、この状況を見越してドラグバーンの上を取っていた俺の姿だ。
「お前なら、ステラの全力攻撃ですらも弾くかもしれないと思ってたよ」
だからこそ、この俺の行動は最後の保険。
正真正銘、最後の切り札。
「五の太刀変型━━『光返し』!」
敵の遠距離攻撃をそのまま相手に返す技、五の太刀『禍津返し』。
その変型である、味方の攻撃の軌道をねじ曲げて返す必殺剣が炸裂する。
俺は怨霊丸を手放し、黒天丸だけを両手で握り締めて。
三日月の刃を絡めとり、黒天丸の斬撃と共に、ドラグバーンの首筋に叩き込んだ。
「うぉおおおおおおお!!!」
「ぬぁあああああああ!!!」
俺は黒天丸に全力の力を込め、ドラグバーンは首筋の筋肉に力を込めながら蒼い炎の鎧を纏わせて、最後の攻防を繰り広げる。
ピシリと、何かがヒビ割れる音がした。
刃を握る手を通じて俺には伝わってくる。
これは、黒天丸の悲鳴だ。
これまでの戦いで酷使し、蒼い炎と何度もぶつけ、最後には勇者の全力技の制御にまで使って、さすがの黒天丸にも限界が訪れてしまった。
すまん黒天丸、耐えてくれ。
あと一撃だけでいいんだ。
かつての大英雄『剣聖』シズカを支え続けたお前の力に頼らせてくれ。
そんな俺の意思が通じたかのように、黒天丸はピシリピシリとヒビを広げながらも、折れる事なくドラグバーンの首筋を切り裂いていき……
「ハーッハッハッハッハッハッハ!」
唐突に、ドラグバーンが笑い声を上げた。
それが勝利を確信した声に聞こえて、俺の心臓が跳ね上がる。
だが、違った。
ドラグバーンの、この笑みは、
「見事ッッ!」
己を打倒した者達に送る、称賛の声だったのだ。
ドラグバーンの首が切断され、宙を舞う。
首を失ったドラグバーンの体がゆっくりと倒れる。
動き出す気配はない。
今まで感じていた圧倒的な威圧感も消えている。
死んだ。
最後の最期まで、牙を剥き出しにした凶悪な笑みを浮かべたまま、ドラグバーンという魔族は命を散らしたのだ。
それを確認して、俺は最後まで耐えてくれたヒビだらけの黒天丸を天に掲げた。
「「「う、うぉおおおおおおお!!!」」」
エルフ達が勝利に沸き立ち、喜びに満ちた絶叫を上げる。
エル婆とエルトライトさんは、ホッと息を吐きながらも、新たな脅威が来ないか警戒し。
リンは完全に気が抜けた様子で、ペタンと尻餅をつく。
そして、ステラは、
「やったわね!」
「ああ」
俺の傍に駆け寄って来て、おもむろに左手を上げた。
俺もまた左手を上げ、俺達は力強いハイタッチを交わす。
また手加減をミスったのか、ミスリルの籠手越しなのに手が痛いが、その手の痛みが、戦いの終わりと勝利の実感を俺に伝えてきた。
「勝った……!」
最後に、噛み締めるようにそう呟く。
こうして、エルフの里で発生した『火』の四天王ドラグバーンとの死闘は、俺達の完全勝利で幕を閉じたのだった。
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