26 再会

 暴風の足鎧の力を使い、空を駆け上がって教会のバルコニーに到達する。

 手すりの上に着地し、そこから少しだけ下を見下ろせば、本当に久しぶりに間近で見るステラが居た。

 ついでにリンとかの姿も見えるが、今は気にならない。


 手すりから一段下に降り、ステラの目の前にやって来る。

 ああ、本当に長かった。

 やっと……やっと、こいつが触れられる距離に……。


「久しぶりだな、ステラ」

「……お」

「お?」

「遅いのよバカァ!」

「ぐふっ!?」


 こいつ!?

 あろう事か、この感動の再会の場で、俺の胸に頭突きをかましてきやがった!

 衝撃がミスリル製の胸鎧を突き抜けてきたじゃねぇか!

 なんて非常識な!


「うぅ……ぐす……!」


 と、一瞬思いかけたが、どうやらこいつは頭突きしてきた訳じゃないらしい。

 ステラは、俺の胸で泣いていた。

 こいつは頭突きしてきたんじゃなくて、抱き着いてきたのだ。

 久しぶりにステラの涙を見た俺は動揺し、咄嗟にステラの背中に手を回していた。


「寂しかったんだから! 心配してたんだからぁ!

 そりゃ、いつかは迎えに来てくれるって信じてたけど、でも前みたいに大怪我してないかとか、もしかしたら死んじゃったんじゃないかとか、会えない時間が長くなる程に怖くなったのよ!?」

「ステラ……」

「せめて……せめて定期的に会いに来なさいよ! それが無理なら手紙くらい出しなさいよ! バカァ!」

「……すまん」


 俺は泣きじゃくるステラを抱き締めながら、よしよしと頭を撫で続けた。

 悪かったな、長い事一人にさせて。

 いくら強くなる事を最優先にしてたとはいえ、ステラの言う通り手紙くらいは出しておくべきだった。

 俺の方は、魔王討伐の旅に出るまでは王国の戦力に守られてるから大丈夫だろうとステラの無事を確信できたが、ステラの方には俺の無事を知る術なんて無かったのだから。


 やがて、不安をぶちまけて落ち着いてきたのか、ステラは小さな涙声でこう言った。


「迎えに来てくれて、ありがとう……!」


 その言葉にどれだけの感情が籠ってるのか、それを肌で感じ取って、俺はステラを抱き締める力を強めた。


「ああ。もう大丈夫だ。もう離れないし、もう一人にしない」

「……約束だからね」

「ああ」


 絶対に破れない約束、三つ目だな。

 二つ目は、一緒に戦おうという約束。

 最初の一つは、絶対にステラを最後の最後まで守り抜くという、俺の誓い。

 ようやく、それを果たせるスタートラインに立てた。

 ここからだ。

 ここから、俺達の戦いは始まる。

 嬉しさと達成感で胸が痛い。

 いや、本当に胸が潰れるような痛みが……


「……って、痛たたたたた!?」


 これは感慨による痛みじゃないぞ!?

 物理的な痛みだ!

 感動的な抱擁だった筈が、ステラの力が強すぎて絞め付け攻撃になっている!


「痛いわボケ! 力加減を考えろ!」

「あう!?」


 思わず全力でひっぺがして、ツッコミのチョップをステラの頭に叩き込んだ。

 冗談じゃねぇ……!

 せっかくここまで来たのに、感動の抱擁による圧死なんて間抜けな死に方晒せるか!


「な、何よー! そこは黙って受け入れてくれるのが男ってもんじゃないの!?」

「やかましい! お前の馬鹿力は注意して受けないと洒落にならないんだよ!」

「久しぶりの再会で馬鹿力とか言うなぁ! このデリカシーゼロ! 体臭キツメ男!」

「誰が体臭キツメだ!? これは装備の臭いだ! この羽織とか長い事迷宮に放置されてた上に、しょっちゅう返り血とか浴びるから、どうしても臭くなるんだよ!」


 ギャーギャー。

 そう表現するのが相応しい、まるで子供の喧嘩のような言い合いを俺達は繰り広げた。

 とても、人類の救世主たる勇者と、聖戦士を超えた英雄の会話とは思えない、下らないやり取り。

 子供の頃と全く変わらない、実の兄妹のような遠慮のないやり取り。

 久しぶりのそれは、やけに楽しくて。

 会えなかった時間が一瞬にして埋まっていくようで。

 俺達はここが勇者の出立式の場である事も忘れて、ヒートアップし続けた。


「な、仲良いですねー」

「「どこがだ(よ)!?」」


 最後に、俺達の共通の知り合いであるリンがポツリとそんな事を口走り、思わず反発してしまった事で、このやり取りは終わりを告げた。

 尚、認めたくはないが、俺達の口元が緩んでいたのは言うまでもない。






 ◆◆◆






 『勇者』ステラと、『剣鬼』アランの

 それは、一人の少年が愛する少女の為に、加護の差という神が定めた絶対の運命を乗り越えて結ばれた奇跡の物語として、長く後世に伝わっていく事となる。


 後に、世界で最も有名な恋物語とまで呼ばれるようになるが、二人が再会した時に起こした痴話喧嘩だけは、しょうもなさ過ぎて、後世の作家や脚本家の頭を大いに悩ませる事になったとか。

 しかし、それはまた別のお話━━。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る