43 蒼炎竜
「ブレイド様!? ブレイド様ァ!」
「落ち着くのじゃ、リン! 今、お主がブレ坊の所に駆けつけたら戦線が瓦解する! ここは回復部隊に任せよ!」
「その通りです! 回復部隊、至急ブレイド殿の保護と治療を!」
「「「ハッ!」」」
悲鳴を上げるリンをエル婆が宥め、エルトライトさんがブレイド救出の指示を出している声が聞こえた。
これでブレイドは大丈夫だろう。
一応はガードも間に合っていたし、即死でもしてない限りは助かる筈だ。多分。
それより今は、こいつから目を離す余裕がない。
蒼い炎を纏ったドラグバーンが突撃してくる。
狙いはステラだ。
背中から蒼炎を噴射し、失った翼の代わりの推進力にして、ドラグバーンは超速でステラへと迫る。
その速度は、ルベルトさんの刹那斬りを彷彿とさせた。
悪い冗談のようだ。
あの巨体が、目で追えない程の速度で動くなんて。
しかし、それを迎え撃つのは勇者であるステラだ。
俺と違って、ちゃんとドラグバーンの動きを目で追っている。
ステラは超速で繰り出されたドラグバーンの拳を聖剣で受け流し、反撃のカウンターで腹を斬りつけた。
だが、
「嘘でしょ……!?」
ステラが信じられないと言わんばかりの驚愕の声を上げた。
カウンターを諸に食らったドラグバーンは……まさかの無傷。
いくら咄嗟で無詠唱魔法すら纏っていない一撃だったとはいえ、強化された聖剣の攻撃を食らって完全に無傷かよ……!
どうやら、あの
「ぬぉおおおおおお!!!」
ドラグバーンが拳を振りかぶる。
胴に斬撃を止められた状態で静止してるステラ目掛けて、上から叩き潰すように蒼炎を纏った拳を繰り出す。
マズイ!
「ステラッ!」
俺が叫んだ直後、ドラグバーンの拳が大地を揺らした。
比喩でもなんでもない。
地面に叩きつけられた拳が、巨大なクレーターを作るだけじゃ飽き足らず、強烈な衝撃波を撒き散らすと共に、巨大な地響きのように大地を揺らしたのだ。
その衝撃で、エルフ達の足場となっていた城壁が崩壊。
この程度で死ぬエルフ達じゃないだろうが、これで上から一方的に魔法を放てていた地の利は失われた。
だが、肝心のステラはなんとか今の攻撃を受け流せたらしく、衝撃波で吹き飛ばされ、所々に火傷を負いながらも、軽傷と言える程度のダメージで生還していた。
一安心……と言いたいところだが、そうもいかない。
ドラグバーンが追撃の構えを見せている。
体勢の崩れたステラに、さっきの超速攻撃を何度も叩き込まれるのはマズイ。
俺は全力で駆けてドラグバーンに肉薄し、背後から斬りかかった。
暴風の足鎧のおかげで、大地が揺れている間も宙を駆けて距離を詰められたのが大きい。
この攻撃で手傷を負わせる事は期待していない。
ただ、移動に合わせて攻撃を食らわせ、体勢を崩す!
「『
しかし、ドラグバーンはステラへの追撃をやめ、俺を迎撃する事を選んだ。
振り回した尾による一撃が俺に迫る。
俺を警戒してくれてるからこその対応なんだろうが、それは嬉しい誤算だ。
そう来てくれるのが一番助かる。
「『流刃』!」
俺は横薙ぎの尾の攻撃を飛び上がって回避し、下を通り過ぎる尾に黒天丸をぶつけて反動を得る事によって流刃を発動させた。
ドラグバーンの動きは、俺の目では追えない程に速い。
だが、同じく目で追えないルベルトさんの刹那斬りだって俺は防いでみせた。
目で追えないのなら、動きを完璧に読めばいい。
剣の達人だったルベルトさんに比べれば、単純極まりないドラグバーンの動きは至極読みやすい。
ドラグバーンの一撃を回転力に変えて、そのまま突撃の勢いと弾かれた時の衝撃を利用して奴の頭を飛び越え、天地が逆転した体勢でドラグバーンの眼球に向けて刃を振るった。
向こうから迎撃を選択してくれた以上、ステラへの追撃は気にしなくていい。
なら、ここは少しでもダメージを与えうる可能性に賭ける。
「ッ!?」
だが、そう上手くは行かない。
俺の攻撃では、眼球すら斬れなかった。
傷を付ける事こそできたが、それこそ瞬き一つの間に完全回復される。
強化されたドラグバーン自身の力を利用する流刃を使ったにも関わらずだ。
防御力の上昇率も予想以上。
回復力すら、凄まじい強化がされている。
命を代償にしているだけの事はあるって事か。
「『
攻撃を防がれ、空中にいる俺目掛けてドラグバーンの拳が飛ぶ。
この攻撃の威力も桁違いだ。
よく見れば、拳自体はさっきのステラの攻撃で壊れたままだというのに。
ドラグバーンのますますの化け物っぷりに慄きながら、動きを読んで攻撃を捌く。
今の体勢は眼球への攻撃の為に宙に飛び上がり、しかも上下が反転してる状態。
しかも、刀は振り切った後。
そんな状態で、今のドラグバーンの超速攻撃を受け切るのはキツイ。
だから、今回は防がない。
残っていた流刃の勢いに加え、足鎧の発生させる風を蹴って下へ加速。
眼球の前という文字通り目の前にいた俺に向けて斜め下から振るわれた拳を、真下へ加速する事で回避する。
そのまま体を回転させ、今度はドラグバーンの腹の前で足鎧の風を蹴り、離脱。
さっき吹っ飛ばされたステラの前に着地して、改めて刀を構えながら次の動きを警戒した。
そして、俺がドラグバーンから離れたタイミングで、別の方向からの攻撃が奴を襲った。
「「「『
「「「『
「「「『
「「「『
「「「『
「「「『
「「「『
雷、氷、水、土、風、闇、光。
崩れた城壁の上からエルフ達が放った、魔導の基本八属性の中で、どう考えてもドラグバーンに効かなそうな火を除いた全属性の魔法がドラグバーンの全身を撃ち抜く。
「「『
最後には、またしても賢者二人による最高火力の直撃。
さっきまでなら充分にダメージを与えられていた連続魔法攻撃。
だが……!
「効かぬ! 効かぬわッ!」
今のドラグバーンには、致命打足り得ない。
魔法の嵐に打たれても、蒼炎竜となったドラグバーンは平然としていた。
与えたダメージは即座に再生していく。
それどころか今まで与えたダメージすら、聖剣で付けた傷すらも徐々に回復してるように見える。
どんだけだよ。
「オォオオオオオオ!!!」
ドラグバーンが咆哮を上げ、口の中に炎が生み出される。
もう何度目になるかもわからないブレス。
だが、このブレスは今までのブレスとは別物だ。
その蒼い炎の塊からは、まるで、この世の全てを焼き尽くすかのような膨大な熱量を感じる。
「『
そして、蒼いブレスは放たれた。
全方位から降り注ぐ全ての魔法を薙ぎ払うように、首を振ってぐるりと回転しながら放射された蒼い炎は、あらゆる属性の魔法を焼き払い、残っていた結界すらも容易く溶かして、エルフ達に襲いかかった。
城壁の残骸と共に、エルフ達が炎に包まれていく。
……全滅か?
いや、魔法と結界でブレスの威力は削がれていた。
生き残った奴だってそれなりにいる筈だ。
それでも、あの大軍勢をこうも容易く……!
目に見える範囲で無事が確認できるのは、すぐ傍にいるステラと、ブレスを防ぎ切ったらしいリン、エル婆、エルトライトさんの聖戦士三人だけだ。
他のエルフ達も戦線復帰してほしいところだが……すぐには難しいだろうな。
「ステラ、傷は大丈夫か?」
「……ええ、もう完全に治したわ」
「そうか」
ステラが無事なら、まだ勝ち筋はある。
敵は強大だ。
あれだけ強いエルフ達を、こうも容易く蹴散らす程に。
あれが命を引き換えにして得た力だと言うのなら、もしかしたら逃げて自滅するまで待つのが最善手なのかもしれない。
だが、あの速度相手にいつまでも逃げ回れるとは思えないし、ドラグバーンの命があとどれくらいで燃え尽きてくれるのかもわからない。
逃げ切り狙いは得策じゃないだろう。
なら、覚悟を決めて前に出るとする。
「あれを相手にちまちまと攻撃してても意味がない。お前は大技の詠唱に入れ。あいつに一撃で致命傷与えられる強烈なやつのな。それまでの時間は俺が稼ぐ」
「アラン……」
「大丈夫だ」
俺は一人でドラグバーンの前に歩み出ながら、後ろのステラに向けて、振り返らずに声をかける。
「俺を信じろ。俺は勇者を相手に勝ち越した男だぞ」
後ろに庇う大切な幼馴染に向けて、精一杯カッコつけた、精一杯の強がりを。
だけど、別に虚勢じゃない。
やり遂げる自信がある。
やり遂げるという意志がある。
この程度の実力差、このくらいの修羅場、俺は何度も潜ってきた。
「……わかったわ! 任せたからね!」
「おう」
ステラは俺を信じ、魔法の詠唱を始めてくれた。
そんなステラの前方に、何重もの結界魔法が展開された。
リン達の魔法だ。
これなら、余波くらいは気にせずに戦えそうだな。
ありがたい。
俺は少しだけ微笑み、その笑顔もすぐに消して、鋭くドラグバーンを睨みつけながら奴の前に歩み出た。
「ほう! 一人で向かって来るか!」
別に一人で戦うつもりはない。
ステラに背中を任せたからこそ、リン達のサポートがあるとわかってるからこそ、他のエルフ達だってその内復活してくれると信じてるからこそ、俺はお前に立ち向かえるんだ。
だが、そんな事を言う必要はない。
俺がこいつに言うべき事は、たった一つだ。
「ドラグバーン。お前をここから先へは一歩も行かせねぇよ」
絶対の意志を込めて、そう宣言する。
それを聞いてドラグバーンは……笑った。
侮蔑を含んだ嘲笑などではない。
徹頭徹尾、最初から最後まで変わらない、戦える事が嬉しくて嬉しくて堪らないという、歓喜の笑みだ。
「クハハハ! ハーッハッハッハ! いい覚悟! いい心構え! この
「そりゃどうも」
そんな言葉を返しながら、俺は腰から刀を引き抜いた。
この世界での俺の最初の相棒『怨霊丸』を。
右手に黒天丸。
左手に怨霊丸。
これは奇しくも、怨霊丸の元の持ち主が使っていたという、この刀の本来の使い方だ。
「最強殺しの剣変型・二刀の型」
これが俺の切り札。
前の世界では到達できなかった、仲間と共にあるからこそ辿り着けた、最強殺しの剣のもう一つの可能性。
この力で、お前を倒す。
「来い」
刃を構え、ただそう告げる。
ドラグバーンは牙を剥き出しにして更に凶悪な笑みを浮かべ、突撃を開始した。
最後の攻防が、始まる。
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